どうする?看護師の深刻な人材不足|現状と解決策を解明
看護職員(保健師、助産師、看護師、准看護師)の人材不足は、深刻化しています。
※参考:日本看護協会|平成29年 看護関係統計資料集を元にBOWGL作成
日本看護協会の統計資料を見てみると、看護職員の就労数が順調な右肩上がりになっています。そのため職員不足と耳にしても、なかなか危機感を覚えにくいかもしれません。
しかし、看護業界における人材不足が深刻化しているのには理由があります。
それは、就業者数に対して人材ニーズが急激に増加していることと、決して低いとは言えない離職率です。
慢性的な人手不足は一人あたりの業務負荷を増大させ、看護師の離職を招きます。また、ベテランが抜けた穴を経験不足の人材が埋めることで、医療サービスの低下につながるケースも起こっています。
こうした状況を解消するには、どのような手段が考えられるのでしょうか?
看護師の人材不足における様々なデータを読み解きつつ、看護師はなぜ退職をするのか、その理由に迫ると共に、人手不足対策の現状についてお伝えいたします。
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目次
看護師不足が深刻化している理由は、ニーズの急増と高い離職率
そもそも看護師不足が問題視されているは、なぜなのでしょうか?
1)需要に対して人材の供給が追いついていない
一つ目は、看護市場における需要の増加です。
日本看護協会が全国の病院8,361施設を対象とした「病院看護実態調査(2018年)」では、今後の看護職員の総数を「今年度と同程度の予定」と回答した割合は半数を超える53.7%、「今年度より増やす予定」は34.5%、そして「今年度より減らす予定」はわずか3.2%となりました。
多くの病院が、看護師の人数を少なくとも現状維持、または増加させたい意向であることがわかります。
また、厚生労働省の「第2回 看護職員需給見通しに関する検討会」では、令和7年(2025年)になるまでに必要とされる看護職員は約200万人と推測されています。
冒頭でご紹介した「平成29年 看護関係統計資料集」によると2016(平成28年)末時点での看護職就業者総数は約166万人にとどまっていますので、今後、仮に年3万人のペースで増加したとしても、2025年の看護職就労者見込みは約193万人となり、需要を下回る計算です。
2)労働環境の厳しさによる離職・退職が絶えない
公益社団法人日本看護協会が発表した「2018年病院看護実態調査」によると、正職員として勤務する看護師の10.9%、新人看護師では7.5%が離職しています。
退職率そのものは他の職業と比べて多くありませんが、需要と供給が追いついていない中で、この離職率は人手不足に追い討ちをかける要因となっていると言えるでしょう
実際、看護師はどのような理由で退職するのでしょうか。代表的な理由は、多い順に以下の通りです。
※参考:日本医療労働組合連合会|2017 年 看護職員の労働実態調査結果
上記から、看護師が置かれている職場環境の難しさが伺えます。特に「賃金が安い」「休暇が取れない」「夜勤がつらい」というように、職場への不満を訴えた退職理由が目を引きます。
厚生労働省による「看護職員の現状と推移(2014年)」においても、退職経験のある看護職員は出産・育児や結婚を機に退職をしているケースもある一方、人間関係や超過勤務、夜勤の負担等労働環境も退職理由に影響していることが読み取れました。
上の図では「出産・育児」そして「結婚」といった理由も多く選択されていますが、「職場への不満が強いからこそ、結婚・出産を機に離職を選ぶ」という見方もできます。
育休・産休の取得や職場復帰をスムーズに行うことができ、かつ働く本人が職場に好印象を抱いているのであれば、わざわざ離職をする必要はないからです。
皮相的な統計結果だけでは女性ならではの離職理由に目を引かれがちですが、根本的な問題は職場環境への不安・不満にあるのではないでしょうか。
ただでさえ増え続けるニーズを満たすだけの看護職員を確保し続けるには、従業員当人のスキル不足や職場ストレスによる離職率を下げないことには、根本的な解決は見込まれません。
そこへアプローチしない限りは、業界全体として人材不足に拍車がかかってしまうでしょう。
看護師不足が続くと適切な医療が行えなくなる
ここまで看護職員不足の実態とその理由を追ってきましたが、実際に、看護業界における人材不足が続くとどういった問題が想定されるのでしょうか?
