5分で分かる「働き方改革」とは?取り組みの背景と目的を解説
2019年4月1日より、働き方改革関連法案の一部が施行され、現在「働き方改革」は、大企業だけでなく中小企業にとっても重要な経営課題の一つとして、世の中に認知されてきています。
厚生労働省が2019年に発表した定義によれば、『働き方改革とは、働く人びとが、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革』とされています。
近年、日本が直面している「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や、「働くスタイルの多様化」などの課題・変化に企業は対応していく必要があり、そのためには労働生産性の向上や、従業員満足度向上を実現する環境づくりが求められています。
一方で、「そもそも働き方改革とは具体的にどのようなものなのか」「どのような対策を企業は取っていけば良いのか?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
そこでこの記事では、次の2点についてわかりやすくまとめました。
- 政府が掲げる働き方改革の目的と課題
- 働き方改革の具体例
取り組みの基礎を理解すれば、働き方改革は決して難しいものではありません。ぜひご確認ください。
目次
働き方改革とは
働き方改革とは、労働環境の質の向上と生産性の向上を目指し、長時間労働の是正、柔軟な働き方の推進、女性や高齢者など多様な人材の活用を促す国や企業の取り組みです。テレワークの普及、育児・介護休業制度の充実、正規と非正規の格差是正などが主な施策として挙げられます。
まずは、働き方改革の「目的」と「背景」についてみていきましょう。
働き方改革の目的:「一億総活躍社会」の実現
働き方改革とは、端的にいえば「一億総活躍社会を実現するための改革」です。一億総活躍社会とは、少子高齢化が進む中であっても「50年後も人口1億人を維持し、職場・家庭・地域で誰しも活躍可能な社会」のことをいいます。
首相官邸Webサイト「働き方改革の実現」でも次のように示されています。
働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます。※引用:首相官邸「働き方改革の実現」
働き方改革の背景:生産年齢人口が想定以上に減少
政府が一億総活躍社会を目標に掲げている背景には「生産年齢人口が総人口を上回るペースで減っていること」が挙げられます。 労働力の主力となる生産年齢人口 (15〜64歳)が、想定以上のペースで減少しているのです。
総人口は2105年には4500万人に減少の予測
まず内閣府が発表している、日本の将来人口推計を確認してみましょう。
※引用:内閣府「人口・経済・地域社会の将来像」
現在の人口増加・減少率のままでは、2050年には総人口9000万人前後、2105年には4500万人まで減少するといわれています。
次に、実際の働き手となる「労働力人口」をみてみましょう。
労働力人口(生産年齢人口)は2060年にはピーク時の半分に
労働力人口は、第二次ベビーブームに生まれた団塊ジュニアが労働力として加わった24年前がピークでした。
平成7(1995)年には、8000万人を超えていましたが、それ以降は減少の一途をたどっています。
※引用:国立社会保障・人口問題研究所HP
国立社会保障・人口問題研究所が発表した、出生中位推計の結果によれば、生産年齢人口は
- 平成25(2013)年には8000万人
- 令和39(2027)年には7000万人
- 令和63(2051)年には5000万人
を割り、令和72(2060)年には4418万人となる見込みです。
このままでは、国全体の生産力低下・国力の低下は避けられないとして、内閣が本格的に「働き方改革」に乗り出したという背景があります。
働き方改革の背景:長時間労働の深刻化
働き方改革の背景には、長時間労働の深刻化があります。日本では、高い生産性を維持するため多くの労働者が長時間労働を行っています。これは、企業の競争力を高める一方で、労働者の健康や家庭生活に悪影響を及ぼす大きな問題となっています。
その結果、過労死や心身の病を抱える人が増えてしまい、労働者の幸福度の低下が国際社会からも問題視されるようになりました。このような状況を受け、政府や企業は働き方改革を推進し、労働時間の短縮、フレックスタイム制の導入、リモートワークの普及などさまざまな施策を実施しています。
