労働生産性とは?混同しがちな定義と計算式をわかりやすく解説
近年「生産性」という言葉は、業務効率化の気運や長時間労働への課題意識が高まる中で、より注目されるようになってきています。安倍晋三内閣が打ち出した「働き方改革」でも、長時間労働の是正のため、労働生産性の向上は急務とされています。
しかし「労働生産性」という言葉の意味を正しく理解されている方はどのくらいいるのでしょうか。
また世界の主要国の中で「日本の労働生産性は低い」と言われていることが気になる方もいるでしょう。
しかし、企業の労働生産性と、国際社会として見る労働生産性は少し異なることを知っておく必要があります。
今回の記事では、初心者の方でもわかりやすいように「労働生産性」の定義とその算出方法について解説します。
ぜひ最後までご覧ください。
また、働き方改革については別の記事「5分で分かる「働き方改革」とは?取り組みの背景と目的を解説」にてくわしくご紹介しています。こちらも合わせてご確認ください。
もしもこの記事をご覧いただいている方の中で、自社の福利厚生制度についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、まずはじめに「企業担当者必見!「福利厚生サービス」のおすすめ5選を解説」の記事をお読みください。
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目次
1分でわかる「労働生産性」の定義と計算方法
まず「生産性」とは、投入資源と産出の比率を意味します。
投入した資源に対して産出の割合が大きいほど、生産性が高いということになります。
生産性=産出(Output)/投入(Input)
つまり労働生産性とは「労働の成果(産出)」を「労働量(投入量)」で割ったもの、言い換えれば「労働者1人あたりが生み出す成果」あるいは「労働者が1時間で生み出す成果」の指標です。
労働者が成果を産み出すうえでの効率を数値化したものであるため、この値は
- 労働者のスキルアップ・業務効率化
- 経営効率の改善
によって上昇します。
労働生産性の2つの種類
また、労働生産性には主として下記 2つの種類があります。
- 物的労働生産性
- 付加価値労働生産性
物的労働生産性とは「産出」の対象を「生産量」「販売金額」として置いたもの。
一方、付加価値労働生産性は「産出」の対象を「付加価値額」として置いたものという違いがあります。(付加価値額とは、企業が新たに生み出した金額的な価値を指します。)
またこれらは、以下の計算式で割り出すことができます。
- 物的労働生産性=生産量/労働量
- 付加価値労働生産性=付加価値額/労働量
付加価値額の計算方法には、さまざまなものがありますが、企業視点での簡易的な計算式は以下です。
付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費
つまり付加価値額とは、ほぼ粗利益に近いものと考えてよいでしょう。
「企業の労働生産性」と「国際社会の労働生産性」の厳密な違い
ここまで、労働生産性の定義と計算式についてご説明しましたが、国際社会の中で「日本の労働生産性」の計算式については補足が必要です。
国際社会としての「日本の労働生産性」はGDP(国内総生産)から計算される
国際的に労働生産性を計算するにあたっては、付加価値をベースとする方式が一般的です。
この場合の付加価値とは、GDP(国内総生産)と同義として考えられています。
つまり、国際社会で示すところの労働生産性は
労働生産性=GDP/就業者数 または 就業者数×労働時間 (購買力平価(PPP)により換算)
として計測されており、その結果で「1人あたりのGDP」と言うことが出来ます。
経済学上の数値は近くなるものの、厳密に言えば、
- 国全体の生産性を示した「労働生産性」
※以降は混同を避けるため「国民経済生産性」と呼びます - 労働を投入量として労働者1人(1時間)あたりの生産量や付加価値を測る「労働生産性」
の意味合いは異なります。
「日本の労働生産性」が落ちているというのは、この「国民経済生産性」を基準として言われていることです。
公益財団法人・日本生産性本部が毎年調査発表している資料から、2019年版の「国民経済生産性」数値を見てみましょう。
OECD加盟諸国の「2015年の就業者数(または就業者数×労働時間)1人あたりのGDP」(通称:国民経済生産性)
これについては、同本部からサマリが発表されていますので引用します。
1.日本の時間当たり労働生産性は46.8ドルで、OECD加盟36カ国中21位。
