「36協定とは?」をわかりやすく【10分】で解説|上限規制・特別条項・罰則・健康確保措置など
「36協定とは」を3分で解説&7分で理解
まずは36協定をわかりやすく解説
36協定とは
「36協定」とは、企業が従業員に法定労働時間を超えて労働(残業)させる場合や休日に労働させる場合に必ず締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出なければならない労使協定のことです。正式名称を「時間外・休日労働に関する協定」といい、労働基準法第36条に規定されていることから「サブロク協定」と呼ばれています。
重要なのは「原則として残業は違法である」という点。労働基準法では「1日8時間・週40時間」という法定労働時間が定められており、これを超えて働かせることは法律で禁止されています。36協定を締結して届け出ることで初めてこの禁止が解除され、協定の範囲内でのみ残業が可能になるのです。これを法律用語で「免罰効果」といいます。
36協定を締結する前に残業をさせれば即座に労働基準法違反となるため、「うちは残業が少ないから大丈夫」と考えている企業でも締結は必須です。
また、36協定はあくまで「延長できる時間の限度」を決めるものであり、「無制限に残業させてよい許可証」ではないという点も認識しておきましょう。
労使協定との違い
36協定は、数ある「労使協定」の中のひとつという位置づけになります。
労使協定とは労働者と使用者の間で書面によって結ばれる取り決めの総称で、労働基準法で原則禁止されている事項について労使が合意することで例外的に認める仕組みとなっており、36協定以外にも給与からの天引きに必要な賃金控除協定やフレックスタイム制協定などがあります。
36協定以外の労使協定についても正しく理解し、適切に運用することが労務管理の基本となります。労使協定の全体像や締結のポイントについては、当サイトの「労使協定とは?労働基準監督へ届出が必要な種類など基礎知識についてわかりやすく解説」でも詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
36協定の目的
36協定の本来の目的は、単に残業を合法化するだけではなく「労働者の健康と生活を守ること」と「企業の事業活動を円滑に進めること」の両立にあります。
もし36協定という枠組みがなければ、企業は一切の残業を命じることができず、繁忙期やトラブル対応などの際に事業が立ち行かなくなる恐れがあります。一方で、無制限な労働が可能になれば従業員は長時間労働を強いられ、心身の健康を損なうリスクが高まってしまうでしょう。
従業員の健康悪化は休職や離職を招き、企業の事業継続にも影響します。そこで、労使双方が「どの業務で」「どのくらいの時間まで」残業が必要なのかを具体的に協定することで、必要最小限の範囲に留める仕組みとしているのです。
近年では、過労死対策や「健康経営」の観点からも36協定の重要性が再注目されています。
協定の範囲内であっても、使用者は労働者に対する安全配慮義務を負います。労働時間が長くなるほど脳・心臓疾患の発症リスクが高まることに留意し、従業員が健康に働き続けられる環境を整えることは、結果として企業の生産性向上や離職防止にもつながる重要な経営課題といえます。
36協定の対象者
36協定の対象となるのは、原則として「法定労働時間を超えて働く可能性のあるすべての労働者」です。ここでいう法定労働時間とは、労働基準法第32条で定められた「1日8時間・週40時間」という法律上の上限を指します。これは各企業が就業規則で定める「所定労働時間」とは異なり、国が法律で定めた基準です。
したがって、たとえ所定労働時間が1日7時間の企業であっても1日8時間を超えて働かせる可能性が少しでもあれば36協定の締結が必要になります。対象には正社員だけでなく、契約社員・パートタイム労働者・アルバイト・嘱託社員など、雇用形態に関係なくすべての従業員が含まれます。
派遣社員も36協定の対象となります。ただし、派遣社員の場合は雇用契約の当事者が派遣元企業(派遣会社)であるため36協定を締結・届出する義務は派遣元にあり、実際の労働時間管理は派遣先企業が行うため、派遣元と派遣先の連携が不可欠です。
一方で、労働基準法第41条に該当する「管理監督者」は労働時間・休憩・休日の規定が適用されないため、36協定の適用対象外となりますので、管理監督者に時間外労働をさせるとしても36協定への記載は不要です。ただし、管理監督者であっても深夜労働(22時~翌5時)の割増賃金は支払う必要があり、健康確保の観点から長時間労働の抑制が必要な点は一般社員と変わりません。対象外だからといって放置せず、適正な勤怠管理を行うことが求められます。
36協定を正しく理解するために知っておきたいこと
時間外労働と割増賃金とは
割増賃金の算定にあたってまず確認しなければいけないのは、「法定労働時間」と「所定労働時間」の違いです。法定労働時間とは労働基準法で定められた「1日8時間・週40時間」という上限を指し、所定労働時間は各企業が就業規則で定める労働時間を指します。
たとえば就業規則で「9時から17時まで(休憩1時間)」と定めている場合、所定労働時間は7時間です。この場合、17時から18時までの1時間は所定外労働ですが、まだ法定労働時間の8時間に達していないため、割増賃金の対象となる時間外労働には該当しません(法定内残業)。割増賃金が発生するのは、法定労働時間を超えた18時以降の労働時間からになります。
割増賃金の計算手順と具体例
割増賃金は「1時間当たりの賃金 × 労働時間数 × 割増率」で算出します。
ここでは、基本給20万円・職務手当3万円・通勤手当1万円、月平均所定労働時間160時間の従業員Aさんを例に計算してみましょう。
STEP1:1時間当たりの賃金の算出
月給から1時間当たりの賃金を計算する際、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金は割増賃金の基礎となる賃金から除外することが認められています。
<従業員Aさんのケース>
- 計算対象:20万円(基本給)+ 3万円(職務手当)= 23万円
- 除外:1万円(通勤手当)
- 1時間当たりの賃金:23万円 ÷ 160時間 = 1,437.5円
