働き方改革

【弁護士が解説!】副業・兼業ガイドラインが改訂!企業の対応すべきポイントについて

平成301月に「モデル就業規則」の改定と「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「副業・兼業ガイドライン」といいます。)が策定され、政府によって副業・兼業を推進する政策が打ち出されて以降、「副業解禁」といった言葉をよく耳にするようになりました。

他方で、副業・兼業の盛り上がりとともに、様々な制度的な課題が見られ始めたことから、令和291日、「副業・兼業ガイドライン」の改定が行われました。

今回は、改訂が行われた「副業・兼業ガイドライン」の解説と併せて、企業のメリット・デメリット、ガイドライン改定への対応のポイントをご説明致します。改定された副業・兼業ガイドラインについては、以下をご参照ください。https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf

※(追記)令和2年11月、厚労省のモデル就業規則の解説箇所の改定、副業・兼業に 関する様式例、パンフレット等が発出されましたので、そちらもご確認ください。
・モデル就業規則https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

・様式例
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

・パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000695150.pdf

【注目】自社にとって本当に必要な福利厚生制度は?

もしもこの記事をご覧いただいている方の中で、自社の福利厚生制度についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、まずはじめに「企業担当者必見!「福利厚生サービス」のおすすめ5選を解説」の記事をお読みください。

福利厚生のアウトソーシングについて

福利厚生の充実は、従業員満足度を向上させ、採用や離職防止にも役立ちます。

もしこれから福利厚生の導入を検討するのであれば、自社で新たな制度を一から作るよりも、低価格で手間をかけずに簡単に導入ができるアウトソーシングサービスを利用すると良いでしょう。

数あるサービスの中でも、業界でトップシェアを誇る「ベネフィット・ステーション」の導入をおすすめします。

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・福利厚生会員数は業界最大の1,548万人(※2022年4月現在)
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従業員が企業担当者を介さずサービスの利用申し込みを行うため、導入後の事務作業はほとんどありません。

ぜひこの機会にご検討ください。

改定された副業・兼業ガイドラインの施行時期

今回改定された副業・兼業ガイドラインは、令和291日に公表され、同日付けで同じ内容の通達(令和2年9月1日基発0901第3号参照)が発出されています。

したがって、監督行政上は令和2年9月1日から適用が開始されており、既に運用が始まっています(以下では、今回改定されたガイドラインを「改定副業・兼業ガイドライン」といいます。)。

 なぜ政府は副業・兼業の推進を図っているのか

そもそも、なぜ政府は副業・兼業の推進を図っているのでしょうか?

令和元年度の成長戦略実行計画によれば、政府は、個人にとって下記3点のメリットがあるととらえています。

所得の増加

他社での就労経験を積むことでスキルや経験の獲得が可能

✔人生100年時代において個人が働き続ける準備が可能

また、同成長戦略実行計画では、副業・兼業で個人が獲得したスキル・経験が本業企業にフィードバックされることで、本業の企業にとっても新しいアイデアが生まれ、また起業の促進にもつながり、新たな付加価値が創造されることを期待しています。そして、このことは、ひいては日本全体の労働生産性の向上に寄与するものと考えられています。

政府は、こうした個人、企業、そして日本全体にとってのメリットから、副業・兼業を推進しています。

企業にとっての副業・兼業のメリット・デメリット

上記は、政府の成長戦略に記載されているメリットですが、その他にも以下のようなメリットがあるとされています。

3つのメリット

①従業員が多様な経験を積み成長する

②優秀な人材の離職防止

③他社の専門人材の活用

②については、「副業・兼業が離職につながるのでは」との声も聞かれるところです。

しかし、調査によれば、副業・兼業をすることによって、本業への意識やモチベーション等が低下したとする人はごく少数にとどまっており、むしろこれらが高くなったという人の割合の方が多いとされています。少なくとも、ほとんどの人は「変わらない」と答えています。

 

出典元:令和元年度成長戦略実行計画(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ap2019.pdf

 

