深刻な保育士の人材不足はなぜ起こるのか?現状と対策を解説
現在、日本の保育士の人材不足が深刻な状況になっています。
政府は2001年から待機児童ゼロを政策として掲げていますが、2018年度の東京都における待機児童の数は5,414人と、前年比で減少傾向にあるものの目標達成には遠く及んでいない状況です。
待機児童が発生してしまう最も大きな原因の一つが、「保育士の人材不足」です。
では何故、これほどまでに日本には保育士が足りないのでしょうか?また、問題解決に向けた改善策はあるのでしょうか?
本記事では、保育士不足の現状データや課題、またそのようになってしまう原因や理由について解説いたします。
記事後半では保育士の人材確保に成功した事例なども紹介いたしますので、人材不足の問題に関心がある方はぜひご参考にしていただけますと幸いです。
目次
保育士人材不足の現状と課題
この章でははじめに、保育士の人材不足がいま具体的にどのような状況になっているのかについて、具体的なデータを用いてご紹介します。
平成29年度末の保育士の数は約7.4万人不足
厚生労働省が平成26年度に発表した『保育人材確保のための『魅力ある職場づくり』に向けて』によると、平成29年度の国内で必要な保育士の数は、約46万人であると発表されています。
一方供給はどの程度かと言うと、保育所における保育士の離職率などを考慮して推計した結果、約38.6万人ほどの保育士が毎年保育園・施設に就職しています。
つまり、年間7.4万人の保育士が不足している、ということになります。
9割の都道府県で保育士の人材が不足している!
また同調査では、保育士の有効求人倍率は1月にピークを迎え、同年1月の全国平均は1.74倍とされています。
都道府県別に見ると、約9割の都道府県が保育士求人の倍率は1倍程度となっており、人手不足感が広がっているという状況です。
保育士資格を持つ人の約5割は保育園に就職せず
保育士養成施設で保育士資格を取得したとしても、実際に保育園に就職するのは約半数です。
また、実際に保育士として働いている人たちの半数が平均勤続年数5年未満と、早期離職の傾向も顕著です。
つまり、日本で保育士資格を持つ人の5割が潜在保育士であり、実際に保育園に就職した人であっても5年以内に仕事を辞めてしまう場合が非常に多いということになります。
保育士の人材不足が起きる原因・理由
次にこの章では、保育士の人材不足が起きてしまう原因や理由について言及します。
保育士資格を持つ人の半数が保育園への就職を希望していない
先ほどご紹介したデータでは、保育士資格を有していても実際に保育園で働くのは半分であるとお伝えしました。
保育士として働く人の数が少ない理由は、就職試験が厳しかったり、募集が少ないというわけではなく、実は就職を希望している人自体が少ないという事情があります。
こちらのデータでは、保育士資格を取得している約5割の人が保育士としての就職を望んでいないということが示されています。
保育士就職を希望しない理由トップは「責任の重さ・事故への不安」
では保育士になりたいと思わない理由は何でしょうか?
平成25年に厚生労働省より発表されたデータによると、保育士になりたくない理由(就業後)TOP3は以下でした。
- 1位:「責任の重さ・事故への不安」
- 2位:「保護者との関係がむずかしい」
- 3位:「教育・研修体制への不満」
保育士の仕事は児童の相手や教育をすることだけではありません。
子どもが安全に遊べるような環境をつくることも重要な責務のひとつです。
近年、保育事故の報道が多いことからも分かるように、ちょっとした油断やミスが命に関わるリスクが常に潜んでいるため、非常にメンタル面での負担が大きくそれに耐えられない人が出てくるというわけです。
また教育業界では常にモンスターペアレントの問題も付きまといます。
そして、それらのリスクを回避するための研修や組織を運営する上で必要な教育体制などがしっかり整備されていない保育園も多く存在しているため、就職をしたくないと考える人が多いのです。
保育士として働く条件で最も望まれているのは「希望する賃金」が得られること
先ほど保育士の半数が就業を希望しないのは社会的なリスクが伴うことが原因であると述べました。
一方で、働く環境に関しても保育士の多くはいくつかの不満を持っているようです。
先ほどと同じ調査では、職場環境の改善には何がいいか?というアンケートを実施しています。
それが以下の結果です。
データを見ると、環境改善で最も要望が多いのは、「賃金が希望と合わない」という理由がトップでした。
続いて「自身の健康・体力への不安」、「休暇が少ない・休暇が取りにくい」といった理由も挙げられています。
