休職中の従業員に給与・手当・ボーナスは支給する?企業側の対応を解説
適応障害やうつ病などの精神疾患をはじめとした心身の不調などさまざまな理由により、会社を休職する人が増えています。休職した場合は、従業員の収入源がなくなるというイメージを持つ方も多いでしょう。しかし、休職中でも給与や手当の支払いをおこない、従業員に対してある程度生活の保障をする企業もあります。
この記事では、具体的に従業員が休職するとどんな収入源があるのか、また、会社の担当者はどのような対応をすべきなのかについて詳しく解説します。
目次
休職中の従業員の給与・手当はどうする?企業側の対応を解説
従業員が休職した時、その給与や手当について企業側はどのような対応を取ればいいのでしょうか。
給与
休職している従業員に対して企業が給与を支払う義務はありません。給与は労働の対価であるためです。労働基準法第24条にも、「ノーワーク・ノーペイの原則」が定められていますので、休職の場合は無給となります。しかし、各社の就業規則によっては休職中でも一定の割合分の給与を支給する場合があります。これは法の定めではなくあくまでも各社の規定によるため、取るべき対応に企業ごとの違いがあります。
なお、給与を支給する場合には、標準報酬月額に即して社会保険料や所得税などの各種保険料をこれまでどおり課税して徴収しなければなりません。支給なしの場合でも、会社に籍はあるため保険料の支払義務は生じます。ただし、これまでのように給与からの天引きができないため、会社が立て替えるのかそれとも従業員自身に支払いを求めるのか、この点も就業規則に即した手続きを取る必要があります。休職にともない給与が減額されても標準報酬月額が減額されるわけではありません。よって、保険料も減額されないまま控除されますので注意しましょう。
ボーナス(賞与)
休職中の職員にボーナスを支給すべきか否かについても、法律の定めはありません。給与と同様に、各社の就業規則や労使協定に従って手続きをします。仮に、ボーナスを支払うことが明示されているのであれば支給義務が発生します。
しかし、ボーナスは仕事の成果に応じて支給されるというのが一般的です。休職中はその成果を上げることができないため、ボーナス自体は支給するものの査定の結果0円もしくは寸志相当の金額までカットされているということもあります。ボーナスの査定方法については、このあと詳しく解説します。
傷病手当金
傷病手当金は、健康保険から給与分の約3分の2が最長1年6ヶ月にわたって支払いがなされる休職者への給与の支給制度です。以下4つの要件を満たしている場合にのみ、休職者は傷病手当金を受け取ることができます。
1. 業務外の事由による病気や怪我の療養のための休職である
2. 労働できない状態である
3. 連続する3日間を含めて4日以上労働ができない状態である
4. 休職中に給与の支払いがない
休職者が上記の条件に該当している場合、申請書を渡して手続きに必要な書類について説明します。会社記入欄もあるため、できるだけ早く提出するよう促しましょう。なお、業務中や通勤中の事由が原因で休職した場合には、以下で説明する労働者災害補償保険が対象です。
労働者災害補償保険
休職者が労働者災害補償保険の対象となるのは、以下3つの条件に該当する場合です。
1. 業務上の事由または通勤による疾病や負傷のため、療養している
2. 労働ができない状態である
3. 会社から賃金を支給されていない
支給金額は、休職初日から3日目までの「待機期間」は業務災害の場合、会社が休業補償として1日の平均賃金の60%を支払わなければなりません。4日目からは、休業(補償)給付と休業特別支給金が支払われます。
具体的な計算方法は以下のとおりです。
休業(補償)給付=給付基礎日額の60%×休業日数
休業特別給付金=給付基礎日額の20%×休業日数
(休業補償給付とは業務上の理由の場合に、休業給付とは通勤中の理由の場合に使われる用語です。また、給付基礎日額とは労働基準法の平均賃金に該当する額であり、医師により疾病が確認された日の直前3ヶ月間に支払われた臨時支給を除く給与の総額を日数で割って計算されます。)
休職者が条件に該当した場合には、請求書を渡した上で必要な手続きについて説明をします。会社の証明欄もあるので、できるだけ手続きが早く進むように促しましょう。なお、請求書は業務上の事由の場合は「休業補償給付支給請求書 様式第8号」ですが、通勤中の災害が原因の場合は「休業給付支給請求書 様式第16号の6」です。渡すべき請求書を間違えないように注意してください。
また、従業員から休職を希望された場合の手続きはコチラのページにまとめています。合わせてご確認ください。
休職中のボーナス査定方法は?
