中小企業でも起こりうる、大企業病が蔓延する5つの原因とその対処法
大企業病と聞くと社員数が多い企業の問題と思いがちですが、実際には企業規模に関わらず、中小企業やベンチャー企業でも起こりうる可能性があります。
そもそも大企業病とは、事なかれ主義、社内政治、セクショナリズムなどの言葉に代表される、保守的で非効率な企業体制のことを指します。その特徴として、大きな変化や新しいことにチャレンジすることを嫌う傾向があり、既存のルールを守ろうとするので、意思決定が遅く社内のコミュニケーションが滞り、風通しの悪い職場環境になりがちです。
また縄張り意識が強いため、社内の派閥争いや出世競争に注力し、ユーザー(顧客)視点を持つことができません。その結果、時代の変化に対応できずに市場で競争力を失う危険性があります。
一度企業が大企業病に感染してしまうと、その組織体制を打ち崩すことは難しく、根本的な改革が必要になる場合もあります。
大企業病を患う組織ではどのような問題が起こりうるのでしょうか。今回は大企業病の感染原因と特徴的な症状、また予防策と治療方法についてご紹介します。
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大企業病は組織単位ではなく、社員個人でも発生可能性がある
大企業病と言うと一見、組織単位の問題として認識されがちですが、社員個人レベルで発生することもあります。
会社の名声や資金力をあたかも全てが自分の実力で行なったかのような過信してしまい、自分が優位にいると勘違いしている人や正論を振りかざすだけで、現場で起きている問題に目を向けようとしない人など、ケースバイケースで柔軟な対応をすることができないのも、大企業病が社員個人レベルで発生している人の特徴です。(※1)
組織レベルの大企業病に関しては、このような大企業病の社員が役職者になった場合などに蔓延して深刻化するおそれがあります。
大企業病が発生するのはなぜ?そのきっかけと原因
大企業病に感染するきっかけや原因には、以下のようなことが考えられます。
事業が安定しているときや企業の業績が安定している
業績が安定していると、無理な変革や新しい事業への挑戦をする必要がないと感じ、現状維持を続けようとします。「せっかくうまくいっているときに新しいことを始めて失敗しては困る」という考えから、リスクを避けて安定志向になりがちです。
また無駄な業務とは分かっていても、業績が安定しているのでコストを吸収できる余裕がある、部下を遊ばせておくわけにいかないという理由もあります。
ルールに固執する社員が増える
社員数が増えれば増えるほど、さまざまなバックグラウンドを持った人が集まります。そのため、組織が大きくなるにつれて、企業はさまざまなルールを作る必要がでてきます。
ルールを順守することは大切ですが、あまりルールに縛られすぎてしまうと、スピーディーな意思決定ができず、自由な発想で意見を出し合うことができなくなってしまいます。
その結果、優秀な社員が力を発揮できず、ルールに固執する社員が正論を繰り広げる企業文化が作られてしまいます。後者の社員が出世して管理職になれば、部下をルールで縛り評価するため、大企業病の症状は深刻化するでしょう。
社員が仕事する目的を考えなくる
ルール通りに仕事をこなすことが評価される組織においては、「なぜこの業務をやっているのか?」と考えることをしなくなる傾向にあります。
そもそも自分の業務が会社の業績や未来にどのように関わっているのかということは、あまり重要ではないからです。
目の前にある仕事をこなし、自分の業務の範囲内のみの小さな改善を続けていきます。そのため、他部署とのコミュニケーションも軽薄で、協力し合って業務効率化を図るということはありません。
業務の引継ぎのタイミング
退職者が出た場合などに業務を引き継ぐ際にも、大企業病が広がる危険性があります。
その業務は本当に必要かなどを考慮して役割を精査せずに「前任者がこうやっていた」と作業だけをマニュアル通りに引き継ぐため、後任者も深く考えずに作業を引き継いでいくためです。
組織が拡大し社員数が急増する
大企業病に陥る組織は大企業だけとは限りません。
創業時には数名から数十名の組織で経営トップの意志が末端社員にまで通じていたベンチャー企業であっても、従業員が増えて150名程度になると、経営者が自分の目で社員の仕事内容を把握することが難しくなります。
業務分担を行い、管理職を配置する際には、現場にマネジメントを任せるだけではなく、会社の進む方向性やミッションを社員にしっかり伝えて全社員のベクトルを揃える必要があるでしょう。
大企業病の特徴的な症状
それでは、大企業病が深刻化した場合の特徴的な症状にはどのようなものがあるでしょうか。
自分の業務だけにとにかく集中、視野が狭い
