健康経営

【判例でみる】安全配慮義務とは?正しく知っておきたい対象範囲と注意点

企業が安全配慮義務を順守して従業員に適切な対応をとっているイメージ

普段あまり意識することはありませんが、実は企業には従業員が安全に働けるように配慮する義務が法的に定められています。これを「安全配慮義務」と言います。安全配慮義務における配慮の範囲は広範にわたっており、施設や備品の整備だけではなく従業員の健康への配慮や勤務実態、労働環境の把握なども含まれます。今回は安全配慮義務について、その意味や事例、注意したい具体的なポイントを含めて解説します。

【アンケート】従業員の健康に対する意識理解していますか? 

効果的な健康経営を実施するためには、現状を把握したうえで、自社に適した取組みを検討することが重要です。ただ、なにから実施すればいいのかわからない方が多いのではないでしょうか?自社の現状把握はアンケートを活用しましょう。

・健康に対して持っている意識
・健康に対しておこなっている取組みはなにか

こういった従業員の現状を知ることで、自社に適した効果的な取組みを実施することが可能です。以下より無料でダウンロードできますのでぜひご活用ください。

安全配慮義務とは何か

厚生労働省のイメージ

安全配慮義務とは、労働契約法第5条で定められている、使用者(企業)が従業員の安全に配慮する義務のことです。また、労働安全衛生法第3条第1項では、事業者(企業)は労災防止の最低基準を確保するだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて労働者の安全と健康を確保しなければならないと定めています。

言い換えると、従業員が安全に働けることは法律で定められており、企業が必ず守らなければならないということでもあります。

違反の際の具体的な罰則について労働契約法では規定されていませんが、安全配慮義務を怠った企業には損害賠償が請求されるおそれがあります。

最近の判例(新型コロナ以外)

質問に対して誤りと回答する従業員

安全配慮義務違反の理解を深めるために、比較的最近に起こった発電設備の製造・販売などをおこなう企業の事例についてみてみましょう。

当該企業では、新入社員研修として研修施設に約2週間泊まり込み、朝6時半から夜7時まで座学や試験をおこなうという過酷な研修を実施していました。このうち休日は1日だけで個人の財布・携帯電話は事前に回収し、夜間の外出も禁止されていたといいます。その中でもこの判例のきっかけとなったカリキュラムは、24km5時間で歩き通す歩行訓練です。原告となった48歳の男性は、歩行訓練中に足をくじき病院に行かせてほしいと講師に訴えたものの許可されませんでした。

結果として男性は24kmの歩行訓練を続行し、足に障害が残ってしまったのです。判決では、無理のあるプログラムであり、病院に行きたいという申し出を拒否した企業側の安全配慮義務違反が認定されました。外出禁止やけがの場合にも病院に行かせないなど、まるでいじめに相当するような行き過ぎた指導は典型的なパワーハラスメント(パワハラ)行為に関する判例といわれ、企業として安全配慮義務を怠っていることがよくわかります。

2018年に判決が下った裁判では、当該企業に対して約1,592万円の損害賠償が命じられました。

最近の判例(新型コロナ)

質問に対して正しいと回答する従業員

2020年、世界的な感染拡大が起こった新型コロナウイルス感染症では、マスクの着用や手指の消毒、人同士の距離を空けるなど様々な対策が講じられました。パンデミックが発生していても企業はBCP(事業継続計画)を策定し、在宅勤務を実施してチャットやWeb会議などオンラインで従業員同士のコミュニケーションを確保したことが記憶に新しいことでしょう。そのコロナ禍での在宅勤務について、外資系人材紹介会社の派遣社員が起こした訴訟についてみてみましょう。

情報システム開発が業務のこの派遣社員は、202032日~331日までの期間、企業へ派遣されていましたが、当時、次第に拡大しつつある新型コロナの感染懸念から時差出勤と在宅勤務の実施を派遣元会社へ希望していました。この申し出を受け派遣先企業はすみやかに時差出勤を許可し、のちに在宅勤務も許可しました。

しかし、当該派遣社員は在宅勤務で取り決められていた始業時間より繰り上げて業務をしていたため、派遣先企業は在宅勤務を許可して1週間も経たないうちに在宅勤務を中止し、出社するように指示しました。そして、派遣契約期間の331日をもって契約満了の通知をしたところ、感染症対策による在宅勤務の実施を中止することは労働者に対する安全配慮義務を怠り、なおかつ派遣契約が満了となった理由が明文化されていないことは労働契約法19条に違反するとし、損害賠償請求に発展しました。

当時、新型コロナは感染拡大中でしたが、まだ全容が見えず、在宅勤務をすることが感染症対策に該当するかどうかは明らかではありませんでした。この背景から結果として、感染症対策に備え当該派遣社員の希望を受け入れて時差出勤を許可していたことは、当該派遣社員に対する安全面の確保に努め十分に感染を回避したことに相当しています。また、契約満了については現状が331日までの有期雇用契約であることや更新機会が今回で初回だったということもあり、労働契約法に違反していないと判断され、当該派遣社員の請求は棄却されました。

健康経営、うまく実践できていますか?

