運送業の人手不足は国内ワースト2|業界が抱える課題とその対策
運送業は、宿泊や介護、ITエンジニアリングにならんで人手不足の危機にさらされている業界の一つです。
2017年12月に日銀が発表した企業短期経済観測(短観)調査では、「雇用人員判断指数」という項目において、業界別では宿泊・飲食業の次に従業員が不足している状況が明らかになりました。
2017年の雇用人員判断指数指数(自社の従業員の過不足について「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と回答した割合を引いた指数) 参考:日本銀行、時系列統計データ検索サイト
上の表を見て分かる通り、いうなれば「全業界ワースト2の人手不足」に陥っているのが運送業です。
そこでこの記事では、運送業の人手不足について、原因や背景などの点から考察をして課題を明らかにします。また、その課題解決のために現在進められている対策や改善案についても最後に紹介していきます。
もしもこの記事をご覧いただいている方の中で、自社の福利厚生制度についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、まずはじめに「企業担当者必見!「福利厚生サービス」のおすすめ5選を解説」の記事をお読みください。
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目次
運送業の人手不足は「人手に大きな変動はないが、仕事量が増えている」ことが原因
そもそも、なぜ人手不足は起きるのでしょうか。まずは、その原因を「需要」と「供給」にあてはめて考えていきます。
需要と供給のバランスが崩れて「需要過多」になるとき、その原因を大ざっぱに分けると2つのパターンが考えられます。1つは「供給(人手)は以前と同じだが、需要(仕事量)が増えている」パターン。そしてもう1つは「仕事量は増えていないが、人手が減ってしまった」パターンです。
運送業では、この2つのうちどちらに当てはまるのでしょうか。
以下で詳しく解説していきますが、国の統計データなどを使って検証してみると、運送業の人手不足は「人手に大きな変動はないが、仕事量が増えている」ために起きていることが分かりました。
まずは従事者数についてのデータを見てみましょう。国土交通省・厚生労働省によると「道路貨物運送業就業者数は、2003年以降増減しつつも、概ね180万人超で推移」しており、おおよそ横ばいです。
抜粋:同省「トラックドライバーの人材確保・育成に向けて」2015年
この調査と同じ2003年から2015年までの期間、仕事量はどのような状況だったのでしょうか。
冒頭でも紹介した、日銀短観の「雇用人員判断指数」を年度ごとに見てみます。運送業自体、2010年を境にして急激に数値の減少が大きくなり、2015年にはマイナス31ポイントを記録しています。人手不足だと感じる企業が増えていることの表れです。
これらのデータをもとに考えると、運送業の人手不足は仕事量の増加と、それに対応できないことが大きな要因だと考えられます。
増えすぎた仕事量に対応しきれない3つの要因
では、なぜ運送業は高まるニーズに対応しきれていないのでしょうか。
ここからは、国土交通省が2017年に発表した「物流を取り巻く現状について」を参照しながらその背景について見ていきます。
この調査資料では、日本国内の運送業を取り巻く状況として、大きく2つのことが取り上げられています。それは「トラックの積載効率の悪さ」と「Amazonや楽天などEコマース市場の成長による宅配便取扱数の増加」です。
これらのことに加えて、トラック運送業特有の「荷待ち」と「ラストマイル」と呼ばれる問題が、業務効率だけでなく労働環境も悪化させています。
運送業が増えすぎた仕事量に対応しきれない理由には、これらの問題が大きく関係しています。
なお補足ですが、この調査の運送業には鉄道や航空便、船舶を使った企業なども含まれています。その中で、売り上げ高い・事業者数が最も多く、かつ抱えている従業員が突出しているのがトラック運送業です。
そのため、数の面でもトラック運送業における問題が、業界全体としての課題とほぼイコールになっています。
要因1:トラックの積載効率の悪さ