各社員の視野が狭いということは、それぞれが今の自分の業務のことだけを考えて仕事をしているということです。
たとえば、他部署と連携して無駄な作業を省き業務を効率化する、クライアントからのフィードバックを関連部署に共有して商品開発に活かすなど、全社を俯瞰的に見て行動することができないという傾向があります。他部署や全社の最適化に関心がなく、長期的な視野を持たないため、事なかれ主義でリスク管理ができないことが多いでしょう。
現状維持が最優先でチャレンジ精神がない
現状維持が最優先であるため、今までのやり方にこだわる傾向があります。
出る杭は打たれるため、新しいことを提案しようものなら、できない理由を並べられてしまう可能性があります。
また、失敗を許容する風土がないために、上司も部下の責任を取りたがりません。優秀な社員が能力を発揮するチャンスがないことから、能力のある人材の流出が起こる一方で、受け身な姿勢の社員がいつまでも残るという構図が生まれる危険性があります。
形式的な業務が多く意思決定が遅い
形式主義であり、形だけの煩雑な稟議承認プロセスのために、意思決定までに時間がかかります。
社内向けの報告書が多い、報告だけの定例会議が多いなど、非効率で本質的ではない業務に時間をかけている傾向があります。
慣習やルールに囚われすぎて意思決定が遅すぎると、せっかくのビジネスチャンスを逃すおそれもあるでしょう。
常に上司や周りの顔色をきにする、意識が対クライアントへ向いていない
顧客よりも上司の顔色をうかがうなど、常に社内に意識が向いている社員が多い場合です。
上司がこのようなタイプであると、部下の意見やクライアントのニーズが上に届かないため、社員のモチベーションを著しく下げ、ゆくゆくはクライアントも離れていくと考えられます。
セクショナリズムの意識が強い
業務の分業化が進み、部署間の垣根が高い組織では、重要なテーマであっても自分の業務に関係がない場合には他部署とコミュニケーションをとらない傾向があります。
各部署の利害関係が優先されるので、部門横断業務に支障が出るだけでなく、全社最適化の視点や顧客のニーズが後回しにされてしまいます。
部署間の交流がない組織では、会社で起こっていることが不透明になり、業務の非効率化やコンプライアンス違反などに気づかないという問題も引き起こす可能性があるでしょう。
大企業病を治す方法はあるのか
大企業病が進行すると組織の閉塞感が増し、不祥事や市場の変化により一気に倒産に追い込まれる可能性もあります。
大企業病の予防と治療にはどのような方法があるのでしょうか。
経営者と管理職の意識改革
派閥闘争や社内政治など内向きの意識を外に向けるには、経営陣の強いリーダーシップと管理職の意識改革が欠かせません。
経営陣は「顧客は誰か」を常に考え、社内論理ではなく顧客ニーズに集中することが重要です。
部下への権限移譲を促進する、意見を出し合える場を提供するなど、風通しの良い職場環境を作るのも管理職の役目です。
古い体質を変えることは非常に難しいので、必要に応じて経営陣を一新することも検討するべきでしょう。
人事制度や採用基準の革新
会社が求める社員像や組織文化を明確にすることが重要です。
大企業病の自覚症状がある組織においては「部署間の協力体制を強化する」「新規プロジェクトを増やす」「定例会議の数を減らす」など、大企業病を克服するための具体的な会社の方針を明らかにして、その項目を人事評価制度に盛り込むなどを経て従業員に会社のバリュー(価値観)を浸透させる工夫をします。
また、ダイバーシティを重視した採用を行うなど、既存の価値観にとらわれずに、新しい風を吹き込むような採用を行うこともひとつの手でしょう。
社内コミュニケーションの活性化
他部署がどんな業務をしているか分からなければ、お互いに協力したり相談したりすることもできません。社内のコミュニケーションを促すことで、社内の人的ネットワークを広げ、困った時に気軽に相談できる社内の顔見知りを増やすことが重要です。
経営陣と人事部門が主導で社内イベントを企画する、社内SNSやブログを開設するなど、社員がもっと会社や他部門に関心を持てるような環境を作るといいでしょう。
まとめ
大企業病を放置しておくと、組織の活気が失われて事業が停滞化するだけでなく、市場の変化や景気変動などの変化についていけずに企業の競争力を失ってしまうおそれがあります。
優秀な人材を引き留め、能力を発揮してもらうためにも、大企業病の原因である企業体質を改善して、社員が活き活きと働けるような組織文化の形成に努めるべきでしょう。
人事部門は経営陣と共に社内コミュニケーション活性化の施策実行に取り組み、人事制度改革など制度の充実を図る一方で、規則で縛りすぎないように、社員の個性を伸ばすような人材育成計画を練ることも大切です。
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