3つのデメリット

①従業員が疲労し本業に支障が出る

②情報漏洩・競業のリスクがある

③マネジメントの負担が増加する

しかし、上記のデータからすると、①の点は当たらないと見みることができます。

また、②については、就業規則の整備や誓約書を交わす等によって十分に対応が可能といえます。

③については、確かに、負担があるといえそうです。そこで、副業・兼業に前向きな企業では、まずトライアルとして、社内で複数の部署で働くという「社内副業」を行っているところもあり、こうした取組みを活用していくことが有効でしょう。

副業・兼業の現状と副業・兼業ガイドライン改定の経緯

さて、政府によって推進されてきた副業・兼業ですが、「副業・兼業をやりたい」という人は、徐々に増加傾向にあるものの、実際に「副業・兼業をしている」という人は伸び悩んでおり、「やりたいのにできていない」という人が増えているという状況となっています。

出典元:令和元年度成長戦略実行計画(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ap2019.pdf

その理由として考えられるのは、「企業側が副業・兼業を許可していない」ということが考えられ、そうした企業の大きな懸念の一つが、「労働時間の管理・把握が困難になるため」という点でした。

(図)企業の懸念

(出所)独立行政法人労働政策研究・研修機構「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査・労働者調査)(平成309月)より筆者作成

こうした企業の懸念に対応するため、令和2年度の成長戦略実行計画(令和2717日閣議決定)において、副業・兼業ガイドラインの改定の方向性が示され、これに基づき、厚労省での議論を経て策定されたのが、今回の改定副業・兼業ガイドラインということになります。

改定副業・兼業ガイドラインのポイント

今回の改定の主なポイントとしては、次の点が挙げられます。

①副業・兼業先での労働時間通算は維持

②通算した結果の法的責任は後から「労働契約を締結した」使用者が負う

③労働時間が通算されるのは「労働時間規制の適用を受ける労働者」の副業・兼業

④労働時間の把握方法は自己申告のみで足り、申告漏れ等の場合には企業に責任はない

⑤実労働時間に基づく管理を不要とする「管理モデル」を提示

以下、それぞれについて見てみましょう。

①副業・兼業先での労働時間通算は維持

労基法381項では、

「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」

との定めがあります。

この「事業場を異にする場合」という文言には、「事業主が違う場合」も含むと解釈するか否かが、副業・兼業先の労働時間を通算する必要があるか否かを左右します。

この点、厚労省は、昭和23年の解釈通達(昭和23年5月14日付け基発第769号)以来、一貫して「事業場を異にする場合」には「事業主を異にする場合も含む」とし、副業・兼業先での労働時間も通算するとの考えをとってきました。

この考え方は、今回の改定副業・兼業ガイドラインでも維持されており、厚労省の考え方に従うと、今後も副業・兼業先での労働時間は通算する必要があるということになります。

他方で、学説では、「事業場を異にする場合」には、事業主が違う場合は含まれないと解釈すべきとの見解が有力に主張されています。この点についての最高裁の判断はまだ示されていません。

②通算した結果の法的責任は後から「労働契約を締結した」使用者が負う

では、副業・兼業先での労働時間を通算した結果、法定労働時間を超過した場合の36協定の締結、届出義務や割増賃金支払義務、上限規制違反等の法的責任は、どちらの企業が負うのでしょうか。

この点について、改定副業・兼業ガイドラインでは、時間的に後に「労働契約を締結した」使用者が、時間外労働の責任を負うこととなるとされています。

 

(出所)厚労省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000695150.pdfより

ただし、フルタイム正社員で働いている人が、終業時間後に副業・兼業を行うような場合には、所定労働時間で法定労働時間に達している場合(又はそれに近接している場合)が多いため、実際上、「労働契約の先後」が重要となります。

③労働時間が通算されるのは「労働時間規制の適用を受ける労働者」の副業・兼業

副業・兼業先の労働時間も通算する必要があるとしても、改定副業・兼業ガイドラインでは、労働時間が通算されるのは、労働基準法の労働時間規制の適用を受ける労働者とされています。