これらの施策の実施は、労働者の労働環境を改善し、生産性と労働者の生活の質の向上につながると予想されています。長時間労働の深刻化は、単なる労働問題ではなく、企業の持続可能性や社会全体の幸福にも影響を与える重要な課題であるといえるでしょう。
働き方改革の背景:生活環境と労働の多様化
働き方改革は単に労働時間を短縮することではなく、生活環境の変化と労働の多様化に対応するために必要な動きです。
現代の生活様式は急速に変化しており、具体的には、家族構成の多様化や都心と地方のライフスタイルの差異、世代による価値観の違いなどが挙げられます。多様な背景を持つ人びとが増えることで、働く場に求める条件もまた変わりつつあります。このような社会の変化に対応するため、柔軟な労働時間、テレワークの普及、キャリアの多様性を認める文化の醸成など、従来の働き方に見直しが求められているのです。
働き方改革では、このような新しい働き方に対応した施策を導入し、労働者一人一人のワークライフバランスを整えられる働き方を目指しています。仕事と生活のバランスが取れた社会が実現し、人びとがより豊かな生活を送ることが働き方改革の目標です。
労働力不足解消の3つの対応策
上記に挙げた、労働力不足の解消には以下3つの対応策が考えられます。
- 働き手を増やす(労働市場に参加していない女性や高齢者)
- 出生率を上げて将来の働き手を増やす
- 労働生産性を上げる
働き手を増やす(労働市場に参加していない女性や高齢者)
労働力不足解決の鍵を握るのは労働市場への未参加層、特に女性や高齢者の労働参加です。女性や高齢者は潜在的な労働力として大きな可能性を秘めているものの、さまざまな障壁によりなかなか活躍できていない現状があります。
例えば女性の場合、これまで育児や家事といった理由からフルタイム労働を避けてきた傾向があります。また「家事や育児は女性の仕事」というイメージがいまだに残っていることも影響しているでしょう。これらの問題を解決するためには、男性の家事への参加や、育休の取得などが求められます。
さらに、高齢者に関しても健康で活動的な高齢者が増えており、彼らの豊富な経験やスキルは多くの業界で重宝されています。
出生率を上げて将来の働き手を増やす
日本の出生率は年々減少傾向にあり、将来的にも人手不足に陥ってしまう可能性が高いといわれています。
人材不足問題に直面する中、政府は企業と連携し、仕事と子育ての両立支援策に力を入れています。取り組みの目的は、育児環境を整えることでの出生率向上と育児を抱える労働者の職場復帰や長期的な勤務を促し、働き手不足の解消に貢献することです。
具体的には、育児休暇の拡充や柔軟な勤務形態の推進、保育所の増設などの施策が行われています。働く親の負担軽減と仕事への意欲向上を図ることで、社会全体の働き手を増やす効果が期待されているのです。
労働生産性を上げる
実は、日本の労働生産性はOECD加盟国の全35カ国の中で22位となっており、主要7カ国の中で最下位です。
労働生産性については、別記事「労働生産性とは?混同しがちな定義と計算式をわかりやすく解説」で詳しく解説していますが、国全体の生産を維持するためには労働生産性の向上が不可欠です。
働き方改革の具体的な4つの課題
働き方改革の具体的な課題として、大きく以下の4つが挙げられます。
・長時間労働の解消
・非正規社員と正社員との格差是正
・高齢者の就労促進
・働き方改革関連法による「2024年問題」
ここからは、それぞれの課題についてみていきましょう。
課題(1)長時間労働の解消
日本の長時間労働については、2013年に国連から以下のような内容の是正勧告がされていました。
- 多くの労働者が長時間労働に従事している
- 過労死や精神的なハラスメントによる自殺が職場で発生し続けていることを懸念する
国際的にみても日本の長時間労働は深刻で、働き盛りの30〜40代の長時間労働の割合が特に多い状態です。
そして、残業や長時間労働だけでなく、転勤・配転の命令にも応じなければならない実情があります。
しかし上長からの命令を拒否すると、有期契約社員やパートとして働くことを余儀なくされる場合もあります。