OECDデータに基づく2018年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は、46.8ドル(4,744円/購買力平価(PPP)換算)。米国(74.7ドル/7,571円)の6割強の水準に相当し、順位はOECD加盟36カ国中21位だった。名目ベースでみると、前年から1.5%上昇したものの、順位に変動はなかった。主要先進7カ国でみると、データが取得可能な1970年以降、最下位の状況が続いている。2.日本の1人当たり労働生産性は、81,258ドル。OECD加盟36カ国中21位。
2018年の日本の1人当たり労働生産性(就業者1人当たり付加価値)は、81,258ドル(824万円)。英国(93,482ドル/948万円)やカナダ(95,553ドル/969万円)といった国をやや下回る水準。名目ベースでみると2017年水準を▲0.2%下回ったが、順位ではOECD加盟36カ国中21位で前年と変わらなかった。3.日本の製造業の労働生産性は98,157ドルで、OECDに加盟する主要31カ国中14位。
日本の製造業の労働生産性水準(就業者1人当たり付加価値)は、98,157ドル(1,104万円/為替レート換算)。近年は為替レートの影響でドルベースの水準が伸び悩んでいたが、5年ぶりに上昇に転じた。日本の水準は、米国の7割程度だが、順位でみるとOECDに加盟する主要31カ国の中で14位となっており、若干ながら順位の下げ止まりの兆しがみえる。
しかし、この指標については、
- 国ごとの経済構造によって1人あたりGDP換算は異なる
- 地方ごとの経済発展格差を考慮できていない
- 企業労働生産性の代表値ではなく、全体の平均としてのマクロ的数値
といった点で検討の余地があります。
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総労働時間が減っているのに生産性が上がっていない理由
下記の図をご覧ください。
独立行政法人・労働政策研究・研修機構の調査による、国民1人あたりの年間総労働時間の推移表です。
直近の数値では、日本の年間総労働時間は、2018年時点で1,700時間未満まで減少しています。
※引用:独立行政法人・労働政策研究・研修機構データベース|データブック国際労働比較2019
そして、下記が主要先進7か国の時間あたり労働生産性推移です。
日本の労働生産性は、主要先進7か国の中でも最下位となっています。
このデータから「日本の1人あたり総労働時間が減少している中で、生産性の順位は変わっていない」のなら、日本人の労働生産性はむしろ上がっているはずでは?という主張もされることがあります。
しかし、この背景には
- 非正規(パートタイマー・アルバイト)が労働力人口の4割を占めるまでに増加している
- 上記総労働時間はパート・アルバイトの非正規も含んでいる
という2点があることを知っておく必要があります。
先ほどの主要先進7か国のデータを改めて見てみると、時間あたりの労働生産性は1990年代に入ってから20位前後で横ばいですから、絶対評価的な見方をすれば「フルタイム社員の時間あたり生産性は1990年代から変わっていない」という表現も出来てしまうのです。
また、以下は2009(平成21)年〜2016(平成28)年までの年間総実労働時間のデータですが、フルタイムの一般労働者に限定すると、日本の1人あたり年間総労働時間は20年以上「2000時間前後」とこちらも横ばいです。
※引用:厚生労働省「毎月勤労統計調査
そのため、筆者の結論としては、このマクロ的な数値だけを見て、企業・業界レベルの労働生産性を論じることは適切ではないという考えをもっています。
経営者や企業担当者としては、次の章「企業が労働生産性を上げるためのポイント」の考え方を押さえておくのがおすすめです。
また、働き方改革で「労働生産性の改善」が推進される背景を改めて振り返ると
- 労働力人口が長期的に見て減少していく
- その中で国力を維持するためには、1人あたりの労働生産性を高める必要がある
ということがあります。
我々がまず考えるべきは「各業界・企業が労働生産性をどう高めていくか」だといえるでしょう。
業界による労働生産性の違いはあるか
業界によっても労働生産性の傾向は違いがあり、おおまかにまとめると
- 製造業/不動産業は労働生産性が高い
- サービス業は労働生産性が低い
といった傾向があります。
サービス業の労働生産性が低いのは、付加価値・設備投資は高い水準にあるものの、多くの従業員を割かなければならない労働集約型産業の特徴を持つためです。
多くの労働力を割くため、1人あたりの生産性は低くなります。