したがって、

・労基法上の「労働者」ではない場合

⇒「副業(複業)フリーランス」といわれるような業務委託で発注を受ける場合

・労基法上の「労働者」であるが、「労働時間規制が適用」されない場合

⇒管理監督者や高度プロフェショナル制度適用者等、労働時間規制の適用がない場合

には、労働時間の通算は不要となります(ただし、①の場合の注意点は後述します。)。 

④労働時間の把握方法は自己申告だけで足り、申告漏れ等の場合には企業に責任はない

副業・兼業先での労働時間の通算が必要となった場合、実務上問題なのは「どうやって副業・兼業先の労働時間を把握すればいいのか」という点でしょう。

この点については、改定副業・兼業ガイドラインでは、労働者からの申告によってのみ把握するものとされており、客観的記録との照合は不要としています。

では、仮に、申告漏れや虚偽申告があった場合は、どうなるのでしょうか。

この点については、改定副業・兼業ガイドラインの方向性を示している令和2年度成長戦略実行計画では、「申告漏れや虚偽申告の場合には、兼業先での超過労働によって上限時間を超過したとしても、本業の企業は責任を問われないこととする」としています。

したがって、副業・兼業先での労働時間については、自己申告のみをもって把握すれば足り、申告漏れや虚偽申告等の場合には、企業には責任はないものと考えられます。

ただし、契約上の請求権でもある割増賃金の支払いについては、「知らなかった」ということのみで支払いを免れるかは若干の議論があります。

この点に関しては、副業・兼業先での労働時間数と通算すると法定労働時間を超えるとの事実を「確定的に認識していない場合」には、労基法381項の労働時間の通算による割増賃金の支払義務を負わないとした裁判例(横浜地裁平成30328日、同控訴審東京高裁平成30926日)があり、注意が必要です。

「確定的に認識していない場合」については、この事案では、副業・兼業を行うという事実は使用者も認識していたものの、具体的に何時間働いているかは認識していなかったことから、確定的な認識はなかったとされており、単に副業・兼業を行うこと認識しているだけでは「確定的な認識」はないとされると考えられます。 

⑤実労働時間に基づく管理を不要とする「管理モデル」を提示

これまで述べてきたのは、自己申告によるとはいえ、「実労働時間」を基にした労務管理でした。

改定副業・兼業ガイドラインは、新たに「管理モデル」という考え方を示し、これに従う限りにおいては「実労働時間」を基にした労務管理を不要としています。この点は、今回の改定の大きなポイントの一つです。

管理モデルの導入手順は、次のとおりです。

1、副業・兼業を行おうとする従業員に対して使用者Aが管理モデルにより副業・兼業を行うことを求め、従業員及び従業員を通じて使用者Bがこれに応じることで導入(使用者Aと使用者Bが直接やり取りすることはない)

2、使用者A、使用者Bのそれぞれの1か月の法定外労働時間を合計した時間数が上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の範囲内において、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定。

3、使用者Aは自らの事業場における法定外労働時間の労働について、使用者Bは自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ割増賃金を支払う。

これを図示すると、次のようになります。

出典元:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン<概要>」

https://jsite.mhlw.go.jp/toyama-roudoukyoku/content/contents/000707266.pdf

改定副業・兼業ガイドラインでは、この管理モデルによって設定された労働時間で働いている限りにおいては、これを前提に割増賃金を支払う等していれば、「実労働時間」に基づかなくとも労働基準法を遵守することが可能としています。

ただし、この場合でも労働時間の通算は維持されていることから、使用者Bは使用者Aで働くとされている時間を前提に、いきなり割増賃金が発生する可能性がある点は、注意が必要です。

いわゆる副業(複業)フリーランスを受け入れる場合の注意点

一言で「副業・兼業」といっても、実際には業務委託で契約を受注する副業(複業)フリーランスが多いといわれています。副業フリーランスの場合は、この改定副業・兼業ガイドラインの適用の範囲外ということになります。

しかし、契約形態が「業務委託契約」であれば、何らの法的な規制もないというわけではなく、

①    実態に照らし「労働者」である場合

⇒労働基準法等の適用(したがって、改定副業・兼業ガイドラインが適用)

