レジリエンスが高い人とは?ストレス社会に立ち向かうため身につける方法を紹介
「心が折れる」という慣用句がありますが、これは比較的新しい言葉で2000年代になってスポーツ選手を中心に使われたことから一般に広まり、2010年ごろから日本語として定着しています。
大辞林(第3版=三省堂、2006年)によると「苦難や逆境などで、その人を支えていたよりどころがあっという間になくなってしまう」という意味ですが、今の社会はこの言葉が連発されることからして、地球上にいる私たちすべてがストレスに直面してもしなやかな枝のように折れない心をつくることが急務であることを示しています。この折れないしなやかな心をつくるために培うべき能力が「レジリエンス」です。
レジリエンスの始まりは約400年前にさかのぼり、主に物理学や心理学で使用されていました。一方で、ビジネスにおいては2013年頃から使い始められましたので、ワードとしては聞いたことがあってもその意味の理解ができるビジネスパーソンは多くないのではないでしょうか。この記事ではレジリエンスに対する理解を深め、レジリエンスを高める方法について紹介します。
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目次
レジリエンスとは何か?
レジリエンスの定義
冒頭でも触れましたが、レジリエンス(Resilience)という言葉はもともと物理学や心理学の世界で使われていた専門用語でストレス(Stress)と共に用いられていました。レジリエンス研究の第一人者であるカレン・ライビッチ博士によると、レジリエンスとは「逆境から素早く立ち直り、成長する能力」と定義しています。
ストレスは今ではすっかり日常的に使われていますが、もともとは「外力による歪み」を意味するレジリエンスは、そのストレスを「跳ね返す力」や「歪みから元に戻る(回復する)力」を意味します。しかし、レジリエンスがビジネスで使われた始まりからまだ10年も経っていないこともあり、馴染みが薄い言葉という認識をしている人も多いことでしょう。
レジリエンスが高い人とは?
レジリエンスが高い人は、いつまでも落ち込んだりネガティブな気持ちを持ち続けたりするのではなく、逆境から素早く立ち直ることができる人のことです。
具体的なイメージとして、ゴムボールを使って行ってみましょう。
ゴムボールは掌の中で握りつぶそうとしても、もともと兼ね備えている弾力性で元の形に戻ろうとします。私たちの心も様々なストレスにさらされると握りつぶされそうなゴムボールのようになりますが、レジリエンスが高い人はゴムボールが元の形に戻るようにそこから立ち直りが早く、逆境を糧として成長することさえできます。
つまり、レジリエンスが高い人は自分のキャリアデザインを描いて実行している途中で、壁にぶつかっても悲観することなく前向きに受け止めて乗り越え、成長していく人とも言えます。
レジリエンスの対義語
回復力を意味するレジリエンスの対義語は「ヴァルネラビリティ(Vulnerability)」です。これは「脆弱性」や「脆さ」を意味します。
これも例えで考えてみましょう。
拳で握っているものがゴムボールでなく、土で固められたボールだったらどうでしょうか。とても脆く、少し力を加えただけで崩れてしまい、元の形に戻ることはありません。私たちの心も土で固められたボールのようなヴァルネラビリティではなく、ゴムボールのようなレジリエンスを兼ね備えていないとストレスを受けた際の回復に長い時間がかかります。
ビジネスで言えば問題やトラブルが発生した時に躊躇して対応が遅れたり、ミスや失敗をした際に立ち直れなくなるというイメージです。これは労働生産性の観点から見ると、組織にとっても個人にとっても大きな損失です。
レジリエンスの類義語
レジリエンスと似た言葉に「ストレス耐性(Stress Tolerance)」という概念があります。レジリエンスがストレスを甘受するだけでなく、それを跳ね返してさらに成長しようとする積極的な要素が加味されていることに対して、ストレス耐性はレジリエンスのようにストレスを跳ね返すものではなくストレスに耐える強さを測る受動的な力のことを意味します。
また、頑健性を意味する「ハーディネス(Hardiness)」という言葉がありますが、こちらはストレスに直面しても傷つかない強さのことです。外から傷つけようとしても傷つかない鉄球のような強靭さと言えるかもしれませんが、ゴムボールのような「しなやかさ」を表すにはレジリエンスのほうが適していると言えるでしょう。
レジリエンスとポジティブ心理学
ポジティブ心理学とは、労働者が仕事にやりがいを感じ、個人の人生や組織および国家を繁栄させていかに幸せで充実したものにするか、ポジティブな要素を研究する学問のことです。
