働き方改革

働き方改革で残業時間の上限規制はどう変わる?ポイントや事例を解説

働き方改革関連法案の目玉となっている「時間外労働の上限規制」。

2020年4月より大企業だけでなく中小企業においても、時間外労働に関する規制が厳しくなりました。それに対し、従業員の労務管理や業務の見直しなど、すでに様々な対策を講じられている経営者・ご担当者の方もいらっしゃると思います。

一方で、今回の法改正について、なぜ規制が必要なのか、どのような変化があるのか、など具体的に内容を把握できていない方も多いのではないでしょうか。
また、「残業代が減るのは困る」「持ち帰りの仕事が増えるのではないか」と、不安を抱える方も少なくないでしょう。

お察しの通り、単に残業時間を減らすだけでは、働き方改革を成功させることはできません。
時間外労働が減ることによるメリットを享受するためには、労働環境の改善と従業員側の意識を変えることが必要です。

本記事では、働き方改革による残業の上限規制で何が変わるのか、そして自社で残業時間を管理する際の注意点やポイント、そして残業代を従業員に還元する3つの方法について、具体的に紹介していきます。

従業員満足度を高めて企業の労働生産性を向上し、持続的な事業成長へと導く働き方を

残業を減らして有給取得をしやすい環境整備も整えた。しかし、蓋をあけてみると業績が芳しくない…それは、時間や場所を問わない柔軟な働き方やデジタル化による業務効率化という本質的な働き方改革が実践されていないことが原因です。

人手不足の今、以下のような課題には早急に取り組む必要があります。

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時間外労働時間の上限規制で変わること

時間外労働時間については、これまでも上限が定められていましたが、法的な拘束力はありませんでした。しかし、これからは違います。

まずここでは、働き方関連法が変わることにより、残業時間の上限規制がどのように変わるのかを確認していきます。

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そもそも働き方改革とは?という方は、「5分で分かる「働き方改革」とは?取り組みの背景と目的を解説」の記事を合わせてご参照ください。

改正前は法律上の上限規制なし

先ほど述べたとおり、時間外労働については改正前も「原則45時間/月、360時間/年」と上限が定められていました。
これは1日2時間程度の残業になります。これまではこの上限を超えても企業に行政指導が入るのみで、罰則はありませんでした。

この、実質上限時間はあってないようなもの、という状態を是正すべく設けられたのが、働き方改革関連法による規制です。

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時間外労働の実態については、「業務効率化の実現へ、ノー残業デー導入で得られるプラスの効果」の記事で詳しく紹介しています。

改正後は罰則規定があり厳格化

改正後の残業時間も、「原則 45時間/月、360時間/年」と基本的には変わりませんが、大きく変更となるのは下記の3点です。

  • 繁忙期などの特別な事情がある場合も「最大で100時間未満/月、720時間以内/年(複数月の場合平均80時間以内)」の労働までしか許可されない
  • 月45時間を超える時間外労働が許されるのは、年間6ヵ月まで
  • 上限を超えた場合、企業に罰則が課せられる

これらを違反した場合、事業主に30万円以下の罰金または6ヵ月以下の懲役が科される可能性があります。

※出典元:厚生労働省 働き方改革特設サイト|時間外労働の上限規制

所定外労働時間と法定外労働時間

次に、上限規制にかかる残業時間の考え方を解説します。

時間外労働には「所定時間外労働」と「法定時間外労働」があります。

どちらの労働時間が超えても「残業」とは呼ばれていますが、規制の対象となるのは、法定時間外労働です。

所定時間外労働

企業ごとの就業規則などで定められた所定時間を超えた労働時間のこと。

就業規則で勤務時間が9時から17時と決められているならば、17時以降は所定時間外労働の残業時間となります。

法定時間外労働

法定時間外労働は、企業のルールと関係なく、労働基準法で定められた労働時間(8時間/日、40時間/週)を超えた労働時間のことを指します。

法律上はこちらの残業時間を用いるので、今回の法改正による残業時間の上限規制においても、法定時間外労働の時間がポイントとなります。

時間外労働時間の上限規制は、中小企業では2020年4月より適用開始

2018年6月に成立した働き方改革法案ですが、改正法の適用時期は、企業の規模によって異なります。

大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月1日から適用されます。今後は、中小企業においても、労働時間に関する対応が求められます。

なお、国が定めている中小企業の定義は業種ごとに異なり、資本金または労働者数のどちらか一方を満たすことで該当します。

業種

資本金

労働者数

小売業

5,000万円以下

50人以下

サービス業

5,000万円以下

100人以下

卸売業

1億円以下

100人以下

その他(製造業・建設業など)