次の項でお話しする非正規社員と正社員との格差も、「非正規への選択肢を選びにくくする」という点で、長時間労働・正社員の負担増加にも関わってきます。
また長時間労働の問題は、「出生率」にも影響すると考えられています。職場から長時間労働を求められる働き盛りの年齢と、出産・育児の年齢が重なるためです。
女性がキャリアの中断や育児との両立の不安から出産に踏み切れなかったり、男性も育児・家事への協力がしにくいという現象につながります。
働き方改革における長時間労働の改善施策
2016年9月、安倍晋三首相(当時)は内閣官房に設置した「働き方改革実現推進室」の開所式で、「モーレツ社員という考え方自体が否定される日本にしていきたい」という発言をしています。
戦後の高度経済成長期以来、働けば働くほど待遇が上がっていく状況の中で「睡眠時間が少ないことを自慢し、超多忙なことが生産的だ」といった価値観が生まれました。 しかし、現在は終身雇用制度あっての「モーレツ社員」は、時代に合わない価値観です。
その前提のもと、働き方改革では以下のような取り組みを実施していくことになります。ここからは、それぞれの取り組みについてみていきましょう。
・法改正による時間外労働の上限規制の導入
・勤務間インターバル制度導入に向けた環境整備
・健康で働きやすい職場環境の整備
時間外労働の法改正:36協定の見直しがポイントに
特に大きなポイントとなるのが「法改正による時間外労働の上限規制の導入」です。 日本では、フルタイム労働者の年間実労働時間が2,000時間前後と、20年近く横ばいとなっています。
本来であれば、1日8時間/週40時間を上限とする労働時間を超えて労働を行わせるためには、36協定の締結および届出が必要であり、その延長時間にも次のような上限基準があります。
・1カ月45時間
・1年間360時間
つまり、本来は1カ月に45時間、1年間で360時間しか残業させてはいけない決まりとなっているのです。
しかし、これには問題があり「特別条項」という条件を労使協定に加えることで、極論無制限に労働時間を延長できてしまいます。この特別条項に関する法律を見直すのが、働き方改革の取り組みの 一つです。
残業時間の特例は、次のように制限されることになりました。
・1カ月100時間
・2〜6カ月平均80時間
・月45時間を超えられるのは年間6回まで
同時に、労働基準監督署の立ち入り検査対象も増えてきています。 また、企業規模を問わず月60時間を超える時間外労働賃金の割増率を50%とする労働基準法の規定が 既に適用されています。
残業規制に関する基礎理解は、以下の記事からご確認ください。
働き方改革で残業時間の上限規制はどう変わる?ポイントや事例を解説
課題(2)非正規社員と正社員との格差是正
一般的に、日本の非正規社員の待遇は、正社員の時給換算賃金の約6割に留まります。欧州では8割ほどであることからも、両者の賃金格差は激しいといえます。
そして育児や介護の負担を抱える女性や高齢者が、正社員のようなある意味「制限なし」の働き方を選ぶのは、体力・時間的に限界があります。
結果的に非正規としての働き方を選ぶことになり、生産性を発揮する機会を損失しているのです。
非正規で働く方は労働者全体の約4割を占めます。この層の待遇・働き方の改善に早急取り組まなければならない状況にきていることは政府も認めています。
働き方改革における非正規・正社員の格差解消の施策
働き方改革では「非正規社員の待遇改善」に向けて、以下の取り組みを行なっています。
- 同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備
- 非正規雇用労働者の正社員化などキャリアアップの推進
非正規社員の賃金を、正社員に対して6割という今の現状から、欧米並みの8割まで引き上げようと目標を掲げています。
最低賃金の引き上げも、これまでの取り組みを継続し、2023年度には最低賃金が全国加重平均で1,000円を上回ることになりました。
非正規社員と正社員の格差問題に取り組んだ企業事例
非正規社員と正社員の格差問題に取り組んだ実際の事例として、以下2つも合わせてご覧ください。
コンタクトセンター運営業界の大手、株式会社ベルシステム24の企業事例
目的は従業員満足度向上の先にある業績向上、非正社員2万6千名に福利厚生の対象を拡大した事例