※参照:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「割増賃金の基礎となる賃金とは?」(2024年3月)
STEP2:パターン別の割増賃金計算
労働基準法第37条に基づく割増率は以下の通りです。
| 労働の種類 | 法的根拠 | 割増率 | 1時間当たりの賃金 |
|---|---|---|---|
| 時間外労働 (法定超) |
第37条第1項 | 25%以上 | 1,437.5円 × 1.25 = 1,797円 |
| 時間外労働 (月60時間超) |
第37条第1項 ただし書 |
50%以上 | 1,437.5円 × 1.50 = 2,156円 |
| 深夜労働 (午後10時~午前5時) |
第37条第4項 | 25%以上 | 1,437.5円 × 1.25 = 1,797円 |
| 法定休日労働 | 第37条第1項 | 35%以上 | 1,437.5円 × 1.35 = 1,941円 |
なお、月60時間を超える時間外労働に対する50%以上の割増率について、大企業では2010年4月から適用されていましたが、2023年4月より中小企業にも適用が拡大され、現在はすべての企業で統一されたルールとなっています。
※中小企業とは、業種別に定められた「資本金の額または出資の総額」もしくは「常時使用する労働者数」のいずれか一方が基準以下の企業を指します。
(例:製造業なら資本金3億円以下または従業員300人以下、小売業なら資本金5,000万円以下または従業員50人以下)
※参照:厚生労働省「2023年4月1日から 月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます 中小企業の事業主の皆さまへ」(2022年4月)
STEP3:複合パターンの計算
実務で特に注意が必要なのが、複数の条件が重なるケースです。労働基準法第37条では時間外労働・休日労働の割増(第1項)と深夜労働の割増(第4項)は別個に規定されているため、両方の条件に該当する場合は割増率を合算することになります。
【計算例】
- 時間外労働が深夜に及んだ場合:25% + 25% = 50%の割増
1,437.5円 × 1.50 = 2,156円 - 法定休日の深夜労働:35% + 25% = 60%の割増
1,437.5円 × 1.60 = 2,300円 - 月60時間超の時間外労働が深夜に及んだ場合:50% + 25% = 75%の割増
1,437.5円 × 1.75 = 2,516円
【月20時間残業した場合】
従業員Aさんが月20時間の残業をした場合に追加で支払う残業代(割増賃金)を試算してみましょう。
- ケース1:すべて通常の時間外労働の場合
1,437.5円 × 1.25 × 20時間 = 35,938円(残業代) - ケース2:すべて深夜の時間外労働(午後10時~午前5時)の場合
1,437.5円 × 1.50 × 20時間 = 43,125円(残業代) - ケース3:月70時間の残業があった場合(月60時間を超える残業、深夜労働は含まない)
60時間まで:1,437.5円 × 1.25 × 60時間 = 107,813円
60時間超の10時間:1,437.5円 × 1.50 × 10時間 = 21,563円
月間合計:107,813円 + 21,563円 = 129,376円(残業代)
このように、残業時間や時間帯によって月給に上乗せされる残業代は大きく変動します。
ケース1では月約3.6万円、ケース2では月約4.3万円、ケース3では月約13万円の残業代が月給に追加 されることになります。特にケース3では残業代だけで基本給(20万円)の半分以上に達するため、36協定の上限設定は人件費管理と従業員の健康確保を両立させる重要な経営判断といえるでしょう。
うっかり陥りがちな間違いとして、次のようなケースが考えられます。
- 除外できる手当の要件を正しく確認せず、一律に除外してしまう
- 固定残業代を超えた分の追加支払いを怠る
- 深夜と時間外の割増率を合算し忘れる(複合パターン)
- 月60時間超の50%割増を適用し忘れる
これらは労働基準監督署の是正勧告の対象となるリスクがあるため、計算方法の社内共有と定期的なチェック体制の構築が重要です。
36協定の一般条項
36協定を締結する際、人事担当者がまず押さえておかなければならないのが「一般条項」と呼ばれる原則的な上限時間です。
2019年の働き方改革関連法による労働基準法改正により、この上限時間は従来の「行政指導上の目安」から「罰則付きの法定上限」へと位置づけが大きく変わりました。現在は、36協定を締結していても以下の限度時間を超えて従業員に時間外労働をさせれば使用者は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。
※参照:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」5ページ(2019年4月)
原則的な上限時間(限度時間)
労働基準法第36条第4項により定められた時間外労働の上限は、原則として以下の通りです。
| 期間 | 上限時間(限度時間) |
|---|---|
| 1カ月 | 45時間 |
| 1年間 | 360時間 |
この「月45時間」という数字は、週休2日制(月約22日出勤)の企業において1日当たり約2時間の時間外労働を想定した水準となります(22日 × 2時間 ≒ 44時間)。原則としてこれを超える残業は認められず、「臨時的な特別の事情」がある場合に限って後述する特別条項で追加の上限を定められる仕組みになっています。
デパートや工場、観光業など季節や時期によって業務量が大きく変動する企業で「1年単位の変形労働時間制」を採用している場合は、通常よりも厳しい上限が設定されています。この制度を採用している企業では、追加の時間外労働(36協定による残業)の上限が通常より厳しく設定されています。
| 期間 | 上限時間(変形労働時間制採用企業) |
|---|---|
| 1カ月 | 42時間 |
| 1年間 | 320時間 |
建設業、自動車運転業務、医師などについては上限規制の適用が5年間猶予されていましたが、この猶予期間は2024年3月末で終了しました。2024年4月1日以降は、これらの業種・業務についても原則として同じ上限規制が適用されています。