国土交通省によると、トラック1台あたりの積載効率(※トラック最大積載量から実際の輸送量を割った数値)は現在約41%です。またこの数値は概ね横ばいではありますが、ここ数年間はわずかに悪化してきています。
これはつまり、人手不足が進んでいるにもかかわらず、トラック自体は荷室の半分以上を空のままにして走っているということです。この点については、国土交通省はもちろん、その他の有識者からも改善すべき点として指摘されています。
参考:PRESIDENT Online「再配達のワガママが通じるのはいまだけだ 10年後に24万人の運転手が不足」
要因2:Amazonや楽天などEコマース市場の成長による宅配便取扱数の増加
もう一つは、消費者としての私たちにも大きな関わりを持っている、Amazonや楽天に代表されるEコマース(EC)です。
経済産業省によると国内のEC市場は2015年で13.8兆円、翌2016年には15兆円を突破しました。この市場の中で、半分以上の比率を占めているのが物販です。
ここ数年でも毎年10%以上の成長を続けており、今後さらに市場が拡大していくことが確実視されている分野です。
この数値に連動して、宅配便の取扱個数が増えていることが運送業における課題です。国土交通省「平成28年 宅配便等取扱個数の調査」によると、トラックによる宅配便の取扱数は2015年でおよそ37億個、翌2016年はおよそ39.7億個です。
直近5年間では、EC市場の伸びとともに、荷物の数が年1億〜2億個のペースで増加しています。たとえるなら、日本の世帯数は約5300万なので、1世帯あたり毎年2〜4個ずつ受け取る荷物を増やしている計算です。
※参考:国土交通省「平成28年 宅配便等取扱個数の調査」
※参考:経済産業省「平成28年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る 基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」
要因3:業務効率を悪化させる「荷待ち」と「ラストマイル」
また、この2つの課題以外にも、運送業界には「荷待ち」と呼ばれる荷物を受け取る・納品するための待ち時間が長時間化していることや、ニュースでも話題の「再配達問題」を含めた、配送センターから個人宅までの配達(ラストマイル)への対応など、業界の仕組みとしての問題が存在しています。
人手不足にまつわる課題は、事業者だけでは解決できない
ここまでのことをまとめてみます。
- 就業者数に大きな変動はなく、むしろ微増している
- トラックの積載効率の悪さは、以前から変わらない課題である
- 人手や積載効率に変動がない一方で、荷物の取扱数が増えている
このようなことを踏まえると、人手不足は問題の一端でしかないといえるでしょう。
つまり、運送業界は単に就業者数を増やすことだけが解決策ではなく、運送業者を利用する企業(荷主)や私たち消費者(受取主)も巻き込んだ、業務全体を変革することが求められています。
今後の課題はトラック運転手の“高齢化”
ここまでに挙げた課題に加えて、今後さらに人手不足を助長する要素があります。それは就業者、つまりトラック運転手の高齢化です。
国土交通省・厚生労働省の調査によると、「道路貨物運送業就業者のうち、40代~50代前半の中年層の占める割合が、全産業平均に比べて非常に高い」ことが分かっています。
特に、就業者の中で40〜55歳の占める割合が顕著です。全産業では34.1%なのに対し、運送業では44.3%にのぼっています(平成26年時点)。
国として労働者の高齢化が進んでいることがあるにせよ、運送業ではこの状況が特に進んでいることも懸念です。
2つの側面から考える、運送業に求められている改革
ここからは運送業が抱える、人手不足を中心とした課題をどのように解決すべきかについて考えていきます。
現時点で取り組みや検討が進んでいる内容について、制度と事業形態、2つの側面に分けてみていきましょう。
制度:直近での解決が必要な荷待ち・再配達の改善と、ドライバーの高齢化に備えた雇用促進
制度としての課題は、荷待ち・再配達などによる業務効率の悪さです。
これは、昨今声高にさけばれている働き方改革とも深く関係しているので、一刻も早い解決が必要です。
