ワークライフバランス(WLB)とは?定義と取り組み事例を解説
最近、ワークライフバランスという言葉をさまざまな場所で耳にするようになってきました。
この記事を読んでいる方の中には「ワークライフバランスとは何か?」と疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
実はつい最近できた言葉ではありません。 特に注目されるようになったのは近年、内閣が働き方改革の実施を宣言し、日本人の働き方が見直されるようになってからです。
働き方改革が多くの企業で進む中で、ワークライフバランスも見直されるようになってきたのです。
しかし、言葉が実態以上に先行して広まっている印象を持っています。 ちなみに筆者が知人の企業経営者数人に「ワークライフバランスとは何だと思う?」と聞いたところ、それぞれまったく違う答えを返してきました。
それだけ、本来の意味が理解されていない現状があるということです。
ここまで読んで「ワークライフバランスの理解・導入はなにやら難易度が高そう…」と思っているのではないでしょうか。
しかし、ポイントを押さえれば理解・導入は決して難しくありません。 今回の記事では
- ワークライフバランスの定義と考え方
- ワークライフバランスを実現するための注意点
- ワークライフバランスの実際の取り組み事例
をすべてお伝えします。 ぜひ最後までご覧ください。
参考文献
今回の記事執筆において「株式会社ワークライフバランス」の代表・小室淑恵さんが執筆した以下の書籍を参考とさせていただきました。
ワークライフバランスとは・生活と仕事の調和
ワークライフバランスを一言でいうなら「生活と仕事の調和・調整」となりますが、これでは解釈がさまざまです。
生活と仕事は、互いに相反するものではないからです。 より詳しくいうと
- 生活の充実によって仕事がはかどり、うまく進む
- 仕事がうまくいけば、私生活も潤う
といった、生活と仕事の「相乗効果」のことです。 この点において、ワークライフバランスの解釈には多くの誤解があります。
たとえば、この言葉を「生活」と「仕事」どちらを重視するか、という取捨選択のように思っている方もいるかもしれません。
しかし本来ワークライフバランスとは、生活と仕事、どちらか一方を犠牲にするものではないものです。
誤解されがちな「ワークライフバランス」の考え方
たとえば、ワークライフバランスを以下のようなものだと思っている方はいないでしょうか。
- 仕事とプライベートの生活はきっちり分ける
- 仕事8時間、プライベート8時間、睡眠8時間がベスト
- 新入社員の頃は仕事7:生活3にするべきだ
これは、ある種の誤解を含んでいます。
ワークライフバランスとは、厳密には仕事と生活の最適な比率を表すものではないからです。
この考え方では、上記のとおり、一方を増やせばもう一方が減ってしまうことになります。
もちろん時間比率という考え方はひとつの要素ですが、経営者がこの考え方に偏っていると危険です。
それではワークライフバランスは仕事を犠牲にして従業員の生活を取る、というようなある意味有害なものに見え、導入にも尻込みしてしまうでしょう。 もう一度お伝えすると、ワークライフバランスとは
- 仕事で成果を挙げるための成長やスキルを生活(仕事以外)で身につける
- それによって仕事がより短時間で成果を挙げられる
- より、生活が充実したものになり、スキルアップが図れる
といった「生活と仕事を調和させることで得られる相乗効果・好循環」のことを意味します。
本記事では、ワークライフバランスの導入のステップや考え方もお伝えしますが、この理解を忘れないようにしてください。
ワークライフバランスに含まれる2つの概念
そして、ワークライフバランスには以下の2つの概念が含まれています。
- ファミリーフレンドリー
- 男女均等推進度
これは、ワークライフバランスと似た概念とされることも多いのですが、正確にはワークライフバランスを構成する重要要素と考えてよいでしょう。
ファミリーフレンドリー
ファミリーフレンドリーは「両立支援」とも訳されます。
働きながら育児・介護をするための制度・環境を整えることを意味します。
「働き方改革」で見直されることが多いのも、このファミリーフレンドリーの取り組みです。
厚生労働省では、ファミリーフレンドリー企業の基準を以下のように定めています。
- 法を上回る基準の育児・介護休業制度を規定しており、かつ、実際に利用されていること
- 仕事と家庭のバランスに配慮した柔軟な働き方ができる制度を持っており、かつ、実際に利用されていること
- 仕事と家庭の両立を可能にするその他の制度を規定しており、かつ、実際に利用されていること
- 仕事と家庭の両立がしやすい企業文化を持っていること
※参考:厚生労働省HP
男女均等推進
男女均等推進とは
- 男女の性別にかかわらず、能力を発揮するための均等な機会が与えられる
- 男女の性別にかかわらず、評価や待遇における差別を受けない
