「同一労働同一賃金」の本質とは何か?

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同一労働同一賃金

昨年8月の「働き方改革推進会議」の立ち上げとともに、これまでは他の経済政策の陰に隠れがちだった「働き方」や「雇用」を取り巻く議論が急速に慌ただしくなってきました。

特段、長時間労働や過労死・過労自殺については、昨年末に労災認定された悲惨な過労自殺事件の報道後、メディアでは毎日のように取り沙汰されている状態です。

あの事件の陰に隠れ、なかなかスポットを浴びにくいものの、労働市場において最もホットかつ重要なトピックが「同一労働同一賃金」です。

これは、「同じ価値の労働に対しては、同じ賃金を」と、一見分かりやすいトピックのように見えて、その実、非常に複雑怪奇なトリックが隠されています。

今でこそ「労組が同一労働同一賃金を求め、経団連側がそれを拒否する」という構図が一般的ですが、歴史的にはむしろ「経団連が同一労働同一賃金を求め、労組がそれを拒否する」構図であったことを、一体どれほどの方がご存知でしょうか。

本稿では、そうした労働と賃金をめぐる歴史について触れつつ、「日本型雇用のアップデートにおいて、同一労働同一賃金がいかなる意味を持つか?」について解説します。

日本型雇用を支えた「職能給」という給与システム

同一労働同一賃金2

冒頭でも述べた通り、かつては経団連が同一労働同一賃金を求め、労組側がそれを拒否する、という構図であった。

まずはこの歴史的な背景について見ていきたいと思いますが、その前に、日本の給与に対する考え方についておさらいしましょう。

欧米の企業では各人が従事する職務に対して給与が支払われる「職務給」であるのに対して、日本企業では各人の「職務遂行能力」に対して給与が支払われる「職能給」であることは、人事に携わっている方であれば多くの読者の方がご存知でしょう。

職務給は比較的分かりやすいが、職能給でいう「職務遂行能力」はやや曖昧です。これまで、日本企業はどのようにそれを評価してきたのでしょうか。

『コンピテンシーと職務遂行能力』(渡辺直登/慶應義塾大学教授)によると、職務遂行能力とは「ポジションに応じた職務全般を遂行する上で必要とされる知識・ 能力」と定義されている通り、純粋に「職務を遂行するにあたって必要とされる能力」ではなく、ポジション(職階)≒職務遂行能力だと解釈した方が分かりやすいです。

つまるところ、「職能給」≒「ポジション給」なのです。すなわち勤続年数に応じて役職が上がっていく年功序列と職能給のコンボによって、日本型雇用慣行の代名詞である「年功賃金」が成立していると考えると、職能給もまた、日本型雇用を支えた給与システムだと考えられるでしょう。

職能給の何が問題なのか?

同一労働同一賃金3

「同一労働同一賃金」の議論に入る前に、もう少しだけ職能給について筆を進めます。

「年功賃金・終身雇用・企業別労働組合の日本型雇用三種の神器が、ジャパン・アズ・ナンバーワンとまで言われた日本の高度経済成長を支えた」という話は、少なからず誰しもが聞いたことがあるでしょう。

だとするならば、職能給も日本の高度経済成長の一翼を担っていたとも言えます。

事実、職能給の否定を伴う同一労働同一賃金に対する論調は、日本が高度経済成長期に入っていくタイミングと軌を一にして、急速にトーンダウンしてゆきます。

1955年に日本経営者団体連盟(日経連)が『職務給の研究』を上梓して以来、半世紀近くもの間、同一労働同一賃金に対する議論が姿を消し、大企業から中小企業に至るまで職能給が日本企業の給与システムのスタンダードになりました。

つまり、人口ボーナスが支えた高度経済成長期においては、低給で働く若い世代が、高給取りのミドル・シニア世代を支えるという構図が成り立っていて、職能給は十分にワークしていたと言えます。

これは、若い世代も我慢して働き続ければ、勤続年数に応じて役職が上がり、給料が上がるという希望を持つことができていたためです。

ところが、日本社会全体の人口ボーナス期が終わりを迎え、働く人よりも支えられる人が多くなる人口オーナス期に突入します。そこへ、バブル崩壊でもって日本の経済成長が止まった瞬間、日本型雇用システムの歯車が急激に音を立てて軋み始めました。

職能給の否定と同一労働同一賃金に対する論議がかまびすしくなってきたのも、ちょうどこの頃です。

職能給に対する筆者の立場は明快です。

すなわち、年功序列を前提とした職能給は問題である一方、限定された職務に人や給与を割り当てる「仕事ドリブン」な職務給と異なり、人が持つ能力(潜在能力含む)や期待役割に応じて給与を決める「ヒトドリブン」な給与システムである職能給自体は問題ではなく、職能給の良い部分をうまく活かしつつ、年功序列な人材登用のあり方を見直すべき、というのが筆者のスタンスです。

誰のための「同一労働同一賃金」なのか。

同一労働同一賃金3

職能給をめぐる歴史について概略したところで、改めて同一労働同一賃金についての考察に筆を進めましょう。

高度経済成長期以前は、生活給と化し、成果や実力に見合わない待遇を得ようとする労働者にしびれを切らした経団連側が「職務給をベースとした同一労働同一賃金」を求めました。

労組側がこれを否定していたにも関わらず、バブル崩壊後はその立場が逆転した、ということは先に述べた通りです。

では、かつては同一労働同一賃金を否定していたはずの労組側が、なぜ一転して同一労働同一賃金を支持するようになったのでしょうか。その理由は、先に述べた職能給と無縁ではありません。