厚生労働省が2008年に発表している「コメディカル不足に関して~看護師の人数と教育~」という資料によると、「病床あたり看護師数が多いほど、患者の安全性は高い」という結果が報告されています。
患者4人に対して看護師1人の場合の患者死亡率を100%とした場合、5人に対して1人のときは107%、6人に1人のときでは114%、7人に1人のときは123%まで増加することがわかっています。
つまり、看護師の人数が増えることで、患者の安全性は高まります。人数が多ければ多いほど、患者一人一人に目が行き届きやすく、きめの細かいサービスが提供できます。
実情はどうなっているのでしょうか。
同じ資料によると、100病床あたりの看護師数において、日本は諸外国平均の1/4だという統計も出ています。イギリスが200、アメリカが141、イタリアが136に対し、日本はわずか38に過ぎません。
医療ミスが発生しやすくなる/発生への不安が増える
人員が不足することで1人あたりの業務量が増え、患者のケア、新人教育、その他雑務における担い手が不足します。
結果、シフトに余裕がなくなり、看護師は常に疲労を抱え、事故への不安を感じながら仕事をし続けることになります。結果それは大きなストレスにつながり、離職の引き金になっているのが実情です。
新卒のキャリアアップが難しくなる/離職のきっかけになる
退職者が多くなることで、経験が浅いにも関わらず責任あるポジションにつかざるを得なくなり、勉強が必要なのに休暇を取れなくなり、希望の病棟に異動できなくなったりといったことが起こります。業務内容や責任はベテランと同じである一方で、自分自身は経験不足であり、待遇も新卒並みになってしまうことも。
厚生労働省の「新人看護職員研修の現状について 」という資料によると、新人看護職員の離職理由の上位は以下の通りでした。
1位:基礎教育終了時点の能力と現場で求める能力とのギャップが大きい
2位:現代の若者の精神的な未熟さや弱さ
3位:看護職員に従来より高い能力が求められるようになってきている
4位:現場の看護職員が新卒看護職員に仕事のなかで教える時間がない
5位:交代制など不規則な勤務形態による労働負担が大きい
1位と3位、4位において「現場とのギャップ」を表す理由が出てきています。現場で求められる能力と、学んできたことのギャップは特に新人看護師を苦しめる要素です。
看護師不足を解消するためには、病院における福利厚生制度の改善が必須
これまでご紹介したように、看護人材不足は病院単体だけの問題ではなく、国や自治体にとっても大きな課題です。
この解消するためには、まずは雇い主である病院から、職場環境の改善や福利厚生制度の見直しを行うことが不可欠です。
ここではその改善案の一部をご紹介します。
①夜勤手当や残業手当の充実
給料や手当を充実させることは、職員の不満解消に繋がる可能性があります。
夜勤手当や残業手当を増やすことによって収入が増えれば、日頃の業務が目に見えて評価されるため、看護師のモチベーション向上にもつながります。
また他の病院と比べて給与が高いことで、求人訴求効果も期待できるでしょう。
②医療ロボット/AIを活用する
看護業界での人手不足の原因のひとつに、患者と関わるという仕事の核以外の雑務が多いことも挙げられるでしょう。
そこで積極的に医療ロボットやAIを活用すれば、看護師の負担をある程度は軽減することが期待できます。
例えば患者の急な病変をAIが察知し、各種データを瞬時に分析し正確な病状をドクターに通報してもらえる環境になれば、そこで従来看護職員が負担していた作業を発生させずに済むことができます。
ただし運用コストが高額となる可能性がありますので、導入の際は慎重な判断が必要です。
具体例としては、医療先進国である米国などでは運用が始まっている、院内で医療品を自動運搬する「モクシー」、検体や薬剤をロボット「Relay(リレイ)」、さらにAI領域では遺伝子解析の『ワトソン』、病名を診断する『ホワイトジャック』といった製品が開発されています。
③従業員(看護師)のライフスタイルに合わせたサポート
家庭に専念するために離職する看護師も少なくないため、病院全体で育児支援をサポートする必要も見逃せないでしょう。
具体例としては、
- 勤務形態を見直し、夜勤を免除する
- 時短勤務を採用する
- 有給休暇や看護休暇を取りやすい環境にする
- 院内託児所を設置する
といった方法があります。
病院全体で育児支援に取り組むと、看護師が安心して働ける職場作りにつながります。ライフスタイルが変わっても働き続けることができますので、定着率の向上を目指せることはもちろん、一度離職しても復帰しやすい環境となり人材不足を解消することができるでしょう。