自社の業種が一般的な上限規制の対象となるか確認することは、コンプライアンス体制構築の第一歩といえるでしょう。
※参照:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」7ページ(2019年4月)
36協定の特別条項
一般条項で定めた限度時間(月45時間・年360時間)を超えて残業が必要になる場合、「臨時的な特別の事情」に限り例外的に上限を引き上げることができます。この仕組みは「特別条項」と呼ばれています。
特別条項を適用できるのは「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等」がある場合に限られ、その理由はできる限り具体的に定めなければなりません。
認められる事情の例
- 予算・決算業務
- ボーナス商戦に伴う業務の繁忙
- 納期のひっ迫
- 大規模なクレームへの対応
- 機械の故障やトラブルへの対応
認められない事情の例
- 業務の都合上
- 業務上やむを得ない理由で
- その他、恒常的な長時間労働を招くおそれがある抽象的な理由
また、労使が合意して特別条項を設けた場合も以下の4つの上限すべてを守る必要があります。
| 制限項目 | 上限 |
|---|---|
| 年間の時間外労働 | 720時間以内 |
| 月間の時間外・休日労働合計 | 100時間未満 |
| 複数月平均(2~6カ月) | 月80時間以内 |
| 月45時間超の時間外労働 | 年6カ月まで |
特別条項を設ける場合は、あわせて従業員の健康確保措置(長時間労働による心身の不調や過労死などを防ぐために企業が講じる健康管理上の取り組み)も検討する必要があります。
協定書と協定届の違い
協定書(労使協定)
企業と従業員代表が話し合って合意した内容を記載して署名・押印する契約書面です。労働基準法第36条で求められている「書面による協定をし」がこれに該当します。
協定届
締結した協定の内容を所轄の労働基準監督署に届け出るための行政書類です。この届出をして初めて法定労働時間を超えて働かせても違法にならない効果が生じます。
厚生労働省が提供する36協定届(様式第9号等)には労使双方の署名・記名押印欄が設けられており、この欄に必要事項を記入し労使で署名すれば、この1枚の書類が協定書(労使合意の証明)と協定届(行政への届出書類)の両方の役割を果たします。この場合、別途協定書を作成する手間を省くことができますが、労働関係に関する重要な書類であるため最低5年間は控えを保管しておく必要があります(労働基準法第109条)。
36協定の有効期間と提出義務
36協定には必ず有効期間を定める必要があり、その期間が満了すれば効力を失います。継続して時間外労働を行わせる場合は期間満了前に新たな協定を締結し、再度届け出なければなりません。
この有効期間の長さについて法律上の制限はありませんが、厚生労働省は「おおむね1年以内とすることが適当」という指針を示しています。これは、定期的に労使で労働環境や業務量を見直すことで長時間労働の常態化を防ぐためであり、36協定届で「延長することができる時間数」を算定する対象期間は労働基準法第36条第2項で「1年間に限る」と規定されているためでもあると考えられます。
実務上はこの対象期間(残業時間の計算期間)を事業年度(4月1日~3月31日)や暦年(1月1日~12月31日)に合わせて設定すると分かりやすいでしょう。
36協定によって時間外・休日労働が認められるのは、協定を締結して労働基準監督署へ届け出た後の期間に限られます。届出前の時間外労働は違法となるため、残業を開始する前に余裕をもって36協定届を提出しておくようにしましょう。更新を忘れるとその時点から時間外労働が一切できなくなるため、更新手続きを年間の労務管理業務に組み込み、組織的な管理体制を整えておくようにしてください。
36協定違反の罰則とは
刑事罰
36協定なしで時間外労働をさせた場合や協定で定めた上限を超える労働をさせた場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科すと定められています。
36協定を締結していても次のような場合は法律違反となり、刑事罰の対象となります。
- 協定で定めた時間を超えた場合
- 月45時間を超える時間外労働が年間で7回以上発生した場合(特別条項でも年6回まで)
- ひと月で時間外労働+休日労働の合計が100時間以上になった場合
- 2~6カ月のいずれかの期間で、時間外+休日労働の月平均が80時間を超えた場合
たとえば12月に85時間・1月に70時間・2月に90時間残業させた場合、ひと月では100時間未満でも3カ月平均が約81.6時間となり、80時間の上限を超えるため違反となります。
実務では85時間のような計算しやすい数字ではないと思いますが、端数であってもオーバーすれば違反になってしまいますので、算定には注意が必要です。
健康確保措置と企業の責任
36協定の範囲内で労働させる場合であっても企業には安全配慮義務があり、従業員の健康管理への配慮は欠かせません。厚生労働省の指針では、特別条項により長時間労働が発生する場合は医師による面接指導・終業から次の始業まで十分な休息時間(勤務間インターバル)や特別な休暇の付与・心とからだの相談窓口の設置といった具体的な健康福祉確保措置を協定で定めることが求められており、これを「健康確保措置」といいます。
健康確保措置を適切に行わず結果的に従業員に健康被害が生じた場合、刑事罰とは別に高額な損害賠償責任を負うことにもなりかねません。違反が悪質と判断された場合、企業名が公表されることもあります。報道などで周知されてしまえば労採用活動や取引先との提携などに悪影響を及ぼし、業績に関わる問題に発展する可能性もあるのです。
36協定の対象外職種
労働時間・休憩・休日の規定が適用除外となる者として、「農業・畜産業・水産業従事者」「管理監督者」「監視・断続的労働従事者(行政官庁の許可を得た場合)」の3つが定められています。
「新技術・新商品等の研究開発業務」については、36協定の締結・届出は必要であるものの、月45時間・年360時間や特別条項の年720時間といった上限規制は適用されません。ただし、月100時間を超えた場合は本人の申し出の有無に関わらず医師の面接指導を受けさせる必要があります。
法改正で36協定の何が変わった?
