第10回:福利厚生制度の費用対効果について
非正規従業員の待遇改善には、「同一労働同一賃金」への対応だけでなく、人材採用力の強化や定着も期待される。
非正規従業員の待遇改善に当たっての最大の障害は、改善原資の確保である。もともと、非正規従業員は正規従業員に比べて人件費が抑えられてきた。よって、改善原資をねん出するのは容易ではない。
ここからは、コストを掛けずに、またはコストを抑えて待遇改善を行う方法を、事例を中心に紹介する。
まずは共済会を活用して、待遇改善を行う事例を紹介する。共済会では会員である従業員が毎月給与から会費を納付し、事業主も原則として同額をマッチング拠出する。形成された労使のファンドで福利厚生原資を確保する福利厚生の運営手法である。
共済会という名称ではなく、社員会、福祉会、厚生会、互助会など任意に名称を付与できる。共済会は健康保険組合や事業協同組合などと異なり、法令に基づいた団体ではないからである。
多くの企業では、規模の大小や事業内容の範囲に差はあるものの、共済会が存在する。非正規従業員も加入対象とすることで正規従業員と同一の福利厚生を提供できる。
事業主にとっての共済会の最大のメリットは、加入する従業員も会費として財源の一部を負担することだ。福利厚生費全額を負担する場合と比べて、労使折半負担であれば、半額の負担で済む。物流、小売、サービス、飲食、福祉といった非正規従業員の多い業種においては、非正規従業員の待遇改善には多額の原資が必要となる。非正規従業員も加入対象とすることで、事業主は多くの原資を割かずに待遇改善が可能となる。
首都圏の大手スーパーマーケットチェーンである㈱いなげや(東京都立川市、成瀬直人代表取締役社長)では、いなげや共済会を設立した1986年当初から正規従業員だけでなく、「フレッシュパートナー」と呼ばれるパートタイマーも加入対象としている。
事業内容は、結婚祝金・出産祝金、弔慰金・傷病見舞金などの慶弔給付事業の他に、医療費の補助や休業時の補償などの補償給付事業、介護や育児の費用補助、クラブ活動の費用支援、共済会が契約者となっているリゾート施設の提供などであり、多岐にわたって会員を支援している充実した共済会である。
小売、サービス、飲食業などのように正規従業員と非正規従業員が同じ場所で仕事を分担し合って共同で働いている業態においては、目に見える待遇である福利厚生は公平・平等に付与・支給されるのが望ましい。
一般に共済会は、正規従業員、役員、雇用延長の嘱託といった範囲を加入対象として構成されていることが多い。非正規従業員も加入対象とする際は、共済会の規約を改訂しなければならない。規約文面としては、
「第○条(会員の構成) 本会は、○○㈱および○○グループに勤務する役員、社員、嘱託社員、契約社員およびパートタイマーで構成する。ただし、アルバイト社員は除く。」
といった形となる。アルバイトはパートタイマーと異なり、出勤日が定まっておらず、また学生が主であることが多いことから福利厚生の対象としないことも多い。
図表 共済会の仕組み
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