NTTグループ約18万人の従業員を対象に従業員満足度の向上に努めた企業事例
16年ぶりの改革!NTTグループ従業員約18万人が満足する福利厚生サービスを共に目指す
働き方改革の目玉「同一労働同一賃金」とは
「同一労働同一賃金」とは、労働によって同じ付加価値をもたらす人には同一の賃金を支払うべき、という考え方です。 政府はこれを、働き方改革の目玉の一つとして位置づけています。
実際に、2020年4月から同一労働同一賃金を含む法改正が行われ、各企業は対応をより強く求められるようになりました。
また、非正規のベテラン社員の給与が、新卒正社員よりも格段に安いといった点も是正されるべき方向で検討されています。その目的は「将来的に非正規という枠組み自体をなくし、従業員一人一人のライフステージに合わせた働き方を選べるようにする」という点にあります。
同一労働同一賃金の考え方についてより詳しく知りたい方は、ぜひ別記事「同一労働同一賃金」の本質とは何か?」も一読ください。
「同一労働同一賃金」に取り組む本当の理由
政府が「同一労働同一賃金」に取り組む理由として、「デフレの解消」が挙げられます。
政府は、物価上昇率2%を目標に掲げていました。しかし日本では、諸外国に比べて長い間賃金が上がっていません。
賃金が上がらず、節約志向が改善されない限り、デフレからの脱却は難しくなっています。
消費を促進し、インフレに向かっていくためにも、労働力の4割を占める非正規層の待遇改善は必須ということです。
同問題の最新情報については「同一労働同一賃金とは?法改正で大・中小企業が抑えるべきポイントと対策」でも紹介していますので、ぜひ併せてご覧ください。
課題(3)高齢者の就労促進
2017年の内閣府の調査※1によると、現在日本で仕事をしている高齢者の4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答しています。
また、70歳くらいまでもしくはそれ以上と回答と合計すれば、約8割が高齢期にも高い就業意欲を持っているといえます。
※引用:国立社会保障・人口問題研究所HP
「非正規の格差改善」によって出産・育児・介護による女性の働き方の制限をなくしていくことに加え、現在労働市場に入っていない高齢者の労働参画も重要です。
働き方改革における高齢者の就労促進施策
働き方改革では、主に以下の2つが大事な取り組みとなります。
- 継続雇用延長・定年延長の支援
- 高齢者のマッチング支援
まず、「働きたい」と考えている高齢者の就労環境を整えていく必要があると考えられるでしょう。具体的には、65歳以降の継続雇用延長や、65 歳までの定年延長を行う企業等に対する支援が検討されています。これには、企業における再就職受入支援や高齢者の就労マッチング支援の強化なども含まれます。
※1 参考:日本経済新聞|「65歳超えても働きたい」6割以上 16年厚労白書
課題(4)働き方改革関連法による「2024年問題」
働き方改革関連法の全面施行によって、企業は新たな課題に直面することが懸念されています。このような問題を「2024年問題」と呼んでいます。ここからは「2024年問題」が具体的にどのような問題であるか、どのような対策を講じる必要があるのかを確認していきましょう。
「2024年問題」による影響
2024年問題とは、働き方改革関連法の施行で一部業界の年間時間外労働時間が960時間(一部例外あり)に制限され、影響を及ぼすことです。
特に運送や物流業界では、ドライバーの時間外労働が制限されることによる人手不足の深刻化が懸念されています。人手不足の影響を受けると、配送遅延や配達コストの上昇につながる可能性があるのです。
また、建設業界や医療業界でも長時間労働が続いているため、人員不足や夜間診療の対応が困難になると予測されています。これらの業界では、技術革新や働き方の改革、外国人労働力の導入など多面的な解決策が求められています。
「2024年問題」を解決するための対策
2024年問題解決に向け、多くの企業にとって生産年齢人口の減少や、業務の非効率性をどのようにして克服するかが課題となっています。これらの課題を解決する手段の一つとして、既存業務の見直しやデジタルツールの積極的な活用が注目されています。