ことを意味します。
1985年に策定された男女雇用機会均等法が、日本における男女均等推進の明確なはじまりです。
この法律は時代とともに随時改正され、今では
- 募集
- 採用
- 配置・昇進
のすべてにおいて、性別を理由とした差別が禁止されています。
また、男女均等推進には、均等を維持し、差別を禁止する側面の他に「今ある格差を解消していく」といった側面もあります。
厚生労働省では、女性の能力発揮を促進するポジティブな取り組みを実践する企業を「均等推進企業」と位置づけています。
- 均等(差別の禁止)
- 推進(格差の解消)
どちらも含むものが男女均等推進という考え方です。
本当のラークライフバランスの実現には、これらの2つの考え方が不可欠です。
なぜ今、ワークライフバランスが大切なのか
ではなぜ今、ワークライフバランスが重視されているのでしょうか。
それは「少子高齢化」がもっとも大きな要因となっています。
出産・育児対策が日本のワークライフバランスのはじまり
日本では「ワークライフバランス」というと、女性の出産・育児・働き方を支援するものと同義として考えられることもあります。
これは、1990年代に政府による少子化対策として
- 育児休業制度の整備
- 保育所の拡充
が進められたことに始まります。それでも少子化の流れは止まらず、2003年に
- 少子化対策基本法
- 次世代育成支援対策推進法(次世代法)
が成立しました。
上記法律によって、企業に出産・育児/仕事の両立を支援するための行動が義務づけられたことが、ワークライフバランスの視点がクローズアップされるきっかけとなりました。
高齢化=介護時代の訪れ
ワークライフバランスは、女性のためだけのものではありません。
男性にも大きくかかわってきます。
少子化と同様に深刻なのが高齢化問題です。
下記が、日本の労働者人口の推移を示したグラフです。
※引用:国立社会保障・人口問題研究所HP
あと10数年の後には、団塊世代の介護対策が問題になってくるでしょう。
たとえば、男性社員にとっても
- 親の介護が必要になった社員が安心して休みを取れる企業
- 休職後、復職しても昇進の機会が与えられる企業
でないと、優秀な社員が定着しない時代になると思われます。
つまり、ワークライフバランスは、
- 少子化に対する出産・育児支援
- 高齢化に対する働き方改革
という2つの理由によって、大きく注目を集めているといえます。
ワークライフバランスのメリット5つ
上記のとおり、ワークライフバランスの広がりは社会的な背景が大きく影響しています。
では、企業がワークライフバランスに取り組むメリットにはどのようなものがあるのでしょう。
次に、ワークライフバランスによって企業が得られるメリットを整理しました。
メリット1:女性社員の定着
- 出産・育児について適切な支援
- 柔軟な働き方の提案
を行うことで、女性社員の定着が期待できます。
出産・介護に関する法整備は政府によって手厚く行われているにもかかわらず、第1子誕生前後に退職する女性が6割を占めるという調査結果があります。
自分で子育てしたい、というポジティブな理由は別として
- 保育園への入園が難しく、今の働き方では復職できない
- 復職後、育児支援をあてにできない
という理由で仕事を続けられない女性も多いのです。
ワークライフバランスの導入・強化に取り組むことで、女性が長く働けるようになり
- 女性社員の定着
- 女性リーダーの育成・成長
が期待できます。
メリット2:優秀な人材の獲得
現代の日本では、終身雇用制度が実質過去のものとなっています。
また新卒採用・中途採用ともに売り手市場としての傾向が強まっており、求職者・学生に対するアピール競争が激化、優秀な人材を確保することはさらに難しくなっています。
ワークライフバランスを推進することで
- 社員を大切にする会社
- 働き方が柔軟な先進企業
というイメージを作ることができ、人材の獲得に大きなプラスとなります。
スキルはあっても働き方が自分には合わない、という優秀な人材が集まってくることも期待できるでしょう。
さらに、ワークライフバランスの実現によって、獲得した優秀な人材が長く活躍できるようになります。 採用・獲得だけでなく、
- 優秀な人材の定着
- 人材育成・研修コストの回収
という視点でも魅力的です。
メリット3:社員のモチベーション向上
ワークライフバランスは、社員・職場全体のモチベーションにも好影響をおよぼします。 下記の図を見てください。 ※参照:少子化と男女共同参画に関する専門調査会(内閣府・男女共同参画推進局)
ワークライフバランスがとれていると、仕事への意欲が高いことが分かります。
特に男性は「プライベートが充実している」ことが、仕事のモチベーションにつながる傾向があります。
職場のモチベーションが上がることで、
- 人材育成の活発化
- 職場コミュニケーションの向上
- 労働生産性の向上
が見込めます。