また、それらの働く環境改善が実施された場合は、以下のように約6割が保育士としての就職を希望するとアンケートには回答されています。
よって、「賃金」「健康」「休み」の3点をいかに改善していくことが、保育士不足解消へのカギになると考えられます。
保育士不足を防ぐための対策2つ(行政編)
それでは、待機児童問題が解消されないまま危機的な状況になっている現在、政府はどのような対策を行なっているのでしょうか。
ここからは年間約7万人が不足すると言われている保育士を確保するための国の取り組みについてご紹介します。
対策1:「保育士確保プラン」による保育士確保のための取り組みを開始
厚生労働省が本格的に保育士確保のために動き出した政策が、平成27年1月より開始された「保育士確保プラン」です。
保育士確保プランとは、平成29年度末までに必要となる保育士の確保を目的に、以下の7つの施策を行なった政策です。
- 保育士試験の年2回実施の推進【人材育成】
- 保育士に対する処遇改善の実施【就業継続支援、働く職場の環境改善】
- 保育士養成施設で実施する学生に対する保育所への就職促進を支援【人材育成】
- 保育士試験を受験する者に対する受験のための学習費用を支援【人材育成】
- 保育士・保育所支援センターにおける離職保育士に対する再就職支援の強化【再就職支援】
- 福祉系国家資格を有する者に対する保育士試験科目等の一部免除の検討【人材育成】
- 保育士確保施策の基本となる「4本の柱」の確実な実施
これだけですと分かりづらいかと思いますので、保育士側から見たこの政策における具体的な変化を以下3つご紹介します。
変化1:国家試験を年1回から2回にして保育士資格を取得しやすくした
保育士確保プランが実施されるまでは、保育士資格の取得試験は年1回でした。
しかし、この政策により保育士の資格試験は年2回の実施となり、保育士資格を取りやすい環境が整えられました。
変化2:賃金が月6000円程度アップ
保育士の仕事に就きたくない理由の第1位は、低賃金による不満です。
そのため、現役保育士の給与のベースアップは非常に優先度の高い施策の一つです。
政府は平成29年度から保育士の給与を6000円程度アップさせました。
またキャリア(勤続年数)や役職に応じて、別途手当が付くような体制にすることも試みています。
変化3:離職保育士に対する再就職支援を強化
現場を離れた保育士に対し、保育士・保育所支援センターに対する登録を促し、再就職希望の状況を随時把握できるような体制をつくりました。
また、就職に向けた研修案内や求人案内など、再就職に向けたきめ細やかな支援と情報提供実施しています。
センターへの登録だけでなく、シンポジウムの開催や集客力の高い施設での出張相談会など開催し、誰に相談したらいいのか分からない元保育士ママへのニーズも満たすというねらいもあります。
対策2:平成31年からは「保育士確保集中取組キャンペーン」を実施
平成27年度からはじまった「保育士確保プラン」ですが、平成31年現在、依然保育士の供給数は必要水準に達していません。
厚生労働省は待機児童の解消を目指し、2020年度末までに約32万人分の保育の受け皿が確保する、という目標を新たに掲げています。
そこで今年平成31年からは、「保育士確保集中取組キャンペーン」と銘打ち、厚生労働省が主体となって取組を開始しています。
このキャンペーンの主なポイントは以下の4点。
- 民間の保育園等で働く保育士の給与を、平成25年度以降約13%(約4万1千円)改善
- 技能・経験に応じて月額最大4万円の給与改善
- 職場復帰のための研修を開催し、保育士としての復帰をサポート
- 保育園の勤務環境を改善し、保育士が働き続けられる職場にする
それぞれを簡単に解説していきます。
ポイント1:民間保育園で働く保育士の給与を合計4万円アップ
平成31年から保育士の給与を約1%(月額約3000円程度)改善しています。
また、平成25年度以降の「保育士確保プラン」で行われた取組と合わせると、合わせて約13%(月額4万1000円程度)が改善される見込みです。
さらに上記に加え、技能・経験に応じて月額ベースで4000円〜5万円の給与改善を行なっています。
ちなみにここで述べている「技能・経験」には過去の保育士経験も含まれます。
ポイント2:引き続き、保育士のための職場復帰をサポート
仕事のブランクがある保育士資格を持つ人に対し、職場復帰のための保育実技研修などを行います。
こちらは保育士確保プランから変わらず実施している内容です。
ポイント3:職場復帰の就職準備金を40万円まで貸付可能