④看護領域の専門性を生かせる場を作る
医療、看護の世界は常に変化していますので、仕事をしながら常に情報収集、勉強をしなくてはいけません。勉強をする、研修に参加するといったことを繰り返すことで看護の専門性が身につき、スキルアップをすることにもつながります。
たとえば看護師のスキルアップのために研修の参加を推奨したり、医師以外の医療従事者であるコメディカルスタッフを採用したりして、看護師の専門性を重視した業務を与えるとよいでしょう。
独自の福利厚生制度を打ち出している看護業界の好事例
最後に、独自の福利厚生制度を打ち出している医療機関をご紹介します。ぜひ、自社でも取り組めるものがありましたら、参考にしてみてください。
オムソーリ訪問看護リハビリステーション
訪問看護(介護予防) 事業を行うオムソーリ訪問看護リハビリステーションは、座学やOJT(現地実習)と含む研修に力を入れている団体です。
・訪問介護基礎研修制度
看護学校の新卒者や、結婚・出産などでブランクがある従業員が安心して復職できるよう、基礎的な学習ができるコースが充実。eラーニングによる遠隔での研修受講もあります。
・特定看護師の研修制度
2015年より「特定行為に係る看護師の研修制度」がスタート。これにより、これまで医師の指示なしでは活動ができなかった看護師も、事前に医師が指示した内容に基づいて自身の判断で処置を行えるようになりました。
・休職中の「潜在看護師」へのサポート
結婚や出産を期に退職し現在は休職中である「潜在看護師」が復職しやすいよう、子育て中の方の就業や、パートタイムでの勤務を歓迎しています。
また同社は、【給与相場上位25%の平均+10%】という給与水準を推奨しています。ますます看護人材が求められるようになってくる今後の時代、そのスキルや経験を正当に評価しようといった取り組みです。
医療法人 徳洲会東京西徳洲会病院
東京都多摩地区にある東京西徳洲会病院の看護部では、従業員本人だけでなくその家族にも優しい包括的な福利厚生制度が整っています。
・完全個室の寮を完備
部屋はオートロック・ワンルームタイプで、寮費も15,000円〜(水道光熱費別)と安価。病院からはわずか徒歩10分弱という便利な立地にあります。
※単身で子育てを行うシングルマザーやシングルファザーの場合には、通常の看護師単身寮よりも広めの宿舎が与えられます。
・院内保育所の設置
職員専用の保育室・学童保育(24時間対応)を整備しています。
・診療費用補助
来院理由にかかわらず、徳洲会病院で受診した月額3,000円以上の診療費用については、申請により後日、全額給付されます。
また職員本人は、全ての人間ドックを無料で受診できます。二親等までの家族も、10,000円の負担金で、日帰りドックまたは脳ドックが受診できます。
このように、職場の働きやすさや福利厚生制度を対外的に打ち出すことで、魅力的な職場環境をアピールすることができるのです。
まとめ|潜在看護師の活用を中心とした複合的な施策を
様々なデータを見ていきましたが、結局のところ看護師不足の主な原因は過重労働であることがわかったかと思います。
「この施策を選べば、状況が解消する」という魔法の杖は存在しないものの、ロボットやAIの導入、福利厚生の見直しといった小さな取り組みの積み重ねは、いずれも施策としては一定レベルでは有効であると言えるでしょう。
「出産・子育て」「技術面のブランク」「責任の重さ」といった様々な面に複合的にアプローチする施策が肝要だと言えそうです。
この記事をぜひ職場でもお役立ていただけましたら幸いです。
人材定着率40%UPに成功
社員のやる気を引き出すインセンティブ・ポイント
労働人口が減少している今、一部の調査では日本で働く人の70%は“やる気がない”とも言われています。
優秀な人材が辞めてしまう…
会社へのエンゲージメントが低い…
職場に活気がなく生産性が上がらない…
上記のような問題は、社員のモチベーションを向上させることで解決ができます。
モチベーションの向上は社員のエンゲージメントを高め、労働生産性の向上にもつながります。
社員のやる気を引き出すオリジナルのポイント制度”インセンティブ・ポイント”は、
・多様なニーズに合わせて、約20,000点から好きなアイテムと交換できる
・コミュニケーションが活性化され、社内環境の改善につながる
・人材定着率40%アップに成功した事例も。確実な導入効果を実感できる
すでに業界トップシェアを誇る576社が導入、404万人の社員が利用しています。
ぜひこの機会に、社員のやる気を引き出すオリジナルのポイント制度を検討してみましょう。