離職率とは?日本企業の平均と離職率が高い原因、改善方法を解説
離職率が高くなると、採用活動に余計なコストがかかるだけでなく、企業イメージが低下するといったデメリットもあります。
競合他社に優秀な人材を取られないためにも、採用活動では企業の離職率改善が重要です。
そこでこの記事では、離職率とは何かを確認するとともに、離職率が高い企業の特徴や離職率を下げるための改善方法について詳しく解説します。
目次
離職率とは
離職率とは、ある時点で働いていた社員のうち、一定期間後にどれだけの割合が離職したのかを示す指標のことです。「退職率」という言葉が使われることもありますが、退職率と離職率の意味に違いはありません。
離職率の計算方法は「100-定着率(入社した人数-退職した人数)÷入社した人数×100」で示されます。
法律で定義されていないものの、一般的には「離職者数÷ある時点での従業員数×100(%)」で表されます。
多くの企業では、期初から期末までの1年間で算出しますが、対象とする社員の条件を「新卒者」や「入社後3年」などと決めることで、目的にあわせた離職率の算出が可能です。
離職率は、企業が持つ魅力や働きやすさなどを示す指針となるため、人事担当者にとっては重要な業績評価指標(KPI)となります。
離職率と定着率の違い
定着率とは、入社後に一定期間離職せずに残っている社員の割合を示すもので、離職率の対となる言葉です。
定着率を算出する一般的な計算式はありませんが、例えばある年に100名が入社し、3年後に80名が残っている場合、定着率は80%ということになります。
定着率は離職率とあわせて、自社の社員の動向を確認するための指標となります。
日本企業における離職率の平均
令和4年の常用労働者の動き
調査年度 |
離職率 |
2018年 |
14.6% |
2019年 |
15.6% |
2020年 |
14.2% |
2021年 |
13.9% |
2022年 |
15.0% |
厚生労働省の調査によると、過去5年間で14〜15%の労働者が何らかの理由で離職していることがわかります。
新規学卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率
事業所規模 |
高校 |
大学 |
5人未満 |
60.5% |
55.9% |
5~29人 |
51.7% |
48.8% |
30~99人 |
43.4% |
39.4% |
100~499人 |
35.1% |
31.8% |
500~999人 |
30.1% |
29.6% |
1,000人以上 |
24.9% |
25.3% |
参照 : 新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します
また、データの対象を「新卒者」でみてみると、事業所規模が5人未満の会社に就職した新卒者の離職率が最も高く、100人以上の規模であっても平均すると約30%と高い離職率であることがわかります。
離職率が注目される背景
離職率が注目される背景には、雇用環境の変化や転職事情が関係しています。ここでは、海外と比較しながら、以下の2つについて解説します。
・日本と世界の転職回数と勤続年数の比較
・近年の日本国内の転職動向
日本と世界の転職回数と勤続年数の比較
日本では従来「終身雇用」が基本となっており、勤続年数が長いほど評価が高く、転職が多い人材の採用を避ける傾向にありました。
一方、海外においては勤続年数が短いことは珍しくはなく、中でもアメリカではその傾向が顕著です。なぜならアメリカでは、「転職はキャリアアップのために必要」という考えが強く、転職回数が多くとも前向きに評価されやすい傾向にあります。
独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2023」によると、日本の勤続年数が12. 3年であるのに対し、アメリカは4.1年と日本の3分の1程度です。
アメリカの勤続年数から考えると、20歳から65歳まで働くと仮定して、10回程度は転職していることになります。
近年の日本国内の転職動向
日本でも、近年は「終身雇用」という考え方が変わりつつあります。