職場復帰のためのさらなる支援策として、就職準備金を40万円まで国が貸付を受けることができます。
また未就学児がいる場合の保育料の一部貸付も行なっています。
これらはいずれも、2年間の勤務で返済を免除されるという特典も付いています。
ポイント4:保育園の働く環境を改善し、保育士が働きやすい職場づくりをすすめる
現在では男性の保育士も増えてきましたが、まだまだ保育士は女性の割合が多い仕事です。
そのため、結婚や出産などのライフステージで離職したり、勤務体系が合わないなど、保育士が長く働ける職場かどうかは働く環境次第で大きく変わってくると言えます。
そこでこのキャンペーンでは保育士の業務負担を軽減するために、国が保育補助者の雇用を支援したり、保育士を手厚く配置している保育園に運営費を上乗せする施策がとられています。
また保育士のための宿舎の借り上げを最大月額8万2000円程度、支援しています。
新型コロナとインフルエンザの同時流行に備えた対策を! 新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症は、オフィス内でクラスター(集団感染)を引き起こすきっかけになりがちです。
クラスターが発生すると生産性が低下し、事業計画が正常に実行されない可能性もありますので、健康経営や安全配慮義務として感染症対策を徹底しましょう。
感染症対策の中でも、在宅勤務が実施しづらい企業ではワクチン接種が効果的です。
無料でダウンロードできる資料は下のボタンからご確認ください。
保育士不足を防ぐための対策7つ(保育園・施設編)
上記のように国は保育士確保のためにさまざまな施策を打ち出しています。
一方で、保育士が職場を去る原因「責任が重い」「人間関係がつらい」などは常に保育の現場で起こるものばかりです。
つまり、保育士が働く保育園や施設の側からも積極的に保育士確保のための対策を打っていかなくてはならないでしょう。
保育のお仕事レポートが保育士を含めた一般人に調査した平成28年度のアンケートによると、「保育士の採用が難しい理由はなんだと思いますか?」という問いに対し、以下のような結果が得られました。
この章では上記データをもとに、民間で実践可能な保育士の人材不足対策の方法についていくつか考えてみましょう。
【アンケート実施概要】
・実施企業:株式会社キッズライン
株式会社ウェルクス(共同調査)
・実施期間:2017年5月16日~5月21日
・実施対象:
ウェルクス:保育園勤務(37名)・その他保育関連職従事者(8名)・
保育以外の職業従事者(2名)・無職・専業主婦等(8名)計55名
キッズライン:サポーター(76名)・保護者(28名)計104名
・回答者数:159名(2社合計)
・調査方法:インターネット調査
対策1:給料を上げる
同アンケートでは、回答者の給与実態も公表しており、月給「19〜21万円未満」と「25〜27万円未満」の回答が約半数を占めており、日本人の平均年収420万円と比較しても保育士の給与が低いことがわかります。
前章でもお伝えしたとおり、国も保育士の待遇改善には力を入れています。
しかし現場の保育士が満足する給与が得られる実感は得られていないようです。
平成31年は給与アップのために政策が行われる予定ではありますが、さらなる待遇改善が求められています。
対策2:過度な残業や勤務時間の長さを改善する
先ほどのアンケートでは、残業などの勤務時間の長さが保育士不足の原因、と回答した人に、さらに実際の勤務時間と希望する勤務時間に関する質問も行なっています。
その結果、現状の勤務時間は「10〜11時間未満」で34%、それ以上の時間勤務している保育士を合わせると約6割が10時間以上の勤務をしていることがわかりました。
一方、その保育士らが希望する労働時間は、「8〜9時間未満」が5割と、実際の数字との乖離がみられました。
保育士の長時間労働を1時間改善するだけでも、満足度に変化が起こると考えられます。
対策3:(人間関係の)風通しの良い職場をつくる
女性の多い職場ではしばしば人間関係の問題が多く起こります。
下から上へ意見が通りにくかったり、管理者が現場をしっかりと見ていないと新人いじめやハラスメントなどが日常的に発生しやすくなってしまいます。
そうならないためにも、管理者は現場の保育士の声をしっかり聞き、チームで働ける環境や人間関係を作っていくことが求められるでしょう。
対策4:保護者からの要望や対応を保育士に任せきりにしない
保育士は子どもだけでなく、保護者とのコミュニケーションにも常に気を配らなければいけません。
保護者のなかには、本来は家庭で教えるべきことを保育園に要求することもあるため、保育士は本来の仕事に集中することができないばかりか、クレームによって心を病んでしまう人もいます。
