健康経営とは? 定義やメリット、具体的な取り組み方や事例を徹底解説!
近年、長時間労働の常態化や、それに伴う精神疾患の増加によって、「健康で元気に働く」ことが難しくなっています。こうした状況の中、政府が主体となって推進している健康経営が、企業からの注目を集めています。
一方で、企業の経営層や人事部門の中には「健康経営に取り組みたいけれど、何から始めれば良いのか…」といった課題を持つ方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、健康経営の基本を踏まえ、導入ステップや先行事例について、詳しく解説していきます。
目次
図解でわかる!健康経営とは
健康経営とは、「従業員等の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、経営的視点から考え、戦略的に実践すること」を指します。
企業が長期的なビジョンで従業員の健康保持・増進に取り組むことで業務効率や生産性が向上し、ひいては業績や企業価値の向上につながるという考え方で、政府の「ヘルスケア政策」のひとつとして注目されています。
従業員が健康であれば、高い集中力を保って仕事に取り組めるため、生産性が向上します。さらに医療費にかかる企業負担が減少することで、利益率が上がるという、次の図のようなプラスのサイクルが生まれます。
このサイクルを作るために、企業が投資して従業員の健康を管理するというのが健康管理の基本です。健康経営では、従業員の健康管理にかかる負担は、費用でなく「将来に向けた投資」と捉えます。
この考え方の始まりは、アメリカの経営心理学者ローゼンの著書「The Healthy Company」だといわれており、「健康経営の考え方のバイブル」として、経営者で愛読する方も多いです。
対して、「不健康経営」ともいえる状態においては、従業員の健康悪化が生産性の低下・離職率の増加につながり、結果的に企業収益性が低下・健康増進に投資もできない状態という負のスパイラルを生みます。
健康経営が注目されるようになった背景
日本において健康経営が注目されるようになった背景には、政府の各種戦略が大きな役割を果たしています。
中でも、企業が従業員の健康に着目する大きなきっかけとなったのが、2013年に策定された「日本再興戦略」です。この戦略は、少子高齢化が進む中で日本経済の持続的成長を目指し、企業の競争力強化を図ることを目的として策定されたものです。その中で、労働生産性の向上が重要な課題とされ、従業員の健康を維持・向上させることが生産性向上の鍵と位置づけられました。
さらに、2017年の「未来投資戦略」では、「Society5.0の実現に向けた改革」として、健康寿命の延伸が重要な柱とされ、経営者を主体とする健康維持・増進の取り組みが求められるようになりました。この戦略には健康経営という用語も記載されるようになり、経営者が従業員の健康経営に取り組むことが、企業価値を高める重要な要素と認識されるようになったと言えます。
加えて、2019年の「成長戦略」では、企業と保険者が連携して従業員の健康づくりを行う「コラボヘルス」の取り組みが明記されるようになります。健康経営を推進する企業を支援するためのインセンティブも導入されるようになり、健康経営の普及はますます加速しています。
健康経営のメリット
ここでは、企業が健康経営に取り組むメリットについて、5つに分類してそれぞれ解説していきます。
メリット1:生産性向上
従業員が心身ともに健康な状態で仕事に取り組めば集中力が上がり、良いパフォーマンスを発揮できます。しかし、何らかの不調を抱えている場合、「ミスしやすくなる」「作業スピードが低下する」「判断力が低下する」といったケースが増え、生産性が低下する傾向があります。
特に、イライラや不眠などのメンタル不調や、体の痛みを抱えている状態など、「出勤で仕事はしているものの、不調がある」状態では、健康な状態と比較してパフォーマンスが低下してしまいます。
経済産業省の資料(※1)においても、従業員1人当たりのパフォーマンス低下による損失額(3ヶ月間あたり、症状別)について、メンタルで約15,000円、睡眠で約14,000円などといった試算が示されています。
(※1)「企業の「健康経営」ガイドブック ~連携・協働による健康づくりのススメ~」
厄介なことに、メンタル面の不調や慢性的な肉体の不調は、本人には辛い一方、周囲は気付きにくいという側面があります。また、従業員が出勤して通常どおり勤務していることから、パフォーマンス低下も見逃されがちです。
こうしたパフォーマンス低下に気づき、従業員の健康状態を改善することができれば、企業の生産性向上につながります。
メリット2:リスクマネジメント
従業員が健康に問題のある状態で勤務を続けていると、最悪の場合、心筋梗塞やくも膜下出血など、重篤な症状につながるケースもあります。
万が一、従業員が突然入院したり、死亡したりするようなケースがあれば、周りの従業員に不安を抱かせることはもちろん、さまざまなトラブルや経済的損失のリスクが懸念されます。