日本の業界別労働力人口は、製造業では減少、逆にサービス業は増加傾向にあります。
生産性の高い製造業からサービス業への労働力人口の移行が進めば、国全体の生産性は低下します。
その意味でも、サービス業の生産性向上が今後、大きな課題となってくるでしょう。
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企業が労働生産性を上げるためのポイント
企業としての労働生産性と、国全体の労働生産性(国民経済生産性)の違いは理解していただけたと思います。
ここまで読んでいただいた企業担当者の方や経営者の方は「ではどうやったら自社・企業の生産性が上がるのか?」と思われるでしょう。
企業における労働生産性の向上は、収益性の向上に直結する重要な指標です。
生産性の低い企業は、相対的に利益が出にくい構造になっており、資金を投資に向けることが難しくなります。
投資の不足は収益機会の損失につながります。
結果、人件費投下も制限され、社員のモチベーション・生産性のさらなる低下を招いてしまいます。
生産性の低い企業の特徴
最後に、筆者が考える「企業の労働生産性を低下させている要因と対策」をまとめました。
生産性が低い企業の特徴に、労働時間が長いことが挙げられます。
労働生産性が低いことと、長時間労働の常態化には密接な関係があります。
生産性の低い企業でみられることが多い共通点として、仕事の単価が低く、粗利がとりにくい構造になっていることがあります。
- 粗利が取れずに多くの社員数を抱える人件費を捻出できない
- 担当者あたりの業務量が増える
- 結果、長時間の労働になる
という連鎖が起こります。
企業における労働生産性とは、再度掲載しますが「社員1人が1年間で稼ぐ付加価値(成果)」ということになります。
これは、算出した年間の企業付加価値額を、年間の平均社員数で割って計算します。
社員にはパート・アルバイト・新入社員も含めるため、同じ業種でも社員編成によって労働生産性に大きく違いが発生する場合があります。
生産性の低い会社が長時間労働になる理由
- 生産性の低さを労働時間でカバーしなければ企業が成り立たない
- 長時間労働によって人件費が増大し生産性が低下する
といった悪循環とも考えられる現象により、生産性の低い会社は長時間労働になると言えます。
生産性が異なる2つの会社が同じ額の粗利を生み出そうとした場合、生産性が低い方が労働時間は間違いなく高くなります。
場合によっては、残業代を払っていないという企業もあるかもしれません。しかし、それこそ社員のロイヤリティ・モチベーションも高まらず生産性は低下する一方になりかねません。
企業の労働生産性を述べる際に、資本装備率や固定資産分解率などの指標も無視できませんが、まずは何よりも長時間労働を是正することが先決だと言えるでしょう。
また長時間労働の是正に取り組むメリットとして、多くの日本企業が直面しているとされる以下の「5重苦」を改善することができるのではないでしょうか。
- 人材不足と売り手市場の中で採用がうまくいかない
- 最低賃金の上昇
- 行政が労働者保護へ動くことで残業が困難になる
- 労使紛争の増加
- 社会保険料が増加し、企業の負担になる
※参考:高橋恭介「人事評価制度だけで利益が3割上がる!」(きこ書房、2017年)
まとめ|労働生産性をあげるには、労働時間の見直しから
今回の記事では、労働生産性の正しい定義とその計算方法をわかりやすくお伝えするとともに、企業が労働生産性を上げていくためのポイントもお伝えしました。
改めて、労働生産性の計算式を掲載しておきます。
補足ですが、労働生産性を因数分解すると、
- 労働装備率
- 設備投資効率
から構成されることが分かります。
労働装備率は、1人あたりの有形固定資産増加、つまり機械化・ロボット化を進めていくことで高めることができます。
また設備投資効率は、設備の稼働率を上げ、効果的に売上を伸ばすことで高まります。
製造業では特に、労働生産性を高めるには
- ロボット化・機械化などの投資を進める
- 稼働率を上げて効率化を計る
ことが重要といえるでしょう。
政府や大企業が働き方改革を進めていくなかで、社会全体で労働生産性の向上が求められています。
しかし、生産性という言葉が意味するところをしっかりと理解しなければ、現場に無理を押し付けてしまうだけ、という結果にもなりかねません。
今回の記事でご紹介した生産性の計算方法やポイントをご活用いただき、ぜひ貴社の生産性向上にお役立ていただけましたら幸いです。
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