健康経営とは、従業員の健康管理を経営課題として戦略的に取り組む経営手法のことです。
従業員が健康であれば高い集中力を保って仕事に取り組めるため、生産性が向上するというプラスのサイクルが生まれます。

しかし、健康経営は効果が見えにくく、担当者の負担だけが増える一方に思われがちです。

そこで、健康経営にはどのようなメリットがあるのか、特に健康経営が必要な企業の特徴を挙げ、取り組みの手順をまとめました。

健康経営銘柄や健康経営優良法人と言った顕彰制度の申請方法についても掲載していますので、理想的な健康経営を実現しましょう。

「配慮する」範囲は一体どこまでなのか

業務で疑問や課題を考える人事部門の従業員

前述のとおり、訴訟問題に発展する場合もある安全配慮義務について企業としては十分気をつけたいですが、法律の条文を読むだけでは「従業員の安全」における範囲について、具体的にどこからどこまで企業が心がけなくてはならないのかはわかりません。安全配慮義務を遂行するには、以下三つの施策を実行することが基本です。

1. 施設や備品の管理の徹底

2. 各従業員の労働実態の把握

3. 健康診断や産業医面談の実施

施設や備品の管理の徹底

例えば、運送業のようにバイクやトラックを業務で使用する場合には、業務上の災害や事故などが発生しないように常に整備しておくことが必要です。平時とは異なる事態においても、それらを予見し従業員の安全を守る義務が企業にあるということです。

また、工場など製造業においては、整理・整頓・清掃・清潔・躾と言った「5S活動」を実施してケガや事故を未然に防ぎ、きれいに行き届いた安全な職場環境を保つことができると言われています。5S活動は従業員自らがおこない、自分で使用する機械や工具を使用前に安全点検します。また、機械の使用方法や作業の手順には決まったルールを策定し、安全な業務遂行を実現します。

これらの「整理整頓」「点検整備」「標準作業」は、「安全の三要素」と言われています。

各従業員の労働実態の把握

長時間労働をおこなわせる・放置することも安全配慮義務違反とみなされます。長時間労働は上限を超えると労働基準法違反となり、懲役や罰金と言った刑事罰が科される場合もあります。企業側は労働実態を把握することで、うつ病などメンタルヘルスにかかわる疾病や、最悪の場合は過労死や過労自殺につながる従業員の健康を害する内容を予見できるためです。この点からも、各従業員の労働実態と健康状態を把握しましょう。

健康診断やストレスチェックを実施して産業医面談の実施

従業員の健康状態を正確に把握するためには、健康診断の実施が必須です。従業員が健康診断を受診することは企業の義務であり、労働安全衛生法第66条にも定められています。従業員が健康で安全に働ける安全配慮義務まさにそのものです。

また、ストレスチェックの実施も必要です。中小企業は努力義務ではありますが、昨今の人手不足や人生100年時代にともなう人的資本の観点からも事業場規模を問わず実施することをおすすめします。

労働実態を把握してやむを得ず長時間労働になっている従業員や、ストレスチェックの結果で高ストレス者に該当した従業員には産業医面談を実施し、従業員の健康支援やストレスチェック後のメンタルサポートをしましょう。

競合他社との差別化をはかる!企業のイメージアップは「ベネフィット・ステーション」で

人生100年時代と言われるようになり、定年年齢の引上げや定年廃止が進んでいます。
少子高齢化による人手不足の原因の一つとなっている中で、「企業のイメージアップ」は離職率低下や若手の人材確保において重要な役割を担います。

例えば「仕事とプライベートの充実ができる働きやすい会社か」「風通しが良い社風で一緒に働く人と一体感を持つことができる働きがいがある会社か」といった不安を払拭する必要があります。 これらの課題は、福利厚生サービスベネフィット・ステーションの導入で解決すること出来ます。

1. 140万件以上のサービスが利用できるため、年齢や性別関係なく、従業員の多様なニーズに応えることができる

2. 企業の福利厚生制度として「スポーツジム割引」「育児・介護補助」などの記載が出来るため、競合他社との差別化ができる

従業員が企業担当者を介さずサービスの利用申し込みを行うため、導入後の事務作業はほとんどありません。

ぜひ、企業のイメージアップや労働環境の改善策の一つとして、福利厚生制度の検討をしましょう。

気をつけたいケース

安全配慮義務など従業員の業務保全に関する警告をする従業員

ここまで見てきたように、安全配慮義務の対象は広範にわたります。その中でも、昨今の社会情勢から人事・総務担当者として気をつけておきたい項目をピックアップしました。

パワーハラスメント

例えば、部下に対して大声で怒鳴るような上司がいたとします。こうした態度を放置した結果、部下がうつ病を発症するようなことがあれば、それはもう上司個人の問題ではありません。企業としても安全配慮義務違反と認定されるおそれがあるからです。

通常、人事・総務部門は現場の人間関係に介入することはあまりないかもしれません。しかし、パワーハラスメント(パワハラ)やセクシャルハラスメント(セクハラ)のような行為が発生しないよう適切な人事施策を実行していく必要があります。前述の発電設備の製造・販売会社の判例のように、まさに常態化したパワハラの結果、安全配慮義務違反として企業側に損害賠償が科される可能性もありますので、人事担当者としては理解を深めておきたいところです。