②    実態に照らしても「労働者」でない場合

⇒独占禁止法の「優越的地位の濫用」規制や、その補完法である下請法による規制の適用

といった、規制がかかることになります。

フリーランスに関しては、内閣官房、公正取引委員会、中企庁、厚労省で横断のフリーランスガイドラインを策定し、法令の執行を強化する旨が記載されています(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ap2020.pdf)。

そのため、このような副業(複業)フリーランスに対して発注を行う場合には、上記のような点に注意する必要があります。

副業・兼業に対応するための3つのポイント

さて、上記のようにルール整備が行われてきた副業・兼業ですが、企業がこれに対応するには、以下の3点がポイントとなります。

1、副業・兼業は原則として労働者の自由であることを認識する

これまで述べてきたとおり政府が推進を図ってきた副業・兼業ですが、企業としては「他社で働く余裕があるなら、自社でもっと働いてほしい」という気持ちもあるでしょう。しかし、働き方改革より前から、裁判例においては原則として副業・兼業を禁止又は制限することはできないとされています。

例外的に、これを禁止又は制限することができるのは、

副業・兼業により労務提供上の支障が生じる場合

✔業務上の秘密が漏洩する場合

✔競業により自社の利益が害される場合

✔自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

に限られています。

しかも、これらの例外事由は「もしかしたら情報が漏洩するかも」といった程度では足りず、実際にこれが起こり得る具体的な危険性がない限り、禁止又は制限ができないとされています。

企業においては、まずこの点を認識しておくことが極めて重要となります。

2、申告、許可制度等の制度整備を行う

上記のとおり、副業・兼業は原則として禁止又は制限することができないことからすると、企業としては、これを前提として就業規則等の準備をしておくことが重要となります。その際、ポイントとなるのは、副業・兼業の申告、許可制度(事後的な取消しも含む)です。まず、副業・兼業の開始時点においては、上記①で述べた例外的な場合に該当しないかを判断するためにも、

他の使用者の事業内容

✔他の使用者の下で従事する業務内容

✔労働時間の通算の対象となるか否かの確認(業務委託契約であるか労働契約であるか等)

✔(労働時間通算の対象となる場合には)他の使用者との労働契約の締結日、期間 ・ 他の使用者の事業場での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻、所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数

といった事項を予め申告させることが適切です。

次に、副業・兼業の開始後においても、副業・兼業先での労働時間や労働条件の変化等がないか定期的に申告させる仕組みを設けておく必要があります。

3、情報漏洩リスクへの対応を行う

副業・兼業の場合は、退職後の情報漏洩と異なり、同時に複数の企業で働くわけですので、まさに生きた情報が漏洩するリスクがあり、企業にもたらす損害は大きくなる可能性があります。

そのため、許可基準の中に企業秘密の漏洩の具体的な可能性がある場合には副業・兼業を禁止又は制限しうる旨の規定を設け、事後的に企業秘密の漏洩の可能性が生じた場合には許可を取り消せるようにしておくことが重要です。

また、労働契約や就業規則等で「企業秘密」の範囲を明確にしておくことや、誓約書等を提出させ、このことを明確に認識させておくこと、そして、不正競争防止法上の「営業秘密」としての保護を受けるため重要な情報を「秘密として管理」しておくことが重要となります。

副業・兼業に対する意識を変えることが必要

既に述べたとおり、副業・兼業をやりたいという希望は、働き方改革以降高まっており、新型コロナウイルス感染症拡大による経営不安から一社に専属して働くことへのリスクを感じたことで、副業・兼業へのニーズはさらに高まっています。

出典元:第39回未来投資会議(令和2616日)(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai39/siryou1.pdf

他方で、企業による副業・兼業の禁止の姿勢を受けて、隠れて副業・兼業を行う例もあるようです(「伏業」)。こうした隠れた副業・兼業は、企業へのフィードバックを得られないだけでなく、情報漏洩や過重労働が企業に見えないところで行われることから、非常にリスクが大きいといえます。

上記のとおり、副業・兼業は原則として労働者の自由であることをまず理解したうえで、企業としても予め就業規則等で副業・兼業についての制度設計しておくことが重要といえるでしょう。

 

 

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