福利厚生

暗黙知・形式知とは?企業に求められる知識の見える化をわかりやすく解説

従業員の知識で新しいアイデアやイノベーションを創出するイメージ

この記事のまとめ

・暗黙知は言語、数字、図表で説明できない知識で、身体的な暗黙知と認知的な暗黙知がある

・形式知は、言語、数字、図表で説明できる知識である

・暗黙知を放置することで、企業は特定の個人に依存した不安定な経営リスクを抱える

・企業の安定的成長を目的として、暗黙知を形式知化することがナレッジマネジメント

SECI(共同化・表出化・連結化・内面化)モデルがナレッジマネジメントの具体的手段

・ナレッジマネジメントにはリーダーシップも不可欠で、「価値ある知識の定義」も重要なタスク

暗黙知と形式知の違い

オンラインセミナーでスキルアップをしている従業員

暗黙知とは

暗黙知とは、1950年代にハンガリーのマイケル・ポランニーが提示した、言語、数字、図表等で説明ができない、あるいは説明をしにくい知識を意味します。例えば、業務上においてマニュアルには書かれていないものの、知っていると効率的に業務が向上する便利なコツや優秀な人材が保有している効果的なノウハウなどが暗黙知に相当します。暗黙知には、実践経験を通してのみ獲得できる「身体的な暗黙知」と、世界観や視点といった「認知的な暗黙知(メンタル・モデル)」の2つに分類されます。

暗黙知の分岐図

これらの言語化しにくい、あるいは言語化できないために体系化も難しく、他人への伝達も容易ではありません。しかし、特に認知的な暗黙知は、言語によるコミュニケーションを重ねることで、ある程度の形式化(言語化)が可能となります。

形式知とは

形式知とは、言語化できる、あるいは言語化しやすい知識を意味します。暗黙知と同じくマイケル・ポランニーによって定義され、言語、数字、図表によって説明が可能です。暗黙知と違い言語化・体系化が可能なため他人への情報伝達も容易で、組織への情報共有を実施することで全体での共通認識の推進や知識(組織知)を形成することができます。

暗黙知と形式知の具体例

いわゆる「職人技」や「車の運転」などは身体的な暗黙知の代表例です。認知的な暗黙知はイメージしにくいのですが、「知っている個人の顔を他人と判別すること」や「微細な音を聞きわけること」は、認知的な暗黙知の例です。

一方で、形式知の例としては「法律」や「英語」などが挙げられます。法律は体系化されて文書で保存されており、他人への伝達が可能な知識です。英語に関わらず言語全般も体系化されており、言語化されている知識ということで形式知となります。

暗黙知を放置するデメリット

暗黙知は情報共有が難しいことを紹介しましたが、それを放置することで発生し得る企業のデメリットを3点紹介します。

特定の従業員に依存した企業経営となる

多くの経験を積み暗黙知を蓄積した従業員が活躍することで、企業は業績向上などのメリットを享受します。しかし、中長期的に考えると、暗黙知を持つ従業員の転職や退職が原因で、極論として企業はそれまでの業績を維持できなくなってしまいます。

このような事態を避けるため、個々の頭の中に点在する暗黙知を形式知化して組織やチームなど集団単位で情報共有する必要があります。組織で共有された知は組織知集合知と呼ばれます。暗黙知を組織知(集合知)にできる企業は特定の従業員に依存する体質を脱却し、安定的な経営や事業戦略が可能になります。

従業員や企業の成長・発展が鈍化する

暗黙知は個人に留まることで、進化や発展の可能性を狭めます。しかし、暗黙知を形式知化し、組織知(集合知)とすれば、他の知識との融合新しい知識の誕生を促進します。このサイクルを持続化することで、組織知(集合知)の質と数が向上し、従業員や企業の成長に寄与します。

暗黙知を持つ社員の生産性が低下する

暗黙知が個人に留まることで、特定の業務が当該の個人に集中します。また、その暗黙知を他へ個別に繰り返し伝達することで、何度も同じことを教える手間が生まれます。これらの状況は、暗黙知を持つ従業員の生産性を低下させてしまいます。

暗黙知と形式知をつなぐナレッジマネジメント

自律的に行動して組織やチームでのプロジェクトを完成させる従業員

前項では、暗黙知を放置するデメリットに鑑みて暗黙知を形式知化し、組織知(集合知)を築く重要性を紹介しました。その組織知(集合知)が個々の従業員の中に溶け込むことで、また新たな暗黙知が生まれます。このサイクルで従業員や企業の成長を促すことは「ナレッジマネジメント」と呼ばれ、日本語では「知識経営」や「知識管理」といわれています。ここでは、ナレッジマネジメントについて概要を解説します。