2019年4月から順次施行された働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制は「行政指導の対象」から「罰則付きの法的義務」になりました。この改正は、長時間労働による過労死や健康被害が社会問題化したことを背景に実現したものです。
改正前は、特別条項付き36協定を締結すれば事実上の上限なく残業をさせることが可能でした。しかし法改正により「臨時的な特別の事情」がある場合でも年720時間以内・単月100時間未満(休日労働含む)・複数月平均80時間以内・月45時間超は年6カ月までという絶対的な上限が設けられたため、これらを超えた場合は使用者に6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
この上限規制は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から適用されました。また、2024年4月には適用が猶予されていた一部の事業・業務についても規制が開始され、時間外労働の上限規制の適用は完了しました。
これにより、企業は単に協定届を提出するだけでなく、法的な上限枠内で労働時間を管理するための具体的なマネジメント改革が求められています。
36協定の厳格化を含む働き方改革の全体像や取り組みの背景については、当サイトの「5分で分かる『働き方改革』とは?取り組みの背景と目的を解説」で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
【企業向け】36協定の締結マニュアル
STEP1.36協定の案を策定
36協定の締結は「様式を埋める作業」ではなく、自社の労働実態を正確に把握した上で適切な上限を設定する「設計」から始まります。まずは以下の手順で現状分析と方針策定を行いましょう。
直近1年分の時間外労働・休日労働の実績を月別・部署別に抽出して月45時間・年360時間の上限を超える可能性を精査し、あわせて年間上限を算定するための「起算日」を決定します。多くの企業は事業年度開始日や暦年開始日に合わせて設定しています。
臨時的な事情で上限超過の可能性がある場合は特別条項を検討しますが、「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」といった抽象的な表現は認められません。「決算業務による業務量増加」「大規模システム障害対応」「ボーナス商戦に伴う業務の繁忙」など、できる限り具体的に事由を定める必要があります。
協定の上限まで時間外労働をさせることを前提とするのではなく、業務プロセスの見直し・RPAやワークフローシステム(※)といったITツールの活用・アウトソーシングなど、時間外労働そのものを削減できる手立ても同時に検討しましょう。
特別条項により月45時間を超える残業をさせる場合には医師による面接指導や健康相談窓口の設置といった従業員の健康や福祉を確保する措置を協定することが求められています。そのため、限度時間超の残業を想定している場合は外部サービスの活用も含めて実施できる方法を事前に検討しておくことが重要です。
最後に「会社として長時間労働をどこまで許容するか」について経営層と基本方針を共有し、次のSTEP2での労使協議に備えます。
※RPA(Robotic Process Automation)…データ入力や請求書処理など定型的な事務作業をソフトウェアで自動実行する技術
※ワークフローシステム…稟議や経費精算などの承認プロセスを電子化し、紙の回覧や待ち時間を削減するシステム
STEP2.従業員の過半数代表を選出
36協定の締結において最もトラブルが起こりやすく、協定無効のリスクが高いのがこの過半数代表の選出です。選出方法に不備があればせっかく締結した36協定全体が無効となり、すべての時間外労働が違法行為となってしまいます。
過半数組合がない事業場では、その事業場の労働者の過半数を代表する者を選出します。労働基準法施行規則第6条の2により、以下の要件をすべて満たす必要があります。
まず、代表者が監督もしくは管理の地位にある者でないことが絶対条件です。
次に、選出にあたっては36協定締結の当事者を選出することを明らかにして実施することが必要です。「従業員代表を選びます」ではなく「36協定を締結するための過半数代表者を選出します」と目的を明確にしなければなりません。
そして、投票、挙手等の民主的な方法により選出することが求められます。企業が一方的に指名することは認められません。企業が人事担当者や総務担当者を「窓口だから」という理由で一方的に指名すること・親睦会や互助会の代表者を自動的に過半数代表とみなすこと・上司が「この人にお願いします」と決めること・協定書への署名だけを依頼することは、いずれも適正な選出とは認められません。
これらの方法で選出された代表者との協定は無効となるリスクがあり、すべての時間外労働が労働基準法違反となる可能性があるため、選出の際は充分に注意してください。
選出された過半数代表者が協定締結のための事務を円滑に行えるよう、企業は事務機器(イントラネットや社内メールも含む)や事務スペースの提供といった必要な配慮を行う義務があります。適正な選出を行っても、代表者が実質的に機能できない環境では協定の実効性が損なわれてしまうのです。
※参照:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」12ページ(2019年4月)
適正な選出であることを証明するため、いつ・どのような方法で・誰が選出されたかを記録し保存しておきましょう。投票用紙や集計結果、議事録、参加者名簿などの記録を残しておけば、労働基準監督署の調査時に選出方法の適正性を問われた場合も協定の有効性を証明しやすくなります。
過半数代表の選出は形式的な手続きではなく、36協定の有効性を左右する最重要プロセスと認識し、慎重に進めましょう。
STEP3.協議・締結
過半数代表者が選出されたら、STEP1で策定した案をもとに企業側と代表者で36協定の内容について協議を行います。この協議は単に「書類への署名をもらう手続き」ではなく、労働時間の上限について労使が実質的な合意形成を図る重要なプロセスです。