その点、従業員の健康状態を定期的に把握し、早期に健康上の問題を発見・対応することで、そうしたリスクを最小限にすることができます。
メリット3:企業のイメージアップ
従業員の健康問題や労働環境の悪化は、生産性低下を招くだけでなく、悪評や企業イメージの低下につながる可能性があります。
一方で、健康経営に積極的な企業は、従業員の健康を大切にし、働きやすい環境を提供していると社会から評価されます。このような企業は、優秀な人材の採用や定着に有利になるだけでなく、取引先や顧客からの信頼も得やすくなります。
最近では、健康経営を行う企業を政府主導で「認定」する制度もスタートしており、こうした制度を活用することで、効果的にイメージアップを図ることができるでしょう(認定制度については後述)。
メリット4:離職率の低下
健康経営に取り組んでいない企業では、従業員の健康問題が放置されることが多く、ストレスや過労などの問題によって、離職率が高まりがちです。
一方、健康経営に取り組むことで働きやすい環境づくりが進むと、従業員が長く働きたいと感じるようになり、離職率の低下につながります。
実際に、経済産業省の資料(※2)健康経営銘柄や健康経営優良法人など、健康経営に積極的な企業においては、全国平均と比較して、離職率が低い傾向にあるという調査結果も示されています。
(※2)「健康経営の推進について」
メリット5:認定制度獲得による各種優遇制度
前述したような、政府主導の認定制度を取得することで、健康関連の施策や設備投資に対して、税制優遇措置や補助金を受ける機会が増えます。
また、金融機関からの融資においても、健康経営に取り組む企業は信用力が高いと評価され、融資条件が有利になるケースもあります。
日本政策金融公庫の融資制度のひとつ「働き方改革推進支援金」は、その好例のひとつといえます。この制度では、健康経営優良法人(後述)の認定を受けている企業を対象に、特別利率で融資を行っています。
同様に、最近では株主や投資家も、企業の持続的な成長の可能性を測るための物差しのひとつとして、健康経営を確認することが増えています。そのため、健康経営に積極的な企業としての姿勢を示すことで、株主や投資家からの評価にもつながり、長期的な資金調達もしやすくなるでしょう。
日本における健康経営推進
日本においても、政府主導の施策の一環として、健康経営を促す動きが積極化しています。その代表的な取り組みが「健康経営銘柄」の選定、「健康経営優良法人」の認定制度です。
健康経営銘柄とは
前述の「日本再興戦略」における「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みのひとつで、東京証券取引所の上場会社の中から「健康経営」に優れた企業を選定し・紹介をする制度です。
従業員の健康管理を重視し、働きやすい職場環境づくりを推進する企業が対象となり、年に一度「健康経営銘柄」として公表されます。
選定基準には、健康経営の取り組み状況や具体的な成果が評価されることはもちろん、経営陣の健康経営への関与度合い、法令遵守状況なども重要なポイントとされます。
健康経営銘柄は、後述する「健康経営優良法人ホワイト500」の中から選定されることから、その上位概念と見ることができます。
健康経営優良法人認定制度とは
従業員の健康管理に積極的に取り組む企業を、日本健康会議が認定する顕彰制度です。
日本健康会議とは、健康経営の取り組みを全国に広げるための民間主導の活動体で、経済団体、医療団体、保険者などの民間組織や自治体が連携し、職場、地域で具体的な対応策を実現していくことを目的としています。
健康経営優良法人に認定されると、同ロゴマークの使用が可能となるほか、自治体や金融機関における助成金・金利優遇などさまざまなインセンティブが受けられます。
認定は年に一度のペースで実施されており、大規模法人部門と中小規模法人部門がそれぞれ用意されています。
健康経営優良法人ホワイト500
健康経営優良法人の中でも、従業員数や資本金などの情報をもとに大規模法人に区分された企業が対象となる部門において、上位500法人に認定された企業が「ホワイト500」です。
中小規模法人部門とは評価基準が異なり、大規模法人部門では、従業員の健康管理体制の整備や健康データの分析など、健康経営について、より多面的な取り組みが求められます。
健康経営優良法人ブライト500
大規模法人以外の中小規模法人のうち、上位500法人に認定された企業が「ブライト500」です。
「健康経営を全国に浸透させるには、特に地域の中小企業における取り組みを広げることが不可欠」との考え方から、中小規模法人部門に認定された企業には、自社の取組事例を発信していく役割が求められます。
健康経営の導入 4つのSTEP
ここからは今後、健康経営への取り組みを検討している企業に向けて、そのステップを4つに分類して解説していきます。
STEP1 健康経営を行うことを告知する