ナレッジマネジメントの背景

ナレッジマネジメントという考え方は日本発の経営理論で、1990年代に一橋大学名誉教授、カリフォルニア大学バークレー校特別名誉教授の野中郁次郎氏らが提唱しました。ナレッジマネジメントはスポーツ界でも取り入れられており、スポーツの科学的分析に寄与しています。

ナレッジマネジメントの注意点

言語的にナレッジマネジメントは「知識管理」と「知識経営」の解釈が可能ですが、野中郁次郎氏は論文や書籍において、単なる知識の管理でなく、新しい知識を生み出し続ける経営がナレッジマネジメントの本質である点を強調しています。

ナレッジマネジメントの基礎理論

ナレッジマネジメントの基礎は以下4つの要素で構成されています。

1)「SECI」モデル
2)知識創造のための場
3)知識創造プロセスにおける材料と成果としての知識資産
4)知識創造プロセスを促進するリーダーシップ

次項からは、「SECIモデル」と「知識創造プロセスを促進するリーダーシップ」について、わかりやすく解説します。

参考:野中郁次郎・紺野登(1999)「知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代」ちくま新書

ナレッジマネジメントのコアとなるSECIモデル

打ち合わせでお互いの知識を共有している従業員

組織の知が生まれるプロセスは、4つの様式(モード)のスパイラルによって創られます。そして、4つそれぞれのモードの頭文字をとって「SECI(読み方:セキ)モデル」と呼ばれます。SECIモデルは、暗黙知を形式知化するナレッジマネジメントの具体的な手法です。

SECIモデルの4つのモード
Socialization:共同化
Externalization:表出化
Combination:連結化
Internalization:内面化

共同化(Socialization)

暗黙知を共通体験により獲得(共感)し、暗黙知の相互理解を図ります。例えば、メーカーの技能職において、新人社員がベテラン社員と共に仕事をすることで、体験的に獲得(共感)する技能や知識がこれに該当します。

共同化は、AIIT技術ツールの利用で効率化できます。例えば、文章よりも口頭での共同化が適していても、文書保存の必要性に押されて文書での共同化を選択することもありますが、情報共有ツールを活用するとAI翻訳により音声の文字起こしは容易かつ高精度になります。また、デジタル化が加速する現在は、音声や動画の録音・録画ツール導入による共同化も普及しています。ある病院では、熟練した医師や看護師の動きを録画し、それを新人医師や看護師が繰り返し見返すことで、論文(文字)よりも簡単・明瞭に手術時等の動きを習得させています。

表出化(Externalization)

暗黙知を形式知に変換するプロセスです。ナレッジ共有を言葉や図等で表現し、少しずつ形式知へ変換していきます。また、作業工程をマニュアルに落とし込んでいくことも表出化に該当します。

連結化(Combination)

新しい形式知と既存の形式知を連携させることで、体系的な形式知を創造します。例えば、部署やチーム間で共有された形式知が、全社的に共有されることで新たな形式知と結びつき、知識の改善がおこなわれたり、新しい知識が生まれたりしてイノベーションの創出が期待できることも想定しています。

内面化(Internalization)

新たな形式知を実際に身につけ実践することで、新たに暗黙知が生まれます。この暗黙知は再び共同化のプロセスで他者と共有され、SECIモデルのサイクルに入ることを想定しています。

 

SECIモデルのスパイラル

SECIモデルの4つのモードをスパイラルにして高度化したイメージ

SECIモデルを機能させるリーダーシップ

アジャイル組織のリーダーとメンバーのMTG

仕組みを動かすナレッジ・リーダー

ナレッジマネジメントのコアとなるSECIモデルを機能させるリーダーがナレッジ・リーダーです。ナレッジ・リーダーの人物像は組織により異なりますが、主に会社のトップが策定する「ビジョン」と、最前線で業務を遂行する「現場」の間で、橋渡し役を担う管理職の登用が一般的です。

ナレッジ・リーダーに求められること

ナレッジ・リーダーの役割は、SECIモデルの各プロセスをリードすることです。ここでは、求められる具体的な業務例を紹介します。

 

1)場(ba)の設定

ナレッジマネジメントにおける、知識の蓄積・共有・活用・創造の重要性を紹介しましたが、その前提として、これらの活動がおこなわれる「」(ナレッジマネジメントの分野では「ba」として認知を得ている)の提供も不可欠です。ナレッジ・リーダーには、この場(ba)の提供に加えて「他の場(ba)との接続」や「機能していない場(ba)の改善」など、場(ba)をデザインすることが求められます。