レジリエンスは企業のメンタルヘルスで取り入れられているポジティブ心理学と密接に関係しています。従来の心理学は、例えばうつ病やPTSDなど人間のネガティブな側面である精神疾患を治癒し、マイナスをゼロに戻すかに重点を置いていました。これに対して、ポジティブ心理学は人間の心身ともに健康で幸福な状態を維持するポジティブな側面であるウェルビーイング(Well-Being)の向上や、組織や国家の繁栄をテーマとしています。
私たちがウェルビーイングを保つためにはポジティブな感情が必要です。そして、たとえ逆境にあってもそこから素早く立ち直り、回復できる能力であるレジリエンスが求められます。
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従業員が健康であれば高い集中力を保って仕事に取り組めるため、生産性が向上するというプラスのサイクルが生まれます。
ビジネスでレジリエンスを必要とする理由と現在の取り組み
レジリエンスがビジネスで普及したきっかけ
2013年に開かれたスイスでの世界経済フォーラム(ダボス会議)が、ビジネスにおけるレジリエンスが普及したきっかけの1つです。会議の中では各国の国力がレジリエンスを指標として評価されました。
グローバリズムが高度に発達した現代社会では、金融危機や食糧危機、流行病や感染症などの発端は局地的なものであっても瞬く間に全世界的な影響をもたらす因子が数多くあります。最近の例で言えば新型コロナウイルス感染症の世界的拡大がまさにそれでしょう。そして、それらの「外的な歪み」であるストレスに直面しても、すぐに回復できるしなやかさこそがその国家における本当の強さということになります。
これは国家だけでなく企業も同様で、グローバリズムの恩恵を受けながらもそのネガティブな影響に備えておかなければならないと言えます。そして、レジリエンスが高い従業員から構成される企業や組織は、予測不能で先行きが不透明な社会においても競争力を保ち続け、成長を伴いながら戦い続けることができるのです。
レジリエンスが注目されている理由
レジリエンスが注目されるようになった理由として、近年の労働環境が挙げられます。
2021年、厚生労働省によって行われた「労働安全衛生調査」(実態調査)によると、仕事や職業生活において強いストレスを感じる労働者は全体の53.3%で、前年度の54.2%とほぼ横ばいでした。その理由の代表的なものとして「仕事の量」が43.2%、「仕事の失敗、責任の発生等」が33.7%、「仕事の質」が33.6%であり、多くの労働者が仕事において何かしらストレスを抱えている関係にあることがわかります。この調査を2018年のものと比較すると、もっとも多いのは仕事の量・質でしたが、パワハラ・セクハラなどの人間関係も上位にあり、今はリモートワークとオフィス出社を併用したハイブリッドワークであることから割合が下がったと言えます。
レジリエンスを高めることは、このようなストレス因子を対処することにも非常に重要です。
レジリエンスを身につけるための取り組み
まず、レジリエンスを身につける前段階で従業員のストレスの状況を把握します。そこから実行に移すのですが方法として代表的なものは、組織分析にも有効といえるストレスチェックの実施です。
厚生労働省による2021年の「労働安全衛生調査」(実態調査)の事業所調査では、「メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所」の割合は65.2%でした。ストレスチェックが50人以上の事業所に対して義務化されたのは2015年末ですが、2013年の時点で急激に増加していることから、ストレスチェックもしくはそれ以外のメンタルヘルスケアに取り組んでいるものと考えられます。また、2021年のストレスチェックの実施率は前述のメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所のうち65.2%でした。
ストレスチェックの実施については50人未満の事業所では努力義務が現状ですが、企業側に求められていることは、ストレスチェック等を実施して従業員のストレスフルな現状を把握することやメンタル面で重大な疾患を抱えてから後発的に対処することだけではありません。企業は従業員が毎日のストレスに対してどのように向き合うのか、1人ひとりがレジリエンスを身につけ、ストレスから素早く立ち直り、成長していくための術を学べるように日ごろからサポートすることが必要です。そうすることで日に日にレジリエンスを高められ、ビジネスシーン以外でも折れないしなやかな心が備わっていきます。