具体的な例としては、業務プロセスの簡略化や自動化を図り、働き方をより効率的かつ柔軟にする施策の導入です。クラウドサービスを活用してどこからでも作業できる環境をつくったり、AI技術を用いて繰り返し行われる作業を自動化したりする対策が行われています。
働き方改革関連法による11の変更点
「働き方改革関連法」の正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といい、ここからは、働き方改革関連法案の施行による11の変更点をそれぞれ解説します。
1.時間外労働の上限規制を導入
働きすぎを防ぐことを目的として、時間外労働の上限規制が導入されました。原則として月45時間、年間360時間を超える時間外労働を禁止するものです。
ただし、特別な事情がある場合には、月100時間未満、年間720時間以内 、年6回までという条件のもとで、例外的に時間外労働が認められます。この規制により、企業は労働管理の見直しを迫られ、労働環境の改善が期待されています。
2.「勤務間インターバル制度」の導入を促進
勤務間インターバル制度 は、労働者の健康を保護し、過労死を防ぐための制度です。労働者がある日の勤務終了から次の日の勤務開始までの間に、一定時間以上の休息時間を確保することを義務付けています。
具体的には、最低11時間の休息時間を設けることが推奨されています。企業がこの制度の導入を通じ、従業員の労働環境の改善を図れば、結果として生産性の向上を目指すことが期待できるでしょう。
3.年5日の年次有給休暇の取得
年間10日以上の有給休暇が付与される労働者には、年に5日の年次有給休暇を必ず取得させることが、雇用主に義務付けられました。
この変更により労働者が有給休暇を取得しやすい環境を構築することを目的にしています。雇用主はこの義務を遵守し、労働者が有給休暇を計画的に取得できるよう支援することが大切です。
4.月60時間超の残業の割増賃金率を引き上げ
2023年4月から、労働者の働きすぎを防ぐため、月60時間を超える残業の割増賃金率が引き上げられました。
従来、月60時間を超える残業に対して25%だった割増賃金率が、大企業と同様に50%に引き上げられたのです。労働者の権利が一層強化されることになります。
5.労働時間の客観的な把握
労働安全衛生法の改正により、企業に対して労働時間の客観的な把握が義務付けられました。長時間労働の抑制と労働者の健康管理をより強化するための措置です。
具体的には、勤怠管理システムの導入や、就業時間の正確な記録などが企業に要求されることになりました。これにより、労働者の健康への配慮と働きやすい職場環境の構築が一層推進されることが期待されます。
6.「フレックスタイム制」の清算期間を延長
これまで最大1カ月だったフレックスタイム制の清算期間が、最大3ヶ月まで延長されました。より柔軟な働き方を可能にするために導入されたものです。
この変更により、ピーク時の業務集中に対応しながら、オフピーク期には十分な休息を取るなど、働き方の多様化が進むことが期待されます。
7.高度プロフェッショナル制度の導入
高度プロフェッショナル制度は、特定かつ高収入な専門職に従事する労働者に対し、柔軟な労働時間を可能にするものです。働き方の多様性を促進することを目的としています。
高度な知識が必要な専門業務の場合に、特定の労働基準法を適用外にすることで、柔軟な働き方を実現しています。
8.産業医・産業保健機能を強化
企業に対して産業医や産業保健機能の強化が促されています。従業員の健康管理とメンタルヘルスケアをより一層重視し、職場内での健康問題に迅速かつ適切に対応できる体制を整備することが目的です。
具体的には、従業員に対する健康診断の実施頻度の見直しや産業医の訪問回数の増加、および産業保健スタッフの配置基準の厳格化などが盛り込まれています。
9.不合理な待遇差の禁止
パートタイム・有期雇用労働法施行により、企業内での雇用形態に基づいた不合理な待遇差が禁止されました。施行開始日は2020年4月1日で、中小企業は1年後の2021年4月1日でした。
この変更は、雇用形態に関わらず公正な待遇を確保することが目的です。政府は、すべての労働者が平等な扱いを受けるべきであるとの立場を明確にし、労働市場の公正性と透明性を高めることを目指しています。
10.労働者に対する待遇に関する説明義務を強化