労働環境の改善と、新しい受け取りサービス
荷待ち問題の対策については、国土交通省と厚生労働省が制度面での対策を進めています。
運送業者だけでなく、行政や荷主もメンバーに加えた「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」を全都道府県に設置することや、荷主に対して賃上げ交渉をしやすくするための環境整備が既に始まっています。
また、再配達に関しては、大手企業を中心に実験的な取り組みが始まっています。
例えば駅などの生活動線上に宅配ロッカーを設置することや、最寄りのコンビニで荷物を受け取ることができるサービスなどがその一つです。
内閣府の調査では、宅配ロッカーの利用意向に否定的な回答が50%と、これらの取り組みが受け入れられているとはいえないかもしれませんが、個人の荷物受け取りの形を変えるための現実的な手法として、今後が注目されています。
ドライバー高齢化に備えた雇用促進
若年層の雇用に対しても、政府や業界団体による施策が始まっています。
厚生労働省では、ドライバーなどに職業訓練を行った企業に対して、費用や訓練中の賃金の助成をするなど、人材育成のサポートを制度化しています。また、この動きに足並みをそろえて、全日本トラック協会でも高校新卒者を対象に、準中型免許取得の支援助成金を出すなどの取り組みを行っています。(※1)
同協会では助成金だけでなく、採用・職場環境改善などセミナーを開催し、人手不足を解消するための具体的な支援も行っています。自社だけではなかなか解決に悩む場合は、こうした制度を利用することが良いでしょう。
セミナーのほかにも、協会が企業と共同で高校などに働きかけ、就職説明会や職業体験を開催した事例などもあります。地道ではありますが、実際に採用候補者に会いに行くことも若手採用においては効果的なアプローチです。
また、若年層の雇用においては、職場環境の整備も重要です。人材業界などによる、昨今の学生を対象にした複数の調査によると、就職先の企業に対して「福利厚生の充実」「休日・休暇がきちんと取れること」を重要視する傾向にあります。
助成金などによって未経験でも就職できること以外にも、福利厚生や労務管理の面でアピールできる制度や社風を作ることが、若年層雇用にはプラスにはたらきます。
これから福利厚生サービスを検討される方は、ぜひ企業担当者必見!「福利厚生サービス」のおすすめ5選を解説の記事も参考にしてみてください。
他にも、若年雇用とは少し軸が異なりますが、女性ドライバーの増加をめざして、国土交通省による「トラガール推進プロジェクト」なども実施されています。
具体的には女性用更衣室やシャワー室の設置など、女性が働きやすい環境の整備のための助成金を出したり、女性雇用のための情報公開を行っています。
女性活用も視野に入れて人手不足の解消を検討している場合は、このプロジェクトでの取り組みを参考にして、直近の人手不足の解消を行うことも一つでしょう。
参考:国土交通省・全日本トラック協会「ドライバー不足の対策していますか? 〜トラック運送業の人材採用に向けて〜」
※1、出典:平成29年度準中型免許取得助成事業について|全日本トラック協会
事業形態:新業態や自動運転、3Dプリンター…業界を変えるテクノロジーの存在
積載効率の悪さや荷物の取扱数自体が増えることなど、事業者だけでは解決が難しい課題もあります。このような課題に対して、現在どのような取り組みがされているのでしょうか。
「共同配送」の登場
業界が長年抱えている積載効率を改善するための対策の一つとして、「共同配送」という実験的な試みを紹介します。
2017年に味の素、カゴメ、日清フーズ、ハウス食品グループ本社が持続可能な物流環境の実現をかかげて、運送の企画から実務までを行う企業「F-LINE」を立ち上げました。
運送のキャパシティを貴重な資源ととらえて、異なる業界が相互に協力して出荷のピーク時期や荷物の形状・重さなどが異なる荷物をより効率的に運ぶことを目指しています。
このF-LINEの取り組みによって、コスト圧縮や労働環境の改善など、効率化の成功事例が広まれば、食品業界以外にも共同配送を行う荷主が登場することも考えられるでしょう。
3Dプリンターの可能性、ロボットや自動運転による未来構想
