第5回:前回連載での事件において不合理とされた待遇差について
本年2月に高裁判決が出た「メトロコマース事件」では、住宅手当、退職金、褒賞、早出残業手当の4つが、正規従業員と非正規従業員の間の不合理な待遇差とされた。また、非正規従業員への退職金の不支給も不合理とされ、一般企業の人事部門にとっても他人事とはいえない判決となっている。不合理とされた理由を精査することで、不合理ではない待遇差を整備するきっかけとしたい。
住宅手当は、昨年の「ハマキョウレックス事件」最高裁判決では不合理な待遇差でないとされた。その理由は、正規従業員は転勤があり、転居を伴う転勤では都度、住居費用がかさむ一方、非正規従業員は転勤がないため、住居費がかさむことはないというということであった。
「メトロコマース事件」では、実際に住宅費を負担していない従業員にも住宅手当が支給されていることに着目して、住宅費の補填ではなく、福利厚生の趣旨で、生活費を補助する目的であると判断された。また、同社は東京都内を中心とする駅に店舗を展開していることから、転居を伴う転勤が想定されていないことも、最高裁判決とは異なる判断に傾いた理由の一つであろう。
「住宅手当」の不合理性の判断が、事案によって分かれたことになる。同じ名称の待遇であっても、その目的と性質に応じて個別に判断されるということだ。
退職金についても、非正規従業員に支給されないことは不合理とされた。こちらもやはり、退職金の目的と性質に応じて判断している。
退職金の目的には、学説では、①長期勤続に対する功労報償として勤続年数に応じて支給し、従業員の長期勤続を促す仕組みであるとする「功労報償説」、②毎月の労働の対価は給与で報いられているが、その一部を退職時に後払い精算するのが退職金であるとする「後払い説」、③国に生活者の老後を保障する義務があるように、企業にも従業員の老後を保障する義務があるとする「老後保障説」――がある。
判決では、①と②を取り上げている。非正規従業員は有期契約であるものの更新を重ね実態として長期勤続していることから、「功労報償」部分は支給すべきとし、退職金を全く支給しないのは不合理とした。
非正規従業員は時給制であることから「後払い」部分はないとみなしているのか、相当な退職金額は正規従業員の少なくとも1/4であるとしている。これまでは、非正規従業員は長期勤続を前提にしていないため、退職金は支給しないのが一般的とされてきたが、長期勤続の実態があり正規従業員に退職金を支給しているなら、非正規従業員にも支給すべきということになる。
褒賞の有無も不合理な待遇差とされた。同社の褒賞は、勤続10年または退職時に金一封が支給される。規程上は「顕著な功績があった社員」を褒賞するとなっているものの、実態は正規従業員全員に支給されていることから、不合理であるとされた。規程文言だけでなく、個々の待遇の実態も見て判断されている。
また早出や過勤の際の残業手当の割増率において正規従業員と差があることも不合理とされた。
次回は、この判決からみえてくる、適正な待遇差について考えていきたい。
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