そのため、保育士がやるべき仕事ができるように、相談専門の機関にクレーム処理を委託したり、対保護者の対応マニュアルなどをつくることができれば、保育士の業務負担をいくらか減らすことができるのではないでしょうか。
対策5:保育士のモチベーションアップの仕組みをつくる
働く人のモチベーションをいかに維持するのかということは、保育士に限らず重要な問題です。
昨今の働き方改革の流れもあり、従業員(保育士)の満足度が離職率や採用に大きな影響を与えることは間違いないでしょう。
例えば、グレード別に定められた明確な給与体系を従業員に明示したり、福利厚生サービスを導入するなどして待遇を改善していくべきでしょう。
現場の保育士がいかに高いモチベーションを持って仕事ができるのかがいま問われています。
対策6:休日出勤を減らす努力をする
保育士の中には休日出勤を多くしている人も多くいます。
「運動会の練習で13連勤」「土日に研修を入れられたのに休み扱いにされた」など、本来は休むべき時間に本人の意思とは関係なく仕事が入ってしまうケースがあります。
そうした劣悪な労働環境では、いまの採用市場では人材が集まらないのも当然です。
もちろん仕事の性質上、イレギュラー対応があるのは仕方ない場合もあるでしょう。
ですが、それが日常的になってしまい現場の保育士が疲弊しているとしたら、仕組み自体が間違っている可能性があります。
保育園や施設の管理者には、労働環境を整えるための仕組みづくりも重要な仕事の一つでしょう。
対策7:適切な人事評価制度をつくる
保育園によっては、人事評価がしっかり行われていなかったり、曖昧な基準で給与の査定が決まってしまうところもあります。
正しい人事評価が職場で機能していないとすればストレスになり、現場の保育士は働くモチベーションを長く保ち続けることが難しくなってしまいます。
「なぜ、こんなに頑張っているのに評価されないのか」「現場も見ていないのに、なぜ評価ができるのか」といった声も上がってきます。
効果的な人事評価を行うためには、個々の仕事をどれくらいやったのか、組織や顧客(子どもや保護者)に対してどれだけ貢献したか、といったことを客観的に測るための指標が必要になるでしょう。
またそうした指標も時間が経てば形骸化してしまう可能性もあるため、定期的に第三者によるチェックも行うことができれば、職員も安心して仕事にはげむことができるようになるでしょう。
そのために保育園や施設の管理者は、現場の保育士の働きぶりを正確に知ることが何よりも重要です。
おわりに:保育士人材不足には総合的な支援が必要
この記事では、保育士の人材不足に関する現状や、現場で求められている処遇改善例などについてご紹介してきました。
十分な保育士の数を確保するためには、単純な賃金アップだけでなく、保育士の人たちが一度離職した後でも安心して長く働くことができるような労働環境の整備を行なっていく必要があります。
そうしたインパクトのある支援を日本全体で考えたときに、民間の保育園の力だけでは規模的・体力的に難しいでしょう。
保育士の人材不足という課題に対して、行政と民間が力を合わせて総合的な支援を行なっていく必要があるのではないでしょうか。
日本の保育士不足を解消していくうえで、本記事の内容が少しでもお役に立てれば幸いです。
今求められるのは、ライフステージが変わっても働き続けられる制度や福利厚生が整った職場環境
長時間労働の是正など働き方改革が進む中、その施策の1つとして注目されているのが「女性の活躍推進」です。
近年では、政府の働きかけもあり、働く女性の割合は右肩上がりの傾向にあります。
活躍する女性が増える一方、さらなる雇用を生むために解決しなければならない問題があります。
それが、結婚、出産、子育てなど人生のライフイベントによる、女性の離職です。
国立社会保障・人口問題研究所の調査結果によると、約4割近くの女性が第一子の妊娠を機に退職したことがわかっています。
そこで今求められているのが、様々なライフイベントを迎えても働き続けられる制度や福利厚生が整った職場環境です。
ベネフィット・ステーションでは、
・育休復帰前にeラーニング等の研修や専用コールセンターによる情報サポート
・認可外保育施設利用時の割引により、保育と仕事の両立を支援
・都市部の待機児童問題に対し保育園探しのお手伝いサービスを提供
妊娠・出産、子育てから職場復帰を支援するサービスを手厚く提供しています。
また従業員が企業担当者を介さずサービスの利用申し込みを行うため、導入後の事務作業はほとんどありません。
ぜひ人事制度の改定と併せて福利厚生制度の拡充を検討していきましょう。