働き方改革関連法により、有期雇用労働者に対しても労働条件や待遇の内容、職場での考慮事項について、雇用主が説明する義務が新たに定められました。正社員と同等の透明性を有期雇用労働者にも保証し、公正な扱いを受け職場環境での不確実性を減少させることが目的です。
企業には、契約期間、労働時間、休暇、給与計算の基準、必要に応じて終了条件など、重要な雇用条件の開示が求められます。
11.行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備
行政が企業に対して、契約期間が定められた労働者の労働権を保護するために、具体的な履行確保措置を講じることが新たに義務付けられました。
この変更により、これまで有期雇用労働者が含まれなかった行政施策が適用されるようになったため、有期雇用労働者の雇用状況の改善が期待されています。
コロナで変わった、これからの働き方改革
2023年5月8日、新型コロナウイルスが季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行することが決まったことを受け、働き方改革は新たな局面を迎えました。これからの働き方改革は、テクノロジーを活用しながら、労働生産性をいかに向上させるかが鍵となります。
変化1:テレワークの拡大
新型コロナウイルス感染症の流行は、働き方に革新をもたらしました。中でも、大きな変化の一つがテレワークの拡大です。以前は対面での業務が主流でしたが、緊急事態宣言や外出自粛要請を機に多くの企業がオンラインでの勤務体制へと移行しました。
しかし、東京都が2023年11月に行ったテレワーク実施率調査結果では、2022年11月には52.3%だったテレワーク実施率 が、2023年は41.4%と10%ほど 下がり、新型コロナウイルス感染症の落ち着きとともに出社が増えていることがわかります。
そのため、今後はテレワークと出社のバランスを取ることが求められ、業務内容に応じて適切に導入をすることが重要といえるでしょう。
テレワークに関する基本理解については「テレワークから始める働き方改革|基本理解と導入のヒントを紹介」にて解説しています。こちらもぜひご一読ください。
変化2:労働生産性向上が鍵に
テレワークが拡大し、通勤時間の短縮やムダな会議削減などのメリットがある一方で、個人の労働生産性をいかに向上させるかが企業価値を左右します。
離れた場所からの上司の監視は必要以上にせず、従業員に気持ちよくやりがいを持って働いてもらうにはどうすれば良いのでしょうか。
また、管理職の方においては、残業上限規制に関する知識を身に付けておく必要があるでしょう。
働き方改革において管理職の方が知っておくべき情報は「働き方改革で管理職の仕事はどう変わる?3つの変更点や役割を解説」でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
コラム:働き方改革の具体的な取り組み事例を紹介
ここまで、働き方改革の背景からメインの取り組みの内容までをお伝えしました。働き方改革がどのようなものか、その概要をご理解いただけたかと思います。
しかし「自分たちにどのような影響があるのか?」「自社でどのような取り組みをするべきなのか」、気になる方もいると思います。
最後にコラムとして、働き方改革に取り組んでいる民間企業の事例、トヨタ自動車と花王を例に挙げてお伝えします。
働く方は、会社でこういった点が変わる可能性がある、というひとつの参考になるでしょう。
経営者の方などで、大手企業だからできること…と思う方もいるかもしれませんが、従業員数が少なくとも実践できることもあります。
今回は、一部の企業ですが、別記事「働き方改革の事例を知りたい方に!具体的な取り組みが見つかるまとめ」でその他の企業についても紹介しております。
そちらもぜひ併せてご覧ください。
トヨタ自動車の事例:在宅勤務の新設、女性の就労機会の促進
トヨタ自動車は、働き方改革に対して先進的な取り組みを続けており、参考になる事例といえます。
まず、2015年に大きな人事制度改革を行い、工場従業員の賃金体系を見直しました。
賃金改定のポイントは2つです。
- 若手社員の賃金引き上げ:子育て世代に手厚く賃金カーブを変更
- 年功給から能力給の変更:若手以降は能力の発揮に応じて給与に差がつく
さらに、幅広い働き方の実現に向けた在宅勤務の新設や、女性の就労機会の促進が特徴的な働き方改革の取り組みも推進しています。