そして、そもそも物を運ぶということ自体がテクノロジーの進化によってなくなる未来も一部では構想されています。
例えばアパレル業界では、デジタルデバイスによって自宅でサイズ計測をし、自分にピッタリのサイズの洋服を3Dプリンターで“印刷”するといった未来像が描かれています。現在のECでも一定の割合を占めているアパレルの通販から、宅配の必要性がなくなる可能性もゼロではありません。
実際に、スタートトゥデイ(ZOZOTOWN)が2017年に発表した採寸スーツ「ZOZOSUIT」や、3Dプリンターで作られた服や靴がパリコレで発表される(※1)など、すでにこうした未来も現実味を帯びてきています。
また、荷主側だけでなく、運送業界内にもテクノロジーによる革命が徐々に訪れています。
有名な例ではAmazonの出荷センターや、ヤマト運輸の出荷センター「羽田クロノゲート」では、ロボットによる業務の自動化を進めているケースです。こうした業務効率化の側面から、荷待ち問題が解決されていくことも考えられるでしょう。
こうしたことと同様に、自動運転技術の応用にも期待が高まっています。
野村総合研究所が日本の未来の労働力についてまとめた「誰が日本の労働力を支えるのか?」(東洋経済新報社、2017年)によると、「高速道路に専用レーンを設け、トラックを自動運転させる構想」の議論も始まっているそうです。
最後は少し話が大きくなってしまいましたが、より現実的な制度面の改革に加えて、テクノロジーによって業界全体に革命が起きる可能性も現実に考えられ始めています。
※1、出典:ミシンを捨てデジタルファブリケーションを武器にパリコレに挑む、ユイマ ナカザトの挑戦|SENSORS(センサーズ)
まとめ
運送業の人手不足は、離職者の問題ではなく、ECを中心として宅配需要が増えていることが背景にあることが分かりました。
これに加えて、従事者の高齢化が進んでいるという課題もあり、今後は仕事量増加と人手減少のダブルパンチになることも考えられます。
そして、ここまで紹介してきたように、業務自体の効率化を図ることなど、単に雇用者を増やすことだけでなく、業界の仕組み自体から解決を図る方法あることを見てきました。
特に、テクノロジーの進化により、今後は中長期的に業界のあり方自体が変わっていく可能性も期待されています。
こうした業界全体の改革に加えて、今すぐに着手できる労働環境改善、若年層・女性の雇用促進を並行して進めることが、運送業の人手不足を緩和させるための道筋となるでしょう。
参考一覧 トラックドライバーの人材確保・育成に向けて(国土交通省・厚生労働省) 第1回総合物流施策大綱に関する有識者検討会(国土交通省) 平成28年度電子商取引に関する市場調査(経済産業省) 平成28年度 宅配便取扱実績について(国土交通省) ドライバー不足の対策していますか?|国土交通省・全日本トラック協会 ヤマト運輸 羽田クロノゲート F-LINE株式会社
少額投資で人材不足を解消
福利厚生サービス ベネフィット・ステーション
今や全業種の企業において65%以上が深刻な人材不足と言われています。人材不足の悩みの多くは、以下のようなものです。
・福利厚生などの待遇による満足度が低く、既存の社員が転職するなど人材の流出が止まらない
・中小企業は企業独自としてのアピールポイントが少なく、新しい人材の確保に苦戦する
人材不足を解消するには、新規採用で社員を増員または既存社員の離職を減らすかのいずれかの方法しかありません。その解決策として、福利厚生の充実に注目が集まっています。
なぜなら賃金を上げるよりも安価に拡充できるからです。
総合福利厚生サービス ベネフィット・ステーションの特徴
・東証プライム上場企業の62.2%(2022年4月現在)が導入済み
・140万件を超える優待サービスから自分にあったものが選べ、幅広い年代層/多様なニーズに対応可能
・従業員1人あたり1,000円(税抜)~で、健康支援、教育支援も合わせて対応可能
中小企業であれば、最短2週間で大企業と同等レベルの福利厚生の導入が可能です。
導入の手続きも簡単で、導入後も従業員が企業担当者を介さずにサービスを利用できるため、事務作業はほとんど発生しません。
ぜひこの機会に福利厚生制度の拡充を検討していきましょう。