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レジリエンスを高める3つの方法
レジリエンスはどうやって高めることができるのでしょうか。以下、3つのポイントを紹介します。
自己肯定感や自己効力感を高める
2018年、独立行政法人国立青少年教育振興機構が高校生を対象に行った意識調査によると、「自分は価値のある人間である」という質問に「YES」と答えた高校生は、アメリカで83.8%、韓国で83.7%、中国で80.2%であったのに対して日本では44.9%に過ぎませんでした。つまり、「自分には価値がない」と考えている高校生が日本では半数以上いるということになります。
この「自分には価値がある」という自己評価、つまり自尊心が高ければ困難に直面しても対処することが容易ですが、日本では「人に迷惑をかけない」ことが徳とされる文化的背景もあり、社会人になる前からすでにレジリエンスが育まれにくい環境にあると考えられます。
では、どのようにすれば自己肯定感を高めることができるのでしょうか。
自己肯定感は自信過剰とは異なります。自己肯定感を育むためには、ストレスに直面したときに自分の感情や強み・弱みなどを冷静に認識することが必要です。もちろん、誰もがストレスに直面すると不安や怒り、やるせなさ、絶望などを感じますが、それをそのまま爆発させるのではなくコントロールするように努めます。
そうすることで安定した感情で物事に対処することができ、「自分にはこの問題(ストレス)をよりよく対処することができるはずだ」という楽観性につながります。これこそが根拠に裏付けられた自己肯定感であり、「やればできる」という自信がつき自己効力感(Self-Efficacy)が生み出されます。
自己肯定感や自己効力感を育むためには自らの成功体験が重要ですが、他人の行動を観察する「代理的経験」によっても培うことができます。ですから、オフィス内で同僚の成功をただ羨んだり妬んだりするのではなく、自分の成功に応用できることはないだろうかと観察できる人は、自己肯定感を獲得しやすいと言えます。
また、培ってきた思考の枠組みをドラスティック(徹底的)に変えるためには、レジリエンス研修も有効です。
レジリエンス研修では単にレジリエンスについて講義形式で学ぶだけでなく、グループワークやディスカッションなど主体的に参加することでレジリエンスに必要なポジティブな思考を身につけられます。従業員教育でレジリエンス研修を取り入れれば、結果として組織全体のレジリエンス向上にもつながります。
DESC法によるアサーティブ・コミュニケーション
前述のような自己肯定感の低い人が長い時間をかけて培ってきた思考の枠組みを変化させるには、周りの人たちの助けやコミュニケーションと言った人との「つながり」がどうしても必要になります。人とのつながりはレジリエンスを機能させ、高める要素の1つである「保護因子」とも言えるでしょう。
オフィス内で互いに褒めたり感謝を伝えたりできる雰囲気を醸成することは、従業員の自己肯定感を高められます。これは単に上司が部下に気まぐれで「頑張れ」、「君ならきっとできる」と言葉をかける以上のことが関係しています。また、オフィス内のように直接的ではなくオンライン上であっても同じことが言えます。前述したように、自己肯定感や自己効力感を高めるためには従業員が「自分でやってみたらできた!」という体験がベースになりますので、上司や企業は部下の取り組みに対する目標が達成されるまでサポートすることが必要です。
また、どのようなコミュニケーションスタイルを採用するかがレジリエンスと大きく関係しています。
コミュニケーションスタイルは「受け身(Passive)」、「攻撃的(Aggressive)」、「アサーティブ(Assertive)」の3つに分類できます。ストレスに直面した時、私たちは自分の感情や気持ちをきちんと伝えない「受け身」なコミュニケーション、あるいは逆に相手を批判したり、人の話を聞かなかったりする「攻撃的」なコミュニケーションになりがちです。
それに対して、レジリエンスが高い人の場合、コミュニケーションは「アサーティブ」になります。
アサーティブとは自己主張を意味し、コミュニケーションでは率直で、誠実、自分の気持ちや考えをまっすぐ伝えるように努力します。アサーティブ・コミュニケーションはDESC法(デスク法)で実践され、「事実を描写する(Describe)」、「気持ちを説明する(Explain)」、「行ってほしいことを具体化する(Specify)」、「選択する(Choose)」の4つの手順で対応します。
1つ例を挙げましょう。