 

2)社内に必要な知的資産の定義

知的資産は聞きなれない言葉ですが、知的財産とは異なります。経済産業省は、知的資産を人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産で、企業の競争力の源泉となるものと定義し、特許やノウハウなどの「知的財産」だけではなく、組織や人材、ネットワークなどの企業の強みとなる資産を総称する幅広い考え方を示しています。

経済産業省のデータより「知的資産・知的資産経営とは」

出典:経済産業省 知的資産・知的資産経営とは

既存の知的資産をいかに活用するかも重要ですが、自社に必要な知的資産を定義する必要があります。なお、知識は時間の経過とともに陳腐化するため、定義し続けることが重要です。一般的に重要な知識の定義はナレッジ・リーダーに加え、経営層等との協議で決定します。

 

3)知的資産を引き継ぐ仕組みの構築

知的資産を引き継ぐためには、上記の通り「場(ba)」の設定が重要です。知的資産を広く共有することは、IT技術を用いて手間なく容易に実現できます。例えば、クラウドの利用により多数のアクセスを可能にしたり、音声や動画も共有方法の選択肢になります。
次に、SECIモデルのサイクルを回し続けることが重要です。このサイクルが回り続けることで、知的資産の価値をより高めながら継承していくことができます。

 

4)知識ビジョンの策定

SECIモデルを機能させるには、機能させるに足るモチベーションが必要です。よって、ナレッジマネジメントによって実現を目指す魅力的なビジョン策定が必須です。暗黙知を形式知化することで実現できる「成し遂げたいこと」や「従業員へのメリット」の明示で、SECIモデルのサイクルがうまく機能します。

まとめ

今回は、暗黙知・形式知について紹介しました。暗黙知の中にはどうしても形式知化できない知識もありますが、なるべく多くの暗黙知を形式知化することで従業員と企業の成長に寄与することができます。生産性を向上させ持続可能な事業へ発展させるためにも業務の属人化を防ぎ、本記事を参考にして内在している知識を言語化や図式化し、知識同士を連結して業務効率化を図ることで、また新たな知識を生み出すサイクルを構築しましょう。

業務の属人化が起きる要因の1つに、従業員の情報が社内に点在し、組織的かつ計画的な人事異動がおこなわれていないことが挙げられます。そこで、ベネフィット・ワンが提供する「ベネワン・プラットフォーム」は、点在する人事情報を一元管理して可視化することで従業員の情報を容易に整理・把握することが可能です。また、従業員に対してアンケートなど一律に様々なサーベイも実施できますので、知識・スキル・経験を調査したり異動希望部署のヒアリングなどを実施したりすることもできます。

そして、ベネフィット・ワンが提供する「ベネフィット・ステーション」は、約140万件以上の福利厚生サービスを擁し、地域・世代間格差なく平等に利用可能な次世代型福利厚生サービスです。ベネフィット・ステーションにはオンラインで受講できるeラーニングサービスがあり、職種や役職を問わない様々なラインナップと時間や場所を選ばない利用方法で従業員の働き方に合わせた受講が可能です。ベネフィット・ステーションのeラーニングサービスで得た暗黙知を形式知化し、会社全体の生産性向上に寄与することも期待できますので、ぜひご利用ください。

 

この記事のポイントは以下の通りです。

・暗黙知は言語、数字、図表で説明できない知識で、身体的な暗黙知と認知的な暗黙知がある

・形式知は、言語、数字、図表で説明できる知識である

・暗黙知を放置することで、企業は特定の個人に依存した不安定な経営リスクを抱える

・企業の安定的成長を目的として、暗黙知を形式知化することがナレッジマネジメント

SECI(共同化・表出化・連結化・内面化)モデルがナレッジマネジメントの具体的手段

・ナレッジマネジメントにはリーダーシップも不可欠で、「価値ある知識の定義」も重要なタスク

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従業員満足度を高めるためには、福利厚生を幅広く用意する必要があります。

とはいえ、福利厚生を1から自前で整えるのは大きな労力がかかります。
そんなときに活用したいのが福利厚生サービスです。
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※「サービス利用率」は1社ごとの優待サービス利用回数が、社員数と同じになった場合を100%とし、算出しています。

従業員が企業担当者を介さずサービスの利用申し込みを行うため、導入後の事務作業はほとんどないのも特徴です。

ぜひこの機会に福利厚生制度の拡充を検討していきましょう。


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