休職中にもボーナス(賞与)を支給する場合、どのくらいの金額が査定されるのでしょうか。
一般企業の場合
一般企業においては、ボーナスの査定期間中に勤務実績があると支給される可能性があります。日本ではボーナスの支給日が夏・冬の時期とされるのが一般的ですが、ボーナスの支給月を7月と12月とすると、査定期間はそれぞれ4~9月と10~3月になります。
ただし、査定期間中に勤務実績があったとしても、会社によっては最低出勤日数や支給額の制限などが設けられていることがあり、条件を満たしていなければボーナスが支給されないこともあります。ボーナスの支給対象か否かを判断するためには、勤務実績と就業規則をしっかり確認するようにしましょう。
公務員の場合
公務員は一般企業とは異なり成果では評価されません。そのため、査定期間中に勤務していたか否かがボーナスの支給可否のポイントとなります。
国家公務員の場合、ボーナスは6月と12月に支給されます。査定期間はそれぞれ12月2日から6月1日、6月2日から12月1日です。この査定期間の勤務実績に応じてボーナスは支給されます。公務員は査定期間中に6ヶ月間フルで勤務していた場合には、100%の割合でボーナスを受け取れます。しかし、3ヶ月の場合には50%、1ヶ月の場合には15%といったように勤務状況に応じた割合となり、1日も勤務がなかった場合は0%、つまりボーナスは支給されません。これは、人事院規則の定めによります。
地方公務員においても国家公務員とほとんど同じ定めではありますが、正確には地方条例で規定されており国家公務員と若干異なる部分もあります。したがって、各自治体の条例にてご確認ください。
ボーナス支給は手当金額に影響する?
ボーナスの支給が年3回を超える、つまり4回以上になる場合には傷病手当金や出産手当金の金額が調整されることがあります。会社から報酬を受け取っている場合には、傷病手当金の調整対象になるためです。なお、「報酬」については健康保険法3条5項に以下のような規定があります。
「この法律において「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。」
要するに、ボーナスが年3回までの支給ならば「賞与」とみなされるため、手当調整対象とはならず特に心配する必要はありません。しかし、年4回以上ボーナスが支給されると「報酬」とみなされる場合があります。また、年俸制で年間の支払回数が16回以上になると13回目以降の支払いがボーナスとして4回以上になり、健康保険法の「報酬」とみなされる場合があります。この場合には、手当金が減額調整されることになります。
産休・育休中はボーナスを支給する?
産休や育休の場合にも法的なボーナスの支給義務はないため、各社の就業規則や労使協定の定めによって支給されるか否か決まります。例えば、就業規則に「休業中の者には賞与を支給しない」とあった場合、査定期間中にすべて休職していたのであればボーナスの支給対象にはなりません。しかし、1日でも勤務実績がある場合には、ボーナスを支給しなければ規約違反となるため注意しましょう。
また、「賞与は、会社の業績と個人の成績を勘案し各人ごとに決定する」という就業規則があれば、ボーナスの支給可否はその時々で決定されます。このように、産休や育休を取得する時期によって支給されるケースと支給されないケースが出てきます。なお、年3回以内のボーナス支給であれば、出産手当金の金額が調整されることはありません。また、育児休業給付金や出産育児一時金はボーナス支給と無関係です。
休職予防はツール導入でスムーズに
休職したからといってすぐに収入が途絶えるわけではなく、一定の期間ならば給与や傷病手当金、労災保険によりある程度の収入は確保することができます。しかし、ボーナスの支給対象となるかは、一般企業であれば各社の就業規則や休職者の勤務実績によって決まります。いずれにしても、査定期間中に休職した従業員に満額の支払いをする企業は少なく、減るもしくはなしのケースがほとんどでしょう。
従業員が休職することなく心身ともに健康で働けるよう、企業は従業員が抱える問題にいち早く気づいて対処したり、悩みや不安を吐き出せる場を設けたりする必要があります。
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