あなたはとある会社の部下を持つ上司で、部下が報告書を提出期限に遅れて提出したとします。報告書を受け取ったあなたは、DESC法で以下のように対応します。
Describe:感情ではなく「報告書の提出が1日遅れているよ」と事実のみを描写します。
Explain:気持ちをぶちまけるのではなく、「なにかトラブルでもあったのかと思って不安になったよ」と説明します。
Specify:「もし、期限に間に合わないような場合は、前もって連絡をくれると助かる」と、行ってほしかったことを具体化しましょう。
Choose:「前もって連絡をくれていたら待つことができるが、もし連絡がなければ他の人にお願いすることになるよ」と伝え、部下がどうアクションを起こすのか選択を提示します。
部下が上司に対してこのようなコミュニケーションをすることは簡単ではありませんが、決してできないわけではありません。しかし、どちらかと言えば上司が率先してアサーティブ・コミュニケーションを促進すると、お互いに感情や気持ちを伝えやすい雰囲気が創り上げられ、職場全体のコミュニケーションのみならずレジリエンスも向上すると言われています。
精神的敏捷性を高める
精神的敏捷性(Mental Agility)とは、物事を多面的、大局的に捉えることです。
精神的敏捷性の高い人ほど自分のことを客観的に観察することが可能です。精神科医の樺沢紫苑氏によると、うつ病患者ほど自己洞察力が低く、重症者であっても「自分は大丈夫」と思い込んでいると言います。
精神的敏捷性がなければ、ストレスに直面した際に自分の置かれている状況をきちんと認識できないため、問題が長期化、重症化しやすいことがわかります。
では、精神的敏捷性を高めるためにはどうすれば良いのでしょうか。
樺沢氏はアウトプットが有効的であり、「書く」ことによって自分の内面を客観的に観察できるようになると言います。同氏は毎日寝る前に、その日のうちに経験した楽しかったことやポジティブな出来事を3つ書く「3行ポジティブ日記」を習慣として行っています。この習慣は精神的敏捷性だけでなく、前述した自己肯定感や自己効力感、またそれらの基礎となる自己認識や楽観性をも高めるのに効果的です。
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レジリエンスを身につけた組織は生産性や競争力が高い
この記事では、レジリエンスが高い人の特徴と、レジリエンスを身につけるための3つのポイントを紹介しました。
誰にでも何かしらの得手不得手がありますので「自分はそんなにポジティブに問題に対処できない」、「気持ちを正直に伝えるなんて無理」と感じる方もいると思います。しかし、レジリエンスは能力ですので、英語を話したり自転車に乗ったりするのと同じように学ぶことで身につけられます。
企業には従業員満足度を高め幸福を感じられるよう従業員1人ひとりがレジリエンスを身につけ、それを高めることで様々な課題を解決できるように育成し、逆境やストレスに立ち向かう折れない心の成長の支援も必要です。後発的な対処にならないように従業員の日々のコンディションを確認し、軽微なストレスを把握することからがサポートの第一歩です。ストレスを跳ね返し、ストレス通じて成長できる強い心を持つ従業員で構成される企業では生産性や競争力が向上し、ひいては組織の強みにつながることを念頭に置いて、心身ともに健康な組織づくりに取り組みましょう。
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競合他社との差別化をはかる!企業のイメージアップは「ベネフィット・ステーション」で
人生100年時代と言われるようになり、定年年齢の引上げや定年廃止が進んでいます。
少子高齢化による人手不足の原因の一つとなっている中で、「企業のイメージアップ」は離職率低下や若手の人材確保において重要な役割を担います。
例えば「仕事とプライベートの充実ができる働きやすい会社か」「風通しが良い社風で一緒に働く人と一体感を持つことができる働きがいがある会社か」といった不安を払拭する必要があります。 これらの課題は、福利厚生サービスベネフィット・ステーションの導入で解決すること出来ます。
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2. 企業の福利厚生制度として「スポーツジム割引」「育児・介護補助」などの記載が出来るため、競合他社との差別化ができる
従業員が企業担当者を介さずサービスの利用申し込みを行うため、導入後の事務作業はほとんどありません。
ぜひ、企業のイメージアップや労働環境の改善策の一つとして、福利厚生制度の検討をしましょう。