労働基準法第36条第8項では協定内容が厚生労働大臣の定める指針に適合することが求められており、また、適正な労使協定とするためには「なぜその残業時間が必要なのか」「特別条項の“臨時的な特別の事情”が具体的にどのような状況を指すのか」「健康確保措置として何を実施するか」について代表者が内容を十分に理解し納得できるよう丁寧に説明し、意見を聞きながら合意を得る必要があります。
協議の日時・参加者・協議内容・合意に至った経緯などを記録として残しておくと、後から「充分に説明されていなかった」といったトラブルを防ぐことができるでしょう。
合意に達したら、協定書に署名または記名押印を行います。厚生労働省が提供する36協定届(様式第9号等)は協定書と協定届が一体となっているため、この時点で次のSTEP4における労働基準監督署への届出準備も整うことになります。
STEP4.36協定届を記入する
協議・締結が完了したら、労働基準監督署へ届け出るための36協定届を作成します。厚生労働省が提供する様式第9号(一般条項のみ)または様式第9号の2(特別条項付き、2枚組)を使用するのが一般的です。法改正に応じて様式が更新されるため、厚生労働省のウェブサイトから最新の様式をダウンロードしてください。

※出典:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー (労働基準法等関係主要様式) 時間外労働・休日労働に関する協定届(様式第9号)(2025年12月調査時点)
記入前に、事業場の基本情報(名称・所在地・労働者数)・STEP1で決定した対象期間の起算日・対象となる労働者の範囲・業務の種類の具体的な内容・設定する時間外労働の上限時間・特別条項を設ける場合の具体的事由と健康確保措置の内容を整理しておきます。
一般条項の記入ポイント
対象労働者の範囲は「全従業員」「営業部門の従業員」など具体的に記載し、業務の種類も「事務」ではなく「経理事務」「法人営業」のように詳細に記入します。
延長時間は月45時間・年360時間(1年単位の変形労働時間制採用事業場は月42時間・年320時間)を超えない範囲で、実際の業務実態に基づいて設定します。上限いっぱいではなく、過去の実績を踏まえた現実的な水準に留めましょう。
特別条項を設ける場合、最も注意が必要な記入事項は以下の3点です。
- 「臨時的な特別の事情」欄には具体的で明確な事由を記載する必要があります。
「決算業務に伴う業務量の大幅な増加(2月~4月)」「大規模システム障害への緊急対応」「ボーナス商戦時期における受注・配送業務の集中(11月~12月)」など、通常予見できない業務量の増加を時期も含めて具体的に記載します。
「業務の都合上」「業務上やむを得ない場合」といった抽象的な表現は認められません。 - 限度時間を超える時間外労働をさせる場合には、健康確保措置を協定で定める必要があります。
たとえば医師による面接指導・深夜業の回数制限・勤務間インターバル(終業から始業まで一定時間以上の休息時間を確保)・代償休日や特別な休暇の付与・健康診断の実施・連続休暇の取得・心とからだの相談窓口の設置・配置転換・産業医等による助言・指導などが考えられます。 - 時間数の記載では「年720時間以内/単月100時間未満(休日労働含む)/複数月平均80時間以内(休日労働含む)/月45時間超は年6カ月まで」のすべての上限を遵守する数値を記入します。
実務の現場で頻繁に見受けられる記入ミスとしては以下のようなケースがありますので、注意しましょう。
- 単位の間違い
「45時間」と記入すべきところを「45日」と記載したり、一般条項で月45時間・年360時間の法定上限を超える数値を記入してしまい、差し戻しの対象となるケース。 - 記入用紙の間違い
一般条項と特別条項、建設事業や医業に従事する医師を含む場合など、内容によって利用する様式が変わる場合があります。 - 特別条項の事由が抽象的
「業務多忙のため」といった表現では受理されず、「決算業務による3月の業務量増加」のように具体的な時期と理由の記載が必要です。
また、業務の種類が不明確で「事務」とだけ記載するのではなく、「経理事務」「営業企画」など具体的な業務内容を記入する必要があります。
さらに、過半数代表者の選出方法を単に「選出」と書くのではなく、「投票による選挙」や「挙手による選出」のように具体的な方法を記載することが求められます。 - チェックボックスのチェック漏れ
協定届右下にある「過半数代表者の適格性(管理監督者でないこと/民主的方法による選出等)」や「時間外労働・休日労働の上限要件を満たすこと」を確認するチェックボックスは、記入漏れがあると協定届自体が無効となるリスクがあるため、必ず確認が必要です。
こうしたミスを防ぐために、提出前には複数名で確認するようにしましょう。
36協定届は労務管理の設計図であり、ここで丁寧に作り込むことが後のトラブル防止につながります。

※出典:厚生労働省 東京労働局「時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)」時間外労働・休日労働に関する協定届(様式第9号)記載例(2025年12月調査時点)
STEP5.労働基準監督署へ届出
36協定届が完成したら、協定の効力発生日までに所轄の労働基準監督署へ届け出ます。
提出方法は「電子申請(e-Gov)」「郵送」「窓口持参」の3つがあり、政府が電子申請の利用を推奨しています。
電子申請(e-Gov)
e-Gov電子申請は24時間365日いつでも提出でき、労働基準監督署への来署も不要で、利用にはGビズIDまたはe-Govアカウントの取得が必要となります。
労働条件ポータルサイト「確かめよう労働条件」の電子申請様式作成支援ツールを利用すれば、画面の案内に従って入力するだけで36協定届を作成でき、そのままe-Govと連携して電子申請まで完了できます。
このツールには、内容の異なる協定の一括届出機能・本社一括届出用CSVファイルの自動作成機能・次回届出時のリマインド/複写機能など、36協定の実務に特化した便利な機能が備わっています。ツールの利用には1つのID・パスワードでさまざまな法人向け行政サービスにログイン可能な「GビズID」が必要となりますので、あらかじめ作成しておくとよいでしょう。
詳しくは、電子申請様式作成支援ツールの操作マニュアル「電子申請方法について」をご確認ください。