3億円以下

300人以下

残業時間の上限規制が猶予・除外される事業・職種

今回の法改正では、「医師」「自動車運転業務」「建設事業」など、時間外労働時間の上限の施行が2024年まで猶予される業種もあります。

一定期間の猶予ののち、その業種に合った規制が適用されます。

※出典元:厚生労働省|働き方改革特設サイト 上限規制の適用が5年間猶予される事業・業務

また今回の法改正に伴い、労働安全衛生法が改正されたことにより、新技術・新商品等の研究開発業務については、新たな規制が定められました。

新技術・新商品等の研究開発業務については、上記の残業時間の上限規制から除外され、次のような規制が設けられます。

  • 1週間当たり40時間を超えて労働した時間が、月100時間を超えた労働者に対して、医師の面接指導を義務化(罰則付き)
  • 面接指導を行った医師が必要と認める場合は、事業者が何らかの措置を講じなければならない

残業時間の上限規制で予想される問題

残業時間の上限規制を行うのみでは、根本的な課題解決にはなりません。もし他の対策を講じなかった場合、どのような問題が起こると考えられるでしょうか。

残業代が減って従業員の働く意欲が低下してしまう

残業が少なくなれば、家族と過ごす時間や趣味に費やす時間が増える一方で、残業代は減額してしまいます。

今まで家計を残業代に頼ってきた家庭においては、ローンや子どもの教育費を払えない、という事態もあり得ます。

これまでの生活が維持できなければ、転職を考えなくてはならない場合もあるでしょう。

仕事の持ち帰りやサービス残業の増加も懸念されるなか、残業代だけが減り、仕事量が変わらないのでは、労働意欲も低下してしまう可能性があります。

管理職の負担が増える

管理職の負担についても配慮が必要です。

時間外労働時間の上限厳守を強制された管理職は、時間内に終わらなかった仕事を巻き取ることになり、仕事持ち帰りや休日出勤が増える可能性も考えられます。

従業員の仕事への意欲低下・離職で損をするのは企業

管理職含め、従業員が仕事への意欲をなくすことで一番困るのは企業です。

大切な従業員の離職は、企業にとって大きなダメージとなります。

残業代が減れば企業の一時的な支出は減るでしょう。しかし、経営層はそれをゴールにしてはいけません。一時的に削減したコストを有効活用し、従業員の働く意欲を下げないための対策を考える必要があります。

残業規制の本来の目的は生産性の向上

そもそも残業規制の本質とは何でしょうか。

時間外労働を規制する本来の目的は、生産性を向上させ、働き手を増やすことにあります。

働きやすい環境を整えることで、結果として企業の利益に繋がるのです。

※労働生産性を向上させるためのポイントは、「労働生産性とは?混同しがちな定義と計算式をわかりやすく解説」の記事でも詳しく紹介しています。

先ほども述べたように、「労働時間の短縮」を従業員へ無理強いするだけでは、本来の目的は果たせません。

新たなツールの導入や、業務の一部外注を検討したり、取引環境の改善などといった環境の整備も必要です。

そして、これらに加えて必要不可欠なのが、メリットの明確化です。

時間外労働の規制が始まっても、収入は変わりません。一方で余暇が増えるのでワークライフバランスをより充実できるなど、従業員に対するメリットをあらかじめ提示しましょう。

そのためには、残業規制により削減したコストを従業員のために還元することが大切です。

従業員がしっかりとメリットを理解できていれば、新しい働き方に対しても前向きに取り組む社内風土をつくることができるでしょう。

残業代の還元により働き方改革に成功した好事例

実際に、残業代の還元を行うことで働き方改革を推進している企業もあります。

ここでは、SCSK株式会社の例をご紹介します。

業界特有の長時間労働に対する改革

SCSK株式会社は、2011年に住商情報システム株式会社と株式会社CSKが合併して誕生した、ソフトウエアの開発・ネットワークの構築などのITサービスを提供する企業です。

24時間、365日サービスを提供し続けなければいけないIT業界ならではの、日常的な長時間労働が問題視されていました。

2012年に社長に就任した中井戸氏(2020年現在、同社相談役)は、同社にも長時間労働の問題があることから、改革に乗り出したといいます。

残業代還元で社員の意識に変化

SCSK株式会社公式サイトより

経営トップ主導で始まった改革は、思い切ったものでした。

診療所や食堂を備えた新社屋へ移転するとともに、期間限定の「残業半減運動」の実施や、「有給休暇取得率90%」を目標にするなど大胆な改革を進め、約半分の部署で残業半減の目標が達成できました。

しかしその効果は持続せず、年度末の繁忙期にはもとに戻ってしまいました。

残業半減の文化を定着させるには、従業員の意識を変化させる必要があると経営層は考えました。そのために、「浮いた残業代を還元」することを決めます。

SCSK株式会社では、「スマートワーク・チャレンジ20」と称して、次のような施策を実施しました。

  • 20時間分の残業代を固定支給
  • 有給取得・残業時間削減目標を達成した組織へ特別ボーナス
  • 全社一斉年休取得日・取得推奨日
  • 5日間のバックアップ休暇(有給休暇を全部取得した後の不測の事態に付与)