人事・総務など特定の部署・部門だけの取り組みによって健康経営を社内に浸透させることは難しいです。
そのため、健康経営を実施する旨は、企業トップによるメッセージとして、社内広報やプレスリリースで社内外に告知・宣言しましょう。
その際には、健康経営について経営理念の中に明文化した上で、具体的にどのような取り組みを行うのか、指針を示すことが重要です。
また、加入している全国健康保険協会や健康保険組合が「健康宣言事業所の募集」を行っているケースもあります。協会・組合と連携することで、健康経営に関するさまざまなサポートが受けられますので、このタイミングで連絡をしておきましょう。
STEP2 健康経営を行うための組織体制を作る
STEP1で示した指針に基づき、それを実行するために必要な組織体制を構築していきます。
具体的には、担当部署を新設するほか、健康経営アドバイザーなど外部の人材をコンサルタントとして雇い入れるなどの取り組みがあります。
また、新設した担当部署内の従業員に健康経営についての知識がない場合、健康管理について研修を行う必要があります。
担当部署は、人事部内に設置する方法もありますが、健康経営では全社的な取り組みが求められることから、経営層直下の組織として部門横断的に設置されるケースも少なくありません。
STEP3 課題の可視化
健康経営を目指すためには、まず現状の確認が欠かせません。健康診断やストレスチェックテストなどの受診率や結果をデータ化し、分析していきましょう。
この段階では、次のような課題が発見されるケースが多いです。
・管理職の残業が多すぎる
・特定の部署で、高いストレスを感じている従業員が多い
・特定の部署の健康診断・ストレスチェックテスト受診率が低い
STEP4 健康経営に向けた計画作成と実行
STEP3で明らかになった課題について、どのように解決するのか、具体的な取り組みを検討します。
主な取り組み例としては、次のようなものがあります。
・ノー残業デーを作る
・保険師による個別診断で、食事や運動の指導を行う
・運動やストレッチなど、身体を動かす時間を作る
・健康に関するセミナーを開き、健康への意識を高める
これらの取り組みを実施する際には、必要な改善内容に合わせ、どのような成果を目指すのか目標を決め、その目標を達成できるような計画を立てて従業員に告知し、最終的に検証を行うことが重要です。
健康経営は、取り組んですぐに効果が出るというケースは稀です。先行企業の取り組みなども参考にしつつ、取り組みと検証を繰り返しながら、できることから進めていきましょう。
健康経営優良法人2024「ホワイト500」でチェック! 健康経営の好事例5選
最後に、2024年に健康経営優良法人2024「ホワイト500」に選定された企業の中から、効果を上げている健康経営の事例を一部紹介します。
株式会社正興電機製作所
国内外で電力を中心にエネルギー関連事業を展開する株式会社正興電機製作所は、ユニークな取り組みで2024年、健康経営銘柄に初選定されました。
同社では、健康に関する行動変容を起こしやすいよう、従業員にウェアラブル活動量計を配布した上で、ウォーキングイベントを実施。そのデータは自社開発の健康アプリと連携され、従業員同士がリアルタイムに順位を確認できるようになっています。
ポイントインセンティブによる景品交換ができるなどの工夫も功を奏し、同イベントへは常時約8割という高い参加率を維持しています。このほか同社では、卓球大会やボルダリング教室といったイベントも随時開催され、こうした取り組みは健診データの改善はもちろん、社内コミュニケーションの活性化という成果にもつながっています。
ソフトバンク株式会社
世界的な投資企業であるソフトバンクグループを親会社に持つ通信・IT企業のソフトバンク株式会社は、2023年に健康経営銘柄に初選定、2024年にも連続で選定されています。
健康経営宣言においては、同社の強みである、最先端のAIやICTを積極的に活用することを示しており、実際にヘルスケアアプリやエンゲージメント調査、勤務状況レポートなどを運用しつつ健康経営に取り組んでいます。
柱となる3つの施策として「健康管理」「安心安全な職場環境」「健康維持・増進」を挙げて、さまざまな指標をモニタリングしています。定期健康診断有初見率や時間外労働時間はもちろん、睡眠に関する休養感もモニタリングしており、その結果をもとに一部従業員を対象として睡眠改善対策の検証を実施するなど、先進的な取り組みにも積極化です。
SCSK株式会社
住友商事グループの大手システムインテグレーターであるSCSK株式会社は、10年連続で健康経営銘柄の認定を受けている企業です(2024年時点)。
2013年に働き方改革、2015年に健康経営の理念を制定するなど、健康に関する取り組みに先進性を見せており、すでにその取り組みは企業文化として根付きつつあります。
中でも健康増進施策の土台となっているのが「健康わくわくマイレージ」で、年1回受診の健康診断結果をポイント化し、一定の基準を達成した社員にポイント数に応じたインセンティブを支給する仕組みとなっています。