※参照:厚生労働省「スタートアップ労働条件:事業者のための労務管理・安全衛生管理WEB診断サイト」電子申請様式作成支援ツールについて(2025年12月調査時点)
郵送
郵送の場合は、協定届2部(正本・副本)と返信用封筒(切手貼付・自社住所記載)を同封します。
受理印が押印された副本が返送されるため、返信用封筒は必須です。確実な配達記録を残すため、特定記録郵便やレターパックなど追跡可能な方法での送付をお勧めします。
記載不備があると差し戻しや再提出が必要になるため、内容の確認はもちろん、余裕をもって発送するようにしましょう。
窓口へ持参
労働基準監督署の窓口に直接持参すればその場で記載内容を確認してもらえるため、不備があれば即座に修正できます。協定届2部を持参し、受理印が押印された副本を控えとして受け取ります。
36協定の効力は、労働基準監督署が受理することによって初めて発生します。遡及適用は認められないため、協定期間の開始日(起算日)より前に受理されていなければその間の時間外労働は違法となってしまいます。
例年3月中旬から末にかけて36協定届等の申請が集中し、処理に時間を要する場合があります。いずれの提出方法を選択する場合でも、この時期を避けて早めに申請し、協定期間の開始日に確実に間に合うよう余裕をもったスケジュール管理を心がけてください。
36協定は一般的に1年毎に更新するものですが、協定届は労働関係に関する重要な書類ですので、5年間は保管しておきましょう。
STEP6.従業員への周知・時間外労働のチェック
36協定届が受理されても、それで終わりではありません。協定内容を従業員に周知し、実際の時間外労働が協定の範囲内に収まっているかを継続的にチェックする運用こそが最も重要です。
具体的な周知方法については、労働基準法施行規則第52条の2により次のいずれかの方法で行うことが定められており、周知を怠った場合は30万円以下の罰金が科される可能性があります。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること
- 書面を労働者に交付すること
- 使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルまたは電磁的記録媒体をもって調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
法定の周知方法を満たすだけでなく、従業員が協定内容を正しく理解できる工夫も重要です。3番目の電子的方法はイントラネットや社内ポータルサイトへの掲載が該当し、テレワーク勤務者も含めた全従業員がいつでも内容を確認できる便利な手段といえるでしょう。
IT環境が限定的な事業場では、休憩室等への掲示や給与明細配布時の書面同封などを組み合わせれば確実な周知を図ることができます。
中でも管理職には「36協定は上限であってノルマではない」ことを徹底し、安易な特別条項の適用を避ける判断基準を共有しておく必要があります。
掲示や書類交付だけではなく、新入社員研修や管理職研修でも36協定の趣旨を説明し、長時間労働を前提としない職場文化の醸成に努めましょう。
36協定を締結しても、協定の範囲内で労働時間を適正に管理する責任は継続します。月次で部署別の時間外労働を集計し、上限に近づいている従業員や部署については業務分散や応援体制を検討するなど、協定違反を未然に防ぐ取り組みが必要でしょう。
36協定の上限時間を登録すれば一定時間に達した時点で通知する勤怠管理システムもあるようですので、管理が煩雑になりそうな場合は導入を検討するのもよいでしょう。
特別条項を適用した場合は、協定で定めた健康確保措置も確実に実施することが求められます。36協定は「提出したら終わり」の書類ではなく、従業員への周知と継続的な管理を通じて初めて機能する取り組みなのです。
STEP7.1年ごとの更新
36協定には有効期間があり、一度締結すれば永続的に有効なものではありません。有効期間を1年間として毎年更新する運用が一般的ですので、企業は毎年以下のようなプロセスを繰り返すことになります。
- 次期の協定案を策定(前年度の実績分析を含む)
- 改めて過半数代表者を選出
- 労使での協議・締結
- 労働基準監督署への届出
最も注意が必要なのは、36協定には「自動更新」という概念がない点です。
有効期間が切れる前に新しい協定を届け出ていなければ、期間満了の翌日から残業をさせることは一切できなくなります。この状態で残業をさせれば、たとえ1分であっても労働基準法違反となってしまいます。
更新漏れを防ぐために、担当者個人の注意に頼るのではなく組織として忘れずに更新できる体制を構築しましょう。
- 36協定の管理担当部署と責任者を明確に定める
- 主担当者と副担当者を置き、相互にチェックする体制を作る
- 年次の人事・労務業務スケジュールに「36協定更新」を必須項目として組み込む
このような体制を整えたうえで、カレンダーアプリやグループウェアのリマインダー機能を活用して有効期間満了の2~3カ月前から準備を開始できるよう通知する設定をしておけば、更新漏れのリスクを大幅に減らせます。
実務上は事業年度(4月1日~3月31日)や暦年(1月1日~12月31日)に合わせて起算日を設定すると分かりやすく、年次の人事業務サイクルにも組み込みやすくなります。
原則として、36協定の対象期間の途中で起算日を変更することはできません。
やむを得ない事情で年度の途中に36協定を再締結する場合、新しい協定を遵守するのはもちろんですが、当初の36協定の有効期間が満了するまでは当初の協定内容も引き続き遵守する必要があります。
つまり、新旧2つの協定が重複する期間は両方の内容をクリアしなければならない状態となり、労働時間管理が非常に複雑になってしまうのです。
起算日の変更や協定の結び直しは慎重に検討すべきでしょう。
36協定の更新は単なる事務手続きではなく、自社の働き方を定期的に見直す貴重な機会でもあります。
前年度の時間外労働実績を分析し、「特定の部署だけ残業が多い」「特定の時期に集中している」といった傾向が見えれば、業務の平準化や人員配置の見直しといった働き方改善のヒントが得られます。
こうした振り返りを通じて、より良い職場環境づくりにつなげていくよう努めましょう。
違反しないための対策とは?