過重労働

働き方改革の推進が開始された2019年以降、特に長時間労働は大きく問題視されるようになりました。安全配慮義務の範囲にも記述がありましたが、過剰な残業や長時間労働はうつ病のような精神疾患や、最悪の場合には過労死や過労自殺を引き起こすことが明らかになっており、国も月80時間を超える時間外労働・休日労働をいわゆる「過労死ライン」と設定しています。

これらを超える、あるいは近い形での過重労働が自社でおこなわれていた場合、安全配慮義務違反のおそれがあります。従業員が「安全に働ける」こととは、企業が労働の実態を正確に把握し、もしリスクがあった場合には適正な対策を取ることなのです。参考になる判例としては、2014年に横浜市で長時間の深夜勤務を終えて帰宅中の男性がバイク事故を起こし死亡した事件で、勤務先の企業が安全配慮義務違反を根拠に約1億円の賠償請求を起こされたケースがあります(2018年に和解勧告)。

危険地域への海外赴任・出張

コロナ禍を経て、海外旅行再開の兆しが見え始めた現在、ビジネスのグローバル化も加速を増す中で、人事・総務部門ではこれまで経験がなかった国への海外赴任や出張に対応するケースも増えるかもしれません。従業員が海外で就業している場合でも、もちろん企業側の安全に配慮する義務は生じます。このためには、現地の情勢や危険情報の共有、万が一の際の支援機関(医療・保険など)との提携など、体制構築が不可欠です。

この場合、より外部の専門家の力が必要になってくるでしょう。また、現地法人は日本よりも小人数で運営されるケースが多く、場合によっては数十人の現地人スタッフをひとりの日本人が統括しなくてはならないこともあります。こうした環境では当然ストレスもたまりやすく、過重労働に自ら陥ってしまう危険も高まります。遠隔地勤務の際にも先述のような健康や労働の管理が必要であることを、念頭に置いておきましょう。

健康経営に関するお役立ち資料

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安全に配慮することが企業の活性化にも寄与

従業員との雇用契約が結ばれた時点から、使用者には「安全に配慮する義務」が生じます。

従業員が安全で健康に業務をすることは企業の安全配慮義務であり、それを実現するためには従業員の労働実態を把握して健康についても把握することが必要ということを紹介しました。長時間労働には健康に影響を及ぼす問題が多く含まれています。業務量の調整や柔軟な働き方の実施し、それでもパフォーマンスが改善されない場合は人事異動をすることで、まずは従業員の長時間労働を削減して安全配慮義務を果たしましょう。

また、安全配慮義務自体、普段は意識しないことでありますが、冒頭の判例をみても広範囲にわたる配慮義務があることをおわかりいただけたかと思います。こうした配慮義務を果たすことが職場の働きやすさに貢献し、企業が活性化するカギにもなりますので、ぜひこの機会に見直してみてはいかがでしょうか。

しかし、従業員1人ひとりの健康状態にまで配慮するというと非常に大変に思われます。健康経営優良法人や健康経営銘柄の認定を受けるためには健康診断の受診率は100%達成が必須ですが、コロナ禍で受診を控える現状もあり、自社だけで達成するのはなかなか難しいようです。

このような課題には外部に委託するという方法があります。例えば、ベネフィット・ワンが提供している健康支援ハピルスは健康ポータルと健康ポイントの2つから構成されており、健康ポータルに健診結果などの情報を入力することで従業員は自分の健康状態を把握できます。また、健康ポイントで貯まったポイントで健康商品や美容グッズを獲得できますので、個人の健康状態が向上する上に企業の健康経営も実現できます。

他にも、ベネフィット・ワンでは健康診断や特定保健指導、ストレスチェックやワクチン接種の運営代行などのサービスを企業や自治体へ提供しています。中小企業向けのパッケージプランもあり、当社のような専門業者から支援を受けることは、適正かつ効率的に従業員の労働実態の把握や健康管理をおこなうポイントのひとつだと言えるでしょう。

ベネフィット・ワンは、様々なサービスで従業員と企業が元気になるのをサポートします。組織活性化のためにこれらの活用を検討してはいかがでしょうか。

    従業員の健康を支援するヘルスケアサービスについて

    人生100年時代と言われるようになった昨今、新型コロナの影響で在宅勤務が進み、従業員の健康管理や健康促進など健康課題を抱えている企業が増えています。

    ベネフィット・ワンでは、そのような健康課題を解決するサービスを多数ご用意しています。

    【サービスの一例】
    ・健康診断の運営代行
    ・特定保健指導の支援
    ・ストレスチェックのWeb実施
    ・各種ワクチン接種の運営代行(新型コロナ・インフルエンザ)
    ・健康促進に有効なインセンティブポイントサービス

    中小企業の方へは、産業保健をすべてひとまとめにしたパッケージサービスもございます。

    ぜひ、下のリンクから課題を確認し、自社に合ったサービスを検討してみてください。


    企業の健康課題に合わせたサービスの選び方はこちら