また、従業員が気軽に相談できる健康相談室のほか、診療所やリラクゼーションルーム、カウンセリングルームを社内に設置するなど、従業員の健康を直接的にサポートできる体制構築にも積極的です。
PwC Japan有限責任監査法人
PwC Japan有限責任監査法人は、士業法人として唯一、2024年の「ホワイト500」に認定されています。
同法人は「人こそは財産である」との考えのもと、サステナブルな経営の実践を目指しており、健康経営をその要としています。
健康に関する意識調査として「スマートライフアンケート」を、毎年実施しており、その結果として在宅勤務による従業員の運動不足の傾向が見られたことから、歩数によってインセンティブを受けられるウォーキングプログラムや、オンラインでも実践可能な運動プログラムなどを取り入れるなど健康増進に積極的に取り組んでいます。
株式会社ベネフィット・ワン
株式会社ベネフィット・ワンは、福利厚生サービスのほか、健康診断に関わる業務の代行、メンタルヘルスケア事業など健康関連サービスの提供を行う企業です。
自社の健康関連サービスを利用し、健康ポイントプログラムや生活習慣の改善が必要な従業員に向けたオーダーメイド特定保健指導サービス「ハピルスチェンジ」などを活用しつつ、従業員の心身の健康を促進していることが特徴です。
毎月第三木曜日には健康経営研究会理事長を招いて健康経営の勉強会を開催するほか、
運動習慣対策としてサッカーやランニング等の社員が有志で集まるクラブ活動への補助やスポーツテストの実施など、従業員が自然に健康に目を向けられるような取り組みを実施しています。
また、朝食を無料で提供するほか、やむを得ず残業を行う場合には、夕食も無償提供するなど、食生活の面でも従業員の健康面に配慮をしています。
健康経営に取り組む際によくある課題
ここまで解説したように、健康経営への取り組みにはさまざまなメリットがあります。
その一方で、実際に取り組む際には、次のような課題が生じがちです。
人事担当者の負担が増える
主に健康経営の取り組みを担う人事担当者には、従業員の健康管理やメンタルヘルスのサポート、健康促進プログラムの企画・運営など、従来にはなかった新たな業務が発生します。
特に中小企業など人事部門のリソースが限られている場合には、これらの新しい取り組みをスムーズに進めるのが難しく、人事担当者の負担が増えてしまうケースが多いです。
エビデンス(データ)に乏しく、社内理解が進まない
前述した通り、健康経営は開始してすぐに具体的が出るとは限りません。そして、効果を具体的に示すエビデンス(データ)が出しづらいことから、社内での理解や協力を得るのが難しいケースがあります。
こうした場合、健康経営をリードする部門だけでなく、従業員が取り組みに対して消極的になる可能性もあるため、注意が必要です。
全国展開しており、網羅的に取り組みを進めるのが難しい
全国に拠点を展開するような企業の場合、拠点ごとに健康経営への意識に差が出てしまうことがあります。経営層に近い拠点では健康経営の取り組みが進むものの、離れた地方の拠点では旧態依然とした状況が続くといったケースです。
各拠点での健康データの収集や管理、施策の効果測定などを統一的に行うためには、システムの整備や連携が求められます。ただ、そうした体制を構築するためには時間やコストがかかるのが難点です。
健康経営の支援会社を選ぶ際のキーワードは「ワンストップ」
前述したように、健康経営を推進していく上では、「人事担当者の負担」「効果の可視化」「網羅的な展開」という課題を乗り越えていくことが重要です。そのためには、社内リソースだけに頼るのではなく、支援会社を通じてコンサルティングを受けることが有効です。
ベネフィット・ワンでは、総合福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」や、健康に関わる豊富なサービスを通じて、健康経営に関わる課題をワンストップで解消することが可能です。
「これから健康経営を推進したいけど何から始めれば…」「健康経営を進めているうちに、乗り越えづらい壁に行き当たってしまった」といった課題をお持ちの方は、各社に合わせたご提案をさせていただきますので、ぜひお気軽にご相談ください。
従業員の健康を支援するヘルスケアサービスについて
人生100年時代と言われるようになった昨今、新型コロナの影響で在宅勤務が進み、従業員の健康管理や健康促進など健康課題を抱えている企業が増えています。
ベネフィット・ワンでは、そのような健康課題を解決するサービスを多数ご用意しています。
【サービスの一例】
・健康診断の運営代行
・特定保健指導の支援
・ストレスチェックのWeb実施
・各種ワクチン接種の運営代行(新型コロナ・インフルエンザ)
・健康促進に有効なインセンティブポイントサービス
中小企業の方へは、産業保健をすべてひとまとめにしたパッケージサービスもございます。
ぜひ、下のリンクから課題を確認し、自社に合ったサービスを検討してみてください。