社会が多様化し日々変化を続けている中、転職回数が多くとも、実力のある人材を積極的に採用する企業が増えているのです。
また、働き手側も、より良い条件を求めて積極的に転職を行うようになりつつあることから、待遇や職場環境などに懸念がある企業は、今後ますます離職率が高くなっていく可能性があるでしょう。
企業が優秀な人材を確保しておくためには、待遇や福利厚生などを充実させ、離職率を下げる対策が求められます。
離職率が平均より高い業界ランキング
続いて、離職率が平均より高い業界についてみていきましょう。前述した厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果」をもとに、1位から3位を紹介します。
1位. 宿泊業、飲食サービス業
2022年の業種別離職率の中で、最も離職率が高かったのは「宿泊業・飲食サービス業」の26.8%でした。
宿泊業・飲食サービス業は土日祝日も勤務することが多く、長時間労働が増える傾向にあります。
また、厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査の概況」によると、年次有給休暇の取得率が49.1%と全業種の中で最も低いです。休みが取りづらい環境にあることも、離職率に影響している可能性があるでしょう。
2位. サービス業(他に分類されないもの)
次に、離職率が高い業種は「サービス業(他に分類されないもの)」となっており、19.4%という数字です。
具体的な業種としては、自動車整備業、機械等修理業、廃棄物処理業、職業紹介・労働者派遣業などが該当します。
これらの業種は、長時間労働になりやすく平均賃金も低い傾向にあることから、離職率が高くなっていると考えられます。
3位. 生活関連サービス業、娯楽業
離職率が高い業種の3位は「生活関連サービス業・娯楽業」で、18.7%です。
具体的な業種としては、洗濯・理容・美容・浴場業、旅行業、家事サービス業などが該当します。
これらの業種は、宿泊業・飲酒サービス業と同様に土日祝日に仕事をするケースが多く、長時間労働になりやすい傾向もあります。
また、接客が必要な業種が多いため、顧客からのクレーム対応などで精神面に負荷がかかり、離職につながるケースもみられます。
離職率が平均より低い業界ランキング
ここからは、前項と同様のデータをもとに、離職率が平均より低い業界を紹介します。
1位.鉱業、採石業、砂利採取業
離職率が最も低い業種は「鉱業、採石業、砂利採取業」で6.3%です。
具体的には、天然ガスや石炭、金属、鉄、鉱物などを取り扱う業種となりますが、入職する人数自体が少ないことが影響し、離職率が低くなっていると考えられます。
2位. 金融業、保険業
次に、離職率が低い業種は「金融業、保険業」で、8.3%です。銀行や保険会社、証券会社、クレジットカード会社などが該当します。
金融業、保険業は比較的高収入である点や、待遇の良さなどが影響することから、定着率が高く離職率が低くなっているといえます。
3位. 学術研究、専門・技術サービス業
離職率が低い業種の3位は「学術研究、専門・技術サービス業」で、10.0%でした。
具体的には「主として学術的研究を行う事業所」「個人または事業所に対して専門的な知識や技術を提供する事業所」などが該当します。
例えば、試験・開発研究所や法律事務所、税理士事務所など、専門的な技術や知識が必要となる仕事です。これらの業種で働ける人は限られていますし、年収の高さなども関係することが理由として考えられるでしょう。
離職率が高い原因と職場の特徴
離職率が高い場合は職場に何らかの原因があり、多くの従業員が働きにくいと感じている可能性があります。ここからは、離職率が高い原因と職場の特徴をみていきましょう。
待遇や評価に不満がある
離職率が高くなる原因の一つとして、待遇や評価に対する不満があります。例えば、評価基準や評価制度が不透明な場合、努力が待遇や評価に反映されず空回りの状態となってしまうからです。
ほかにも、休日の少なさや有給休暇の取得の難しさなども、従業員が不満を持つ原因として多くあげられます。