最も基本的かつ効果的な対策は、日々の労働時間を正確に把握し、上限に近づく前に対策を講じることです。企業の規模や体制に応じて、タイムカードでの記録管理・ICカードによる入退館データの活用・Web打刻システムなどさまざまな方法があります。
勤怠管理システムを導入している場合は、日々の労働時間を自動集計して上限に近づいた時点で通知する機能を活用するとより効率的な管理が可能になるでしょう。手作業での管理を行う場合も、週次でのチェック体制や部署ごとの集計ルールを明確にすれば適切な労働時間管理は十分に可能です。
特定の部署や個人に業務が集中しないよう、業務配分の見直しやチーム内での協力体制の構築を進めることも重要です。
「ノー残業デー」の設定も一定の効果がありますが、根本的な業務量が減らなければ別の日にしわ寄せがいくだけになってしまいます。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による定型業務の自動化やアウトソーシングの活用など、業務量そのものを削減する視点も持ちましょう。
違反した場合どうなる?事例紹介
36協定に違反した場合、労働基準法第119条により「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
協定の上限を超えて時間外に労働させていたとなれば、刑事罰の対象となるだけでなく社会的な信用を大きく損ない、深刻な経営リスクを招く恐れもあるのです。
実際の書類送検事例から見る違反パターン
厚生労働省が公表した直近1年間(令和6年11月~令和7年10月)の労働基準関係法令違反に係る公表事案を見てみると、36協定に関連した違反で実際に送検されているケースには以下のようなパターンが見られます。
- 協定の締結や届出を行っていなかった
36協定の締結・届出を行わずに従業員に法定労働時間を超える残業をさせていたケースです。製造業や飲食業などの事例があり、中には労働基準監督官の調査に対して虚偽の報告を行った悪質な事案も含まれています。 - 協定で定めた時間を超えてしまった
36協定自体は締結していたものの、協定で定めた延長時間を超えて残業をさせていたケースです。運輸業や建設業、製造業などで発生しており、繁忙期の対応として始まったものが常態化してしまった例と考えられます。 - 特別条項の上限規制を超えてしまった
特別条項付きで協定を締結していても、法律で定められた上限(月100時間未満、複数月平均80時間以内など)を超えて働かせていたケースです。警備業や運輸業、医療関連の事業場でも発生しており、業種を問わず注意が必要でしょう。 - 適正な手続きを経ない届け出だった
形式的には36協定を届け出ていたものの、適正な手続きによらない締結により協定自体が無効と判断され、結果として違法な時間外労働となったケースです。
※参照:厚生労働省「労働基準関係法令違反に係る公表事案」(令和6年11月1日~令和7年10月31日公表分)
これらは決して他人事ではなく、日々の労働時間管理を怠ればどの企業にも起こりうる問題です。
違反が悪質と判断されれば、企業名や違反内容が公表される可能性があります。企業名が公表されれば報道機関に取り上げられる可能性も高く、「ブラック企業」というイメージが定着してしまうでしょう。
悪いイメージが定着してしまうと、採用活動においては優秀な人材が応募を避けるようになり、既存社員の士気低下や離職にもつながる恐れがあります。また、取引先企業が取引継続を見直すケースや、金融機関の融資審査に悪影響を及ぼすケース、ハローワークでの求人申込が一定期間受理されなくなる恐れも考えられるでしょう。
また、36協定の範囲内であっても過労死やメンタルヘルス不調などの健康被害が発生し、「安全配慮義務違反」を理由に損害賠償請求訴訟に発展する例があります。
長時間労働と発症した病気との因果関係が裁判で認められた場合は高額な賠償金の支払いに加えて企業イメージも低下し、刑事罰同様大きなダメージを受ける恐れがあるのです。
こうしたリスクを抑えるためには、36協定を守るだけでなく、現場で労働時間を管理する管理職の役割が極めて重要です。
部下の業務量の把握や業務の優先順位付け、残業の事前コントロールなど、管理職に期待される役割は、働き方改革の進展とともに大きく変化しています。
管理職に求められる新たな役割やポイントについては、当サイトの「働き方改革で管理職の仕事はどう変わる?3つの変更点や役割を解説」で詳しく紹介していますので、ご参照ください。