在宅勤務制度の新設
裁量労働制勤務またはフレックスタイム勤務をベースとしている職種の社員(事務員、技術員)を対象に、テレワークとしてFTL制度(Free Time and Location)を開始しています。
週1回、2時間の在社を義務化していますが、勤務場所は原則自宅です。
年次有給休暇取得の促進
有給休暇の取得促進の施策として、3Days Vacation(年1回以上、3連休での有給休暇取得)を推奨しています。
仕事と育児の両立支援
在宅勤務制度の対象ではない職場には、育児を行う社員を対象に、常に6時半~15時の勤務シフトとする常1直勤務制度を導入しています。これは、子どもが小学校4年生を修了するまで継続されます。
また、同じく子どもが小学校4年を修了するまで、勤務時間を6時間または7時間とする勤務時間短縮制度等も導入しています。
女性の活躍推進と育児支援
女性活躍推進のための育児支援に向けては、2002 年と早くから取り組んでいます。
0歳~小学校就学前までの子どもを対象にした事業内託児所を設置し、育児を行いつつ勤務する女性の支援を行っています。
交替制勤務の社員のシフトと残業時間に合わせ、早朝5:30から深夜2:30まで開園しています。
障がい者雇用機会の拡充
トヨタループス(特例子会社)では、
障がいを持つ方の雇用を促進しています。重度の身体障がい者や精神障がい者を対象に採用を行い、主に社内印刷、社内郵便物の受発信などの業務を行っています。
花王株式会社の事例:フレキシビリティとメリハリの両立
働き方改革における花王株式会社の具体的な事例として、以下の3つが挙げられます。
・休暇取得を1時間単位で行える仕組みの導入
・仕事と育児の両立支援の実施
・仕事と介護の両立支援への取り組み
休暇取得を1時間単位で行える仕組みの導入
「個人の都合で半日休暇を取得しても、数時間以内で用事が済むことが多い」といった社員の声を受け、子の看護休暇や家族の介護休暇を1時間単位で取得できる制度が設けられました。
制度の見直しにより、育児や介護などプライベートと仕事が両立できる柔軟な勤務時間の設定が可能となっています。また、就業時間中には「リフレッシュタイム」「思いやりタイム」「フレックスタイム」の活用が推進されています。こまめな休憩を取ることで業務効率化を目的とする取り組みです。
仕事と育児の両立支援の実施
育児はパートナーシップを核に進めること、そして時間の制約があっても個々の能力が最大限に生かされる職場環境を整えることを目的に、仕事と育児の両立を実現する支援が行われています。
支援の一つとして、復職に必要な準備や心構え、家庭や職場での協力関係を築くコツなどを学ぶセミナーが実施されています。また、社内託児施設を設けたり、男性社員の育児休業取得促進に取り組んだりした結果、2015年の花王グループでの男性の育児休暇取得率は対象者の約40%を実現しました 。
仕事と介護の両立支援への取り組み
2009年、社員を対象にした介護実態の調査で、介護に直面したときに起こる一番の問題は「心理的な負担」であることがわかりました。そこで、介護相談体制の強化や職場風土啓発を実施し、介護を行う社員にメンタル面からのサポートを中心に支援に取り組んでいます。
具体的な例としては、介護セミナーなどでの情報発信や、新任マネージャー向けのケーススタディ研修のサポートなどが挙げられます。
「働き方改革」何から取り組めば良い?
とお悩みの企業担当者の方へ
やるべきことが分からず、まずは今話題の残業の抑制から取り組んでみたという企業が約86%を超える中、その半数にも及ぶ、約44%の従業員が残業抑制に関する満足度を実感出来なかったと回答をしています。(※参考:LINE株式会社 livedoor NEWS 残業削減で「収入が減った」が3割 「生産性で評価して」という声)
このようにそもそもの目的を見失い、残業を減らしたり、休みを増やしたところで、従業員の満足度が下がればその施策は無意味なものとなります。
何から始めて良いのか分からない・従業員満足度を向上させたい、とお困りの企業担当者は、まずは福利厚生アウトソーシングサービスの導入を検討してみはいかがでしょうか。
福利厚生の充実は、従業員満足度の充実による労働生産性の向上、離職率の低下・採用力の強化(人材不足の補填)など、様々なメリットがあります。