昨今は、休暇取得を積極的にすすめる企業がある一方で、実際には取得できる状況にない労働環境に身を置いている人もおり、このようなケースでは離職につながりやすいです。
労働時間が長くなるほど社員には心身ともに大きな負荷がかかってしまうため、人手不足により適切な労務管理が行われていない企業の特徴でもあります。
コミュニケーションが取りづらい
社内のコミュニケーション不足も、業務の円滑な進行や質の低下を招き、離職の原因となり得ます。
上司に対して意見を言いづらい、仕事や人間関係などで困ったことを相談しづらいといった労働環境では、誤解や不信、不満といったネガティブな感情が生じやすくなるからです。
従業員がネガティブな感情を抱いてしまうと、仕事へのモチベーションが下がり離職につながってしまいます。
ハラスメントが横行している
昔と今では、ハラスメントに対する世間の認識が変わり、ハラスメントへの監視が厳しくなっています。しかしながら、依然として職場でのハラスメントは存在しているのが実情です。
上司からの理不尽な要求や圧力、女性に対するハラスメントなどがある場合、直接の被害者ではなくとも、職場の雰囲気が悪くなるケースが多くみられます。また、将来的に自分が被害者となるおそれを感じ、離職者が増えるケースもあります。
ハラスメントが横行する職場は、優秀な人材が定着しないばかりか、企業の信用失墜のリスクも抱えていることを認識する必要があります。
企業の業績が不安定
企業の業績が安定しないことも、従業員の離職の原因になり得ます。
業績の低迷が続くと、従業員の給与やボーナスがカットされるなど、従業員に直接影響が出てしまう場合があるからです。
先行きのみえない状況が続くと従業員の間で不安感や不信感が募り、離職率は大きく上昇してしまいます。
離職率が低い原因と職場の特徴
離職率が低い職場は、離職率が高い職場とは対照的です。ここでは、離職率が低い原因と職場の特徴を解説します。
残業が少なく労働環境が良い
残業が少なく労働環境が整っている職場、いわゆる「ワークライフバランスが取れている」職場は、離職率を低く抑えられる傾向にあります。
完全週休二日制はもちろん、有給休暇やお盆、正月休みなど、年間の休日日数が多く残業時間も少ないといったことがあげられます。
ワークライフバランスが取れた職場は、仕事の疲れがたまりにくく、プライベートも充実できるなど、前向きに仕事に向きあえる環境が整っているといえるでしょう。
評価制度が明確で公平
昇給や昇進における人事評価基準が明確であることも、離職率に影響します。
評価制度が明確であれば、従業員一人一人が組織における自分の役割を理解し、能力を発揮しやすくなるからです。
また、従業員の能力向上が給与面に正しく反映されると、従業員のモチベーションアップにもつながり、優秀な人材を組織に定着させる効果にも期待できます。
良好な人間関係を築けている
職場に不満を感じない要因の一つとして、人間関係の良さがあげられます。
良好な人間関係を築けていれば、社員同士のコミュニケーションが取りやすくなり、同時に仕事もしやすくなるからです。
また、情報共有が円滑に行われることで作業の行き違いなどが発生しづらく、作業効率が上がる可能性もあります。
福利厚生が充実している
福利厚生が充実していることも、離職率が低い企業の特徴の一つです。
住宅補助をはじめとする各種手当や有給休暇、産休・育休制度などが整備されている企業は増えていますが、何よりも実際に従業員が利用しやすい環境が整っていることが大切です。
近年では、男性社員による育休取得実績を対外的に公表する企業も増えています。
また、社員食堂やカフェの導入、施設利用の優待割引などにより、従業員の満足度向上を図ることも離職率の低下につながるでしょう。
離職率が高いことによるデメリットやリスク
続いて、離職率が高いことによるデメリットやリスクを解説します。具体的には、以下の3つです。
・採用活動や教育・研修のコストが無駄になる
・既存社員の負担が増える
・企業イメージに悪影響が出る
採用活動や教育・研修のコストが無駄になる
採用活動では一般的に、求人広告への掲載費用や採用イベントの開催費用などがかかります。また、採用後の社員教育にもコストが発生するでしょう。