36協定に関するFAQ
Q. テレワーク勤務者にも36協定は必要ですか?
A. テレワークでも労働基準法は通常通り適用されるため、法定労働時間を超えて働かせる場合は36協定の締結・届出が必須です。
労働時間の把握は、勤怠システムでの打刻・PCログとの突合・始業/終業のメール報告などで行います。時間外労働は事前申請制とし、深夜時間帯(22時~5時)の労働は原則禁止とするなど、明確なルールを設定することが重要です。
※参照:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」13ページ(2021年3月)
Q. 裁量労働制を導入していれば、36協定は不要ですか?
A. 「みなし労働時間」の設定によります。
裁量労働制では、実働時間ではなく協定で定めた時間を働いたものとみなします。この「みなし労働時間」が法定労働時間(1日8時間)を超える場合、その超過分について36協定が必要です。
たとえば、「1日9時間働いたものとみなす」場合は1時間分の36協定が必要ですが、「1日7時間働いたものとみなす」場合には36協定は不要です。
ただし、裁量労働制であっても以下の点に注意が必要です。
- 休日労働…法定休日に労働させる場合は36協定の締結・届出が必要で、35%以上の割増賃金を支払う必要があります。
- 深夜労働…午後10時~午前5時に労働した場合、実際に労働した時間に対して25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
※参照:東京労働局「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」(2014年3月)
Q. 副業をしている従業員の36協定はどう考えればよいですか?
A. 労働時間は「通算」で管理し、36協定は自社分を締結します。
事業場を異にする場合においても労働時間は通算され(労働基準法第38条)、事業場を異にする場合とは事業主を異とする場合も含まれるとされています。自社で法定労働時間を超えて働かせる場合は、自社で36協定の締結・届出が必要です。
【通算される上限規制】
- 月100時間未満(時間外労働+休日労働の合計)
- 複数月平均80時間以内(時間外労働+休日労働の合計)
通算されない項目(各事業場で個別に設定) - 月45時間・年360時間の限度時間
- 特別条項の年720時間の上限
これらは各事業場で個別に設定・適用されます。
副業を認める場合は就業規則で事前申告を義務付け、定期的な労働時間報告を求める仕組みが求められます。
※参照:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2022年7月)
Q. 事業場外みなし労働時間制の場合、36協定は必要ですか?
A. 「通常必要とされる時間」が法定労働時間を超える場合は必要です。
営業職など事業場外で労働時間の算定が困難な場合、「通常必要とされる時間」を働いたものとみなします。この時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合は、36協定の届出が必要です。
なお、携帯電話等で随時指示を受けられる状態にある場合はこの制度の対象外となり、実労働時間での管理が必要になります。
※参照:東京労働局「事業場外労働に関するみなし労働時間制」(2015年3月)
チェックリスト~36協定を円滑に進めるために~
36協定の締結から運用までは多くの工程があり、うっかりミスが法令違反につながるリスクがあります。
ここでは、実務担当者が確認すべき重要ポイントを「準備・選出」「協定内容」「届出・運用」の3つのフェーズに分けて整理しました。毎年の更新時にぜひご活用ください。
| フェーズ | チェック項目 | 重要ポイント |
|---|---|---|
| 準備・選出① | 前年度の時間外労働実績を部署別・月別に分析しましたか? | 月45時間・年360時間の上限を超える可能性の精査と特別条項の要否判断に必須 |
| 準備・選出② | 対象従業員の範囲に漏れはありませんか? | 正社員・契約社員・パート・アルバイトすべてが対象。裁量労働制適用者もみなし時間が8時間超なら対象 |
| 準備・選出③ | 過半数代表者は管理監督者以外から選出されていますか? | 部長・工場長など労働基準法上の管理監督者は代表者になれません |
| 準備・選出④ | 代表者選出は投票・挙手など民主的方法で行いましたか? | 会社の一方的指名や親睦会代表の自動就任はNG。選出経緯の記録保存が重要 |
| 協定内容① | 特別条項の「臨時的な特別の事情」は具体的に記載されていますか? | 「決算業務による業務量増加(2月~4月)」など時期・内容を具体的に記載 |
| 協定内容② | 特別条項の4つの上限すべてを満たしていますか? | 年720時間・月100時間未満・複数月平均80時間以内・月45時間超は年6回まで |
| 協定内容③ | 健康確保措置の内容が協定に明記されていますか? | 医師面接、勤務間インターバル、相談窓口設置など実施可能な措置を選択 |
| 協定内容④ | 最新版の協定届様式を使用していますか? | 厚生労働省サイトから最新の様式第9号/第9号の2をダウンロード |
| 協定内容⑤ | チェックボックスや署名欄に記入漏れはありませんか? | 特に「過半数代表者の適格性」確認欄の漏れは返戻の主要原因 |
| 届出・運用① | 起算日より前に労基署への届出が完了しますか? | 遡及適用不可。3月末前後の集中時期は特に余裕をもった提出が必要 |
| 届出・運用② | 従業員への周知を適切に行っていますか? | 掲示・書面交付・イントラネットへの掲載等で常時確認可能な状態に |
| 届出・運用③ | 月次の労働時間モニタリング体制はありますか? | 45時間接近時のアラート機能や業務調整の仕組みで協定違反を未然防止 |
| 届出・運用④ | 次回更新時期の管理体制は整っていますか? | 有効期間満了の2~3カ月前からの準備開始を複数担当者で管理 |