いくつかの企業事例を見ていると、リーダー社員にこそワークライフバランスの活用・理解をしてもらうことが、啓蒙してもらう面でも有効と考えています。
仕事も生活も充実し、活き活きと働いているリーダーを見ることで、若手・新入社員ももっと成長したい・活躍したいという意欲を新たにできるでしょう。
メリット4:労働生産性の改善
政府が「働き方改革」で労働生産性の向上を打ち出しているように、日本は先進国の中では労働生産性が低い部類に入ります。
以下のグラフは公益財団法人・日本生産性本部の調査から「2015年・時間あたりの労働生産性」を表したものですが、日本は18位になっています。
OECD加盟諸国の「2015年の就業者数(または就業者数×労働時間)1人あたりのGDP」(通称:国民経済生産性)
※引用:公益財団法人・日本生産性本部HP
これは、長時間労働が常態化する企業風土が定着していることと関係があります。
- 多様な働き方への対応
- 生活(プライベート)も充実させられる仕組み
によって長時間労働の改善・労働生産性の向上が期待できるでしょう。
労働生産性については別の記事「労働生産性とは?混同しがちな定義と計算式をわかりやすく解説」で詳しくお話ししています。
メリット5:優良企業のイメージ醸成
昨今の企業経営では、自社の成長だけでなく「社会にどう貢献するか」というCSR(企業の社会的責任)が重視されています。
ワークライフバランスを実現することで(2)優秀な人材の獲得と同様に
- 社員を大切にする企業
- 社員が自社のサービスの恩恵を受けられている企業
- 離職率が低く、社員が安心して働ける企業
という優良企業のイメージを育てることができます。
ワークライフバランス実践のための取り組み
ここまでの内容で、ワークライフバランスとは何か、そのメリットをご理解いただけたと思います。
では、ワークライフバランスの実現には企業として何をすればいいのでしょうか。
ぜひ実践してもらいたい基本的な取り組みをピックアップしたので、ぜひ参考にしてください。
育児休暇
働き方改革でも取り組まれることが多いのが育児休暇。
休業・休暇に関するものは女性を対象とするものが多いのですが、「女性社員のニーズ」だけでなく「男性が育児休暇を活用しやすい状態にする」ことがポイントです。
イクメンという言葉に代表されるように、男性社員の育児休暇取得促進が女性の活躍という働き方改革の実現につながります。
短時間勤務制度
育児休暇と同様に、働き方改革で多くみられる取り組みが「短時間勤務制度」です。 育児や介護にたずさわる社員を対象に、勤務時間を2~3時間、または30分単位で短縮する事例が多くあります。
現在の取り組み事例では「育児休暇から復帰した女性社員」が対象となることが多いのですが、今後は「両親の介護を目的とした男性社員、管理職社員」の利用も視野に入れて取り組むのがおすすめです。
注意点は以下です。
注意点:勤務時間にはバリエーションを持たせることが大切
社員の生活・働き方に応じて、勤務時間にいくつかのバリエーションを持たせることが大切です。
固定化した短時間勤務では、充分に活用されず浸透しません。
たとえば、以下のような方法があります。
- 時間短縮パターンを複数設定
- 1日あたりの勤務時間を大幅に減らし、勤務日数を増やす(総労働時間は増えないように)
- 希望する日の勤務時間を短縮する選択ができる
- 1週間あたりの勤務日数を減らす選択ができる
またバリエーションを作ったら、それを「自由意志で選択できる制度」にするのが重要です。
注意点:業務の割り当て方について
短時間勤務を利用する社員への業務割り当ては、ともすれば「切り出し業務=単純な仕事」になってしまうことがあります。
しかし、単純な業務の繰り返しでは社員のモチベーションが低下します。
また、複数の社員が短時間勤務を希望した際に、組織生産性が一気に低下する可能性があります。
短時間勤務でも、コアな業務を担当できるように
- 一業務を複数担当制にする
- 一人一つはコア業務を持つ
- 現場での情報共有
に取り組むことが有効です。
フレックスタイム制度
フレックスタイム制度は比較的浸透している時間制度ですが、働き方改革で改めて取り組む企業が多い項目でもあります。
1か月以内の期間で総労働時間を規定し、その枠内で始業・終業時間を自由に決定できる仕組みです。
フレックスタイム制度が優れている点として、総勤務時間が変わらないため、
- 給与の調整
- 昇給・昇格にともなう問題
が発生しにくく、取り組みやすいことが挙げられます。
また、組織生産性を損なわないように、企業は「1日のうちで必ず勤務するコアタイム」を指定することもできます。
中には、コアタイムのないフル・フレックスタイム制度やそれに近い拡大制度を導入している企業もあります。
フル・フレックスの注意点
フル・フレックス制度は、社員が揃う時間が限られるため、業務の設計に工夫が求められます。
社員全員が揃うことを前提とした企業文化では、フル・フレックスの導入は難しいでしょう。