そもそも、労働組合とは誰のための組合なのか?というと、考えるまでもなく労働者の権利を守るための組合です。だとするならば、労働組合が同一労働同一賃金を主張するのは、労働組合が労働者を守るために他なりません。

それでは、労働組合が同一労働同一賃金を求めることで守りたい労働者とは、具体的に誰なのでしょうか。

2016年末に政府から出された「同一労働同一賃金ガイドライン案」によれば、同一労働同一賃金の目的については下記の通り整理されています。

同一労働同一賃金は、 いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用 労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである

つまるところ、労働組合側が求めた同一労働同一賃金とは「非正規雇用労働者の賃金を、正規雇用労働者と同等に上げてほしい」という賃上げ交渉に他なりません。

同ガイドラインには基本給・手当(賞与や時間外手当など)・福利厚生などにおいて、担当する職務と直接関係のない職務遂行能力や職業経験、勤続年数の多寡によって、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で差をつけてはならない、ということが例を用いつつ解説されています。

こうしたガイドラインからも分かる通り、現時点での同一労働同一賃金をめぐる議論は、非正規雇用労働者の賃上げ交渉とほぼイコールだと捉えたほうが分かりやすいでしょう。

「非正規雇用労働者の賃上げ」の財源はどこから出すか?

同一労働同一賃金4

そのような意味では、同一労働同一賃金は最低賃金のアップと根っこは同じであると解釈できます。次に疑問として湧いてくるのは、「その財源はどこから拠出するのか?」という論点です。

「アベノミクスで日本企業が好景気に湧く中、企業側の賃上げが十分でないために、一般消費者が好景気の恩恵を受けていない。企業側は内部留保を切り崩して、賃上げに投資すべきだ。」という論調があります。

ただ、企業とて私腹を肥やすために内部留保を潤沢にしているわけではありません。

「あの苦しみ」を二度と味あわせないように、そう遠くない未来にやってくるバブル崩壊・リーマンショック級の構造的不況がやってきた際に、売上・利益が急落したとしても、従業員をクビにすることなく雇用し続けられるように、「備え」として内部留保を潤沢にしている企業も少なくありません。

製造業や小売・サービス業など、非正規雇用労働者で支えられている産業において、同一労働同一賃金を本気で実現しようと思うと、決して小さくない金額の投資が必要となります。

先ほどの質問に立ち返ることになりますが、「同一労働同一賃金の実現に必要な予算をどこから拠出するのか?」という問いは避けては通れません。

その問いに対する労働組合側の考察は十分でないどころか、意図的に避けているようにさえ思えます。

それもそのはず。同一労働同一賃金の財源問題について本気で取り組もうと思うと、「正規雇用労働者の給与切り下げ」や「終身雇用を維持するための財源である内部留保の切り崩し」を余儀なくされてしまうからです。

労働組合は労働者の権利を守る組合であって、非正規雇用労働者のためだけの組合ではありません。したがって、正規雇用労働者の特権を脅かすような抜本的な施策については及び腰であるのが実態でしょう。

政府に対して「生活保障のためにベーシックインカムを導入すべき」と要望するのは簡単ですが、例えば、その財源を捻出するために大規模に増税を行う、という交換条件には多くの方が同意できないように、「非正規雇用労働者の賃金や待遇を、正規雇用労働者と同等レベルまで引き上げるべき」と主張する一方で、そのために必要な資金を拠出するために正規雇用労働者の給与を切り下げるという交換条件には応じたくない、というのが労組側の本音でしょう。

「同一労働同一賃金」の本質を見失ってはいけない。

同一労働同一賃金5

同一労働同一賃金をめぐる議論に対する個人的な解は次の通りです。

  • 「担当・遂行する職務が同一である限りにおいて、非正規・正規雇用労働者の別なく、同一の賃金・待遇を保障すべきである」という主張については理解できる。
  • 他方で、「正規雇用労働者の待遇や、終身雇用制度を維持した上での非正規雇用労働者の賃金アップ」はあまりにも虫の良い話。同一労働同一賃金を本格検討するならば、「正規雇用労働者の給与切り下げも視野に入れた給与制度の見直し」もセットで考えなければ辻褄が合わない。

以上となります。

皆さんが勤務されている企業では、「正規雇用労働者の給与切り下げも視野に入れた給与制度の見直し」については、果たして受け入れられるでしょうか。恐らく答えは「ノー」でしょう。

それくらい、既存の給与制度・人事制度を変えるのは難しいと日本中の方々が感じている状態です。

そもそも、本来の同一労働同一賃金は非正規雇用労働者の待遇改善にとどまりません。

その是非はさておき、正規・非正規を問わず、あらゆる職種・職務における同一労働同一賃金が議論されてしかるべきでしょう。

そのためにも、まずは企業(とりわけ、大企業)において、年功賃金・終身雇用の恩恵に預かれた(あるいは預かれそうな)方々が、自身の既得権益を手放し、会社に依存した人生設計ではなく、自らの足で立ち、さらには定年後もきちんと社会に価値貢献できるような市場価値を獲得する勇気を持つところからはじめるべきかもしれません。

こうしたことの先にあるのは、年功序列が前提のねじ曲がった「職能給」でもなく、欧米型の「職務給」でもないと筆者は考えます。

年齢に関わらず、一人ひとりの経験や能力をきちんと可視化した上で、それぞれの期待役割に応じて給与を決定する「あたらしい職能給」という、現代の日本に最適化された給与のあり方を検討してみることが、本質的な同一労号同一賃金にむけたチャレンジの第一歩になるのではないでしょうか。

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