働き方改革

【連載コラム】今後企業が行うべき 「同一労働同一賃金」への対応とは?

働き方改革の一環で、202041日から全国一斉に施行された(中小企業は、202141日から)「同一労働同一賃金(別名:パートタイム・有期雇用労働法)」。

同一労働同一賃金とは、同じ職場で同じ仕事をする正規雇用の従業員と非正規雇用の従業員との待遇や賃金格差をなくすという考え方です。

これまでも労働関係の法律で一定のルールは設けられていましたが、今年からそのルールが明確化され、すべての事業主はこれを徹底することが求められます。

では実際に企業は、同一労働同一賃金制度に対し、今後どのような対応を行なっていけば良いのでしょうか。

ボーグルでは同一労働同一賃金制度への理解を深めるため、千葉商科大学会計大学院会計ファイナンス研究科教授、株式会社ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長の、可児俊信(かに としのぶ)氏のコラムを連載形式にて毎週ご紹介します。

同一労働同一賃金とは

コラムへ進む前に前提知識として、まず同一労働同一賃金制度についてご紹介します。

正社員と非正規社員の待遇格差をなくす目的でつくられた

これまでの日本の企業文化においては、正社員は非正規社員よりも良い待遇で働けることが当たり前のこととされてきました。給与面ではもちろん、福利厚生で受けられるサービスまで、大きな差がありました。それはもはや差別と言っても差し支えがないほどです。

もちろん責任の重さや業務内容が全く異なるものであれば、それらに見合う報酬も違うことは至極まっとうな道理でしょう。

しかし、仕事の条件や負担が同じであった場合、こうした身分による差別は今後持続可能な日本社会を作っていく上でよろしくない、ということで想起されたのが、この「同一労働同一賃金」という考え方です。

2016年に厚生労働省より発表された「同一労働同一賃金ガイドライン」によると、言葉の定義については、このように記されています。

同一労働同一賃金は、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである

つまり先ほど述べたように、同じ職場で同じ仕事をする正規雇用の社員と、非正規雇用の社員との待遇や賃金格差をなくそう、という考え方です。

ちなみに、「同一労働同一賃金ガイドライン」は、201612月にヨーロッパ圏の事例を参考にして作られたガイド的テキストです。

同一労働同一賃金のメリットとデメリット

同一労働同一賃金は給与や待遇面において、企業(事業主)側と労働者側ではそれぞれの立場によってメリットとデメリットが異なります。

制度への理解をより深めるために、両者から見たメリット・デメリットを解説していきます。

企業(事業主)側のメリット・デメリット

企業(事業主)側の事情について見ていきましょう。

メリット①:非正規社員の労働生産性向上が期待できる

これまで正当な評価をされておらず、かつ満足な給与支給がなかった非正規社員にとっては、同一労働同一賃金が企業において正しく導入されれば、自身の働きを認めてもらうチャンスとなります。

同じ職場で働く正社員と同じような評価方法や給与体系となれば、日常業務に対する熱量(モチベーション)が向上し、生産性もそれに伴い高くなっていくことが期待できます。

メリット②:優秀な人材を確保・獲得しやすくなる

また、そうした制度が企業の中でしっかりと組み込まれていることが社内外に広まれば、「ここはしっかりしている会社だ」ということで、正規・非正規問わず社員からのその企業への評価は自然と高くなってゆくでしょう。

そうなれば自社内にいる優秀な人材が外部へ流出する可能性は低くなります。また、採用面でもプラスの効果を与えるのは間違いないでしょう。

デメリット①:人件費が高くなる(≒適正になる)

一方で、同一労働同一賃金が企業にとってデメリットとなりうることは何でしょうか。

一つ目は、人件費の上昇です。

どのような雇用形態にとっても平等な評価と報酬が与えられること自体は、全ての企業が目指すべきあり方です。

しかし冒頭にも述べたように、これまで日本では正社員と非正規社員との格差が当たり前に行われてきた歴史があります。その歴史や古い企業体質を変革し、給与体系を新しいものに変更するのは容易なことではないでしょう。

正しい方向へ向かっているので、ここではデメリットではなく、チャレンジと言っても良いかもしれません。

デメリット②:労働者に対して説明責任による準備など、必要工数が増える

本記事後半でも述べますが、2020年より施行される同一労働同一賃金では、社員から企業へ「なぜこの給料なのか」「どのように評価するのか」といった説明機会を自身の上長へ請求できる権利を行使できるようになります。

あらかじめ企業側から社員に対し、事前に詳細な説明は行われるべきですが、都度対応しなければならない場面も出てくるでしょう。

その際にこれまで発生していなかった説明会の開催や、理由を調べるための調査時間などの工数が新たに発生する可能性が考えられます。

なるべく社員間で疑問が生まれないような、準備や仕組みづくりも同時に企業側には求められてきます。

労働者側のメリット・デメリット

では次に労働者側のメリットとデメリットについても確認していきましょう。

メリット①:賃金上昇への期待や働きがいが生まれる

「いくら仕事を頑張っても評価されない」「会社に貢献した実績があるのに全く昇給がない」といった状況では、非正規社員の労働意欲は当然高まりません。

ですが、職場にいる労働者が全て同じ価値基準で仕事を評価されれば、昇給という目標のためにこれまで以上に仕事に打ち込めたり、やった分だけ認めてもらえるということが分かれば働きがいにも繋がっていくと考えられます。

メリット②:キャリアアップにおける見えない壁が無くなる

キャリアアップにおける見えない壁が無くなるというメリットもあります。正社員は同じ雇用形態で転職がしやすいが、非正規社員は正社員になりにくい、ということだと、平等なキャリアアップが存在しているとは言えません。