このような施策により、社員自身が業務の効率化へ積極的に取り組むようになり改革が実現しました。

※出典元:SCSK株式会社公式ホームページ|スマートワーク・チャレンジ20実施による効果

稼働時間削減がクオリティ向上、利益の好循環になると取引先にアピール

稼働時間が減ることで業務の進行や対応速度に問題が生じると、「休んでいては取引先に迷惑がかかるのでは…」と心配する担当者の方もいるでしょう。案件受注の減少という懸念もあります。

SCSK株式会社では、取引先企業へ理解を求めるため、働き方改革によって業務のクオリティが向上すること、結果的に双方の利益に繋がり好循環を生み出すことを社外にアピールしています。

※出典元:SCSK株式会社資料|SCSKの働き方改革

残業代を従業員に還元する3つの方法

残業の規制により減ってしまった収入を固定給で還元できれば、働き手にとっては一番助かるでしょう。

しかし賃金を一斉に上げることは企業にとって負担が大きく、実際には困難な場合が多いと考えられます。

ここでは、給与アップ以外で残業代を還元する方法を3つご紹介します。

手当・賞与で還元

削減した分の残業代を手当や賞与で支給することができれば、働き手にとってもわかりやすく、企業側も負担が少なくて済みます。

効率よく短時間で業務をこなした結果、早く帰宅できる上にボーナスが支給されるのであれば、働き手の意欲もアップするでしょう。

また、十分な休みをとることで業務に集中でき、さらなる効率アップも期待できます。

カフェテリアポイントで還元

手当や賞与での支給が難しい場合、現金以外の方法で特典を与えたい場合には、カフェテリアポイントでの還元がおすすめです。

カフェテリアポイントとは、福利厚生サービスのカフェテリアプランで付与できるポイントで、金額やメニューは自由に設定可能です。

企業側が使って欲しいと考えるメニューに使途を限定することもできます。労働者の健康促進や生産性向上のためのメニューを選択することで、費用以上の効果が期待できるでしょう。

カフェテリアプランについては、「カフェテリアプランとは?導入から運用まで覚えておきたい10のこと」の記事で詳しく紹介しています。

各種割引サービス(福利厚生サービス)で還元

予算のあまりない企業におすすめなのは、福利厚生サービスの導入です。スポーツクラブやレストラン、旅行などが割引で利用できる福利厚生サービスは、働き手の収入を増やすことはできませんが、割引利用によって支出を減らせます。

1人あたり数百円から導入できるので、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

福利厚生サービスについては、「企業担当者必見!「福利厚生サービス」のおすすめ5選を解説」の記事で詳しく紹介しています。

時間外労働の上限規制は意識改革とセットで行うこと

残業時間を規制し、労働生産性を向上させるためには、労働環境の整備と同時に、働き手の意識改革も重要なポイントとなります。

「なぜそれをやるのか」「結果どうなるのか」といった、残業時間を減らすことに対する目的やメリットを明確にし、働き手の方からも積極的に協力してもらえるように、認識を共有することが施策成功へのカギとなるでしょう。

今回の働き方改革関連法の対策と併せて、魅力のある職場づくりのために、全社での意識改革を進めてみてはいかがでしょうか。

長時間労働の是正と共に検討すべき
福利厚生制度の拡充

多くの企業で課題となっている長時間労働の是正は、生産性向上や人材定着にも効果的です。

すでに多くの企業が取り組みを行っている中でセットとして注目されているのが、給与・福利厚生制度などの待遇面の向上です。

残業削減は従業員のプライベートを確保して仕事に対するモチベーションの向上に繋がっている一方で、残業代が減り、従業員の賃金低下が目立ってきています。

しかし、基本給を上げることは難しいので、残業代の代替策が求められます。

従業員満足度、生産性の向上、採用強化・離職防止に繋がる福利厚生制度の拡充を検討していくことが得策です。

業界トップの導入実績を誇るベネフィット・ステーションは、

・最短2週間で大手企業と同等の福利厚生を簡単に整備できる
全国の企業、幅広い年代層や多様なニーズに応えるための140万件を超える福利厚生優待サービス
契約団体数の16,103社、うち、公務団体の500団体が導入済み
従業員が直接サービスを申込むため、導入後の事務作業は一切なし

と、従業員1人あたり1,200円(税抜)~で充実した福利厚生制度の拡充が実現できます。

企業は人なりという言葉があるように、従業員の会社に対する満足度を高めることは、企業の業績を向上させることに繋がります。

ぜひこの機会に、福利厚生制度の拡充を検討していきましょう。


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