しかし逆に、この仕組みが適合する組織かどうか、実際に試験導入してみると判断がしやすいものです。
テレワーク(在宅勤務)
トヨタが働き方改革として率先して導入し話題になったのがテレワーク(在宅勤務)です。
勤務場所を見直す働き方改革の好事例といえます。
日本テレワーク協会によれば「ITを利用した、場所・時間にとらわれない働き方」と定義されています。
企業にとって
- 通勤、交通費の削減
- 休業からのスムーズな復帰支援
- 障がい者雇用
の点でメリットがあります。
テレワーク導入のポイントは「リスク管理」「コミュニケーションの確保」「勤怠管理」です。
在宅という環境下で、情報漏洩リスクの防止、勤怠管理を適切に行える仕組みが求められます。
また、テレワークについては別の記事「テレワークから始める働き方改革|基本理解と導入のヒントを紹介」にてくわしくお話ししています。
長時間労働の削減
「働き方改革」の柱である長時間労働の削減は、日本企業の多くに課せられたテーマでもあります。
長時間労働を削減するには、まず以下に取り組む企業が多いようです。
- 定型作業の廃止
- 残業、休日出勤の禁止
- 残業の事前申請化
- 残業恒常化の要因分析と対策
- 業務フローの見直し
残業の禁止だけでは長時間労働は改善されない
注意すべきなのは、ただ残業を禁止・制限するだけでは長時間労働は改善されないということです。
業務改善を伴わない残業禁止では
- 社員が自宅に仕事を持って帰る
- いったん帰ってから、社員が仕事をしに戻ってくる
という本末転倒の事態を招きます。
良くない事例では「ノー残業」を設定したものの、「定時後のオフィス点灯」が新人の仕事として明文化されていた企業もあったそうです。
長時間労働はこの取り組みだけを行えば改善できる、という問題ではありません。 ここまでご紹介したような
- 短時間勤務制度
- 休暇の奨励
- テレワークの導入
などと組み合わせて、社員が柔軟に働ける環境作りが一番の近道です。
福利厚生サービスの充実・導入
ここでの福利厚生サービスは、休暇制度はもちろん、スタッフが以下のようなサービスを利用する場合の補助となるものです。
- レジャー・宿泊施設の利用
- フィットネス・ジムの利用
- 資格取得支援
冒頭でお話ししたようにワークライフバランスでは、生活(プライベート)で仕事の成果を挙げるためのきっかけ・スキルを得ることが大切です。
それによって仕事で短時間で成果を挙げられるようになり、生活もさらに充実する、という好循環を生みます。
たとえ、直接的なスキルアップに限らずとも、働く人のパフォーマンスは内包的な気分に大きく影響されることが研究によって証明されています。
福利厚生サービスの充実と利用推奨は、社員が活気を持って働けることにつながります。
そして
- 社員を大切にする会社
- 福利厚生サービスが競合よりも優れた会社
というイメージは、優秀な社員が集まる会社となるための必須条件といっても良いでしょう。
もしあなたの会社が、上記のようなサービスはあるが充分に活用されていない、もしくは存在しないという場合、福利厚生サービスの充実・導入に取り組むことをおすすめします。
その際はパッケージサービスやカフェテリアプランを利用することで、導入のコストは低くおさえることができます。
福利厚生サービスについては別の記事「福利厚生管理士が選んだ福利厚生アウトソーシング5選【導入事例付】」にてくわしく紹介しております。
さいごに
今回の記事ではワークライフバランスの定義と考え方、導入するための具体的な取り組みをお伝えしました。
ワークライフバランスは、避けられない少子高齢化に対応し、生産性・企業イメージを高めるための有効な戦略といえます。
決してすべてを一度に実践しようとする必要はありません。
どれか一つでもミニマムな形から導入することで、その効果や手ごたえが感じられると思います。
- 一部署でのテスト運用
- 規定・制度としてではなく、ルールとして導入する
などぜひ検討してみてください。
ワークライフバランスの充実を支援する
福利厚生サービス ベネフィット・ステーション
待機児童問題/介護離職者の増加など、ワークライフバランスを取り巻く環境には問題が山積しています。
フレキシブルな勤務形態、休業・休暇制度を整えることは大前提として必要ですが、それだけでは育児・介護にかかわる金銭の問題や情報の提供不足といった課題が残ります。
福利厚生サービス ベネフィット・ステーションの導入により上記の課題を解決することができます。
①【育児】保育園探しのお手伝いや認可外保育施設利用時の割引等があり、保育と仕事の両立を支援できる。
②【介護】介護情報の無料提供・無料相談、介護用品購入費用の一部還付を受けられ、介護離職を防止する。
また、従業員が企業担当者を介さずサービスの利用申し込みを行うため、導入後の事務作業はほとんどありません。
ぜひ人事制度の改定と併せて福利厚生制度の拡充を検討していきましょう。