実力主義型の社会になっていくにつれ、そうした肩書きは意味をなさなくなり、仕事ができるorできないという価値判断に基づいて仕事も得られるようになるべきです。

同一労働同一賃金では賃金の問題だけでなく、社会的な非正規社員への見方の変革が求められています。

待遇やキャリア上の格差がなくなれば、非正規社員であっても様々な働き方(リモートや時短勤務など)をより選択しやすくなるでしょう。

デメリット①:正社員の賃金が引き下げられる可能性がある

同一労働同一賃金の実施により仕事への評価が適正になるということは、不当に高い給料をもらっていた社員も適正な給与額引き下げられる可能性もある、ということです。

それまでもらっていた給与額や残業代をアテにしていた社員にとっては、厳しい状況になるかもしれません。また、家族への影響もあるでしょう。

そうしたことにならないためにも、自分の実力をしっかりと付けつつ、日頃から上長と評価方法も含めて正しく行われているか確認し合う習慣が大切です。

デメリット②:派遣などを受け入れる企業が減る可能性がある

企業側のデメリット①でも触れたように、社員へ支払う給与額が適正になったことにより、全体の賃金が上昇する可能性があります。

そうなった場合、企業は非正規社員の数を調整する可能性があります。派遣労働者が雇用を切られてしまった場合、派遣元企業はその派遣労働者を受け入れてくれる顧客を新たに開拓する必要があり、それがうまくいかない場合、労働者の稼働条件などにも影響が及ぶでしょう。

連載コラム:同一労働同一賃金における企業のあり方

ここからは、千葉商科大学会計大学院会計ファイナンス研究科教授、株式会社ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長の、可児俊信(かに としのぶ)氏のコラムを連載形式にてご紹介していきます。

本連載では、同一労働同一賃金に関する基本的な知識から、制度設立の背景だけでなく、法令における注意点や実践的な事例など、幅広く話題を取り扱っています。これらの記事を読めば、同一労働同一賃金への理解はより一層深まるでしょう。

【毎週木曜日に更新】

第1回:同一労働同一賃金の基礎知識について紹介します。

第2回:「同一労働同一賃金ガイドライン案」公表後の動きについて紹介します。

第3回:同一労働同一賃金における「不合理ではない待遇差」について紹介します。

第4回:正規従業員と非正規従業員の待遇差を不合理とみる判決・判例について紹介します。

第5回:前回連載での事件において不合理とされた待遇差について紹介します。

第6回:前回連載での判決からみえてくる、適正な待遇差について紹介します。

第7回:正規従業員との待遇差と働き方の違いについて紹介します。

第8回:非正規従業員の待遇改善を図る際の課題について紹介します。

第9回:福利厚生制度の費用対効果について紹介します。

10回:人材採用力の強化と定着について紹介します。

11回:福利厚生パッケージについて紹介します。

12回:選択制企業年金の事例について紹介します。

13回:前回に引き続き、「メトロコマース」高裁判決について紹介します。

14回:退職一時金制度について紹介します。

15回:「同一労働同一賃金」へ向けた企業の対応について紹介します。

16回:前回に引き続き、「同一労働同一賃金」に向けた企業の対応について紹介します。

17回:ガイドラインに明記されていない福利厚生的手当について紹介します。

18回:正規と非正規における待遇差対応の優先度について紹介します。

19回:前回に引き続き、正規と非正規における待遇差対応の優先度について紹介します。

20回:ネット通販を行う企業の改善事例について紹介します。

21回:カフェテリアプランを活用した、大手文具メーカーの事例について紹介します。

22回:前回に引き続き、カフェテリアプランを活用した、大手文具メーカーの事例について紹介します。

23回:福利厚生制度や福利厚生的手当の見直しを行うことで、待遇改善原資をねん出した飲食チェーン店の事例について紹介します。

24回:連載の最終回である今回も前回に引き続き、福利厚生制度や福利厚生的手当の見直しを行うことで、待遇改善原資をねん出した飲食チェーン店の事例について紹介します。

プロフィール:可児俊信(かに としのぶ)氏

可児俊信(かに としのぶ)

千葉商科大学会計大学院会計ファイナンス研究科 教授

株式会社ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所 所長

1996年より福利厚生・企業年金の啓発・普及・調査および企業・官公庁の福利厚生のコンサルティングにかかわる。年間延べ500団体を訪問し、現状把握と事例収集に努め、福利厚生と企業年金の見直し提案を行う。著書、寄稿、講演多数。

◎略歴

1983年  東京大学卒業

1983年  明治生命保険相互会社(現明治安田生命保険)

1988年 エクイタブル生命(米国ニューヨーク州)

1991年 明治生命フィナンシュアランス研究所(現明治安田生活福祉研究所)

2005年  千葉商科大学会計大学院会計ファイナンス研究科教授 現在に至る

2006年  ㈱ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長 現在に至る

 

 

「働き方改革」何から取り組めば良い?
とお悩みの企業担当者の方へ

やるべきことが分からず、まずは今話題の残業の抑制から取り組んでみたという企業が約86%を超える中、その半数にも及ぶ、約44%の従業員が残業抑制に関する満足度を実感出来なかったと回答をしています。(※参考:LINE株式会社 livedoor NEWS 残業削減で「収入が減った」が3割 「生産性で評価して」という声

このようにそもそもの目的を見失い、残業を減らしたり、休みを増やしたところで、従業員の満足度が下がればその施策は無意味なものとなります。

何から始めて良いのか分からない・従業員満足度を向上させたい、とお困りの企業担当者は、まずは福利厚生アウトソーシングサービスの導入を検討してみはいかがでしょうか。

福利厚生の充実は、従業員満足度の充実による労働生産性の向上、離職率の低下・採用力の強化(人材不足の補填)など、様々なメリットがあります。


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