しかし、多くのコストをかけて採用した従業員が早期に離職してしまうと、費用が無駄になりかねません。
また、離職により空いたポジションを埋めるために再度採用活動をする必要もあり、追加でコストがかかってしまうという悪循環に陥ります。このような状況が常態化してしまうと、企業の収支にも影響をもたらします。
既存社員の負担が増える
採用した人材が定着せず、常に人手不足の状態の場合、必然的に既存社員の業務量が増えてしまいます。
採用してしばらくの間は、その組織における業務を既存社員が教えるOJT制度を採用している企業は少なくありません。教育期間中、既存社員は通常業務に加え、教育業務も加わるため大きな負担となります。
人材が定着すれば、既存社員の業務は軽減されますが、離職率が高い企業では人材が定着しないため、既存社員に大きな負担がかかり続けます。その結果、既存社員の不満が募り、離職の連鎖を招くおそれがあるのです。
企業イメージに悪影響が出る
近年は、企業の待遇や休暇取得率、あるいは離職率といった情報を事前に入手しやすくなっています。
そのため、求職者が同業他社と比較した際に、離職率の高さや待遇、福利厚生面で不安を感じてしまうと、マイナスのイメージを抱いてしまう可能性があるでしょう。
さらに、取引先など関連企業からも、離職率が高い企業は「組織の運営に問題がある」と判断されやすく、信用度が下がるおそれもあります。
離職率を下げるための改善方法
離職率を下げるためには、どのような取り組みが効果的なのでしょうか。ここでは、以下の4つを軸に離職率を下げるための改善方法を解説します。
・働く時間や働き方を見直す
・人事評価制度を見直す
・待遇や福利厚生を見直す
・人材育成に取り組む
働く時間や働き方を見直す
まずは、従業員の労働時間を見直す必要があります。所定労働時間や労働基準法に定められている労働時間を超過していないか、超過している場合はそれが一時的なものであって長期にわたって続いていないかを確認しましょう。
従業員が心身ともに健康でいられるよう、十分な休暇を取れる環境が整っているかも併せて確認することが大切です。
また、近年はライフスタイルが多様化しており、さまざまな働き方への対応が求められます。リモートワークやフレックス勤務制度といった、柔軟に働ける勤務体系を導入することで従業員に働きやすい環境を整備できるでしょう。
人事評価制度を見直す
人事評価制度を見直すことも、従業員のモチベーション向上に寄与します。
日頃から成果をあげ周りからも認められている従業員が、会社から正当な評価を受けられていない場合は、本人だけでなく周りの従業員のモチベーションも低下してしまうでしょう。
努力や成果に見合った評価、報酬が与えられているか、その基準が曖昧でわかりにくいものではないかをよく検討し、必要に応じて改善していく必要があります。
待遇や福利厚生を見直す
従業員のモチベーションを高めるには、福利厚生も含めた待遇面にも気を配る必要があります。
例えば、住宅補助制度や育児休暇制度に加え、短時間勤務制度の採用や、育児支援、レジャー施設などの利用割引、資格取得支援など、プラスアルファの待遇や福利厚生を整備することで離職率の低下につながります。
福利厚生を導入することが難しい場合は「福利厚生代行サービス」を利用する方法もあるため、併せて検討してみましょう。
人材育成に取り組む
人材育成制度の充実によって、離職率を下げることも可能です。
新入社員を対象とした研修制度や教育体制を整えることで、従業員の不安が解消し、モチベーションアップにもつながります。
また、新入社員だけでなく若手社員やリーダー職、マネージメント層など、さまざまな従業員の成長を促すための制度も充実させましょう。
社内での勉強会をはじめ、資格取得による奨励金、外部講座の受講費負担などの制度を提供することも効果的といえます。
離職率を下げるための福利厚生の促進はベネフィット・ワン
福利厚生の整備にあたっての課題は多く、対応したとしてもすぐに効果が表れるものではないため、その後の効果測定が難しいとされています。
福利厚生の導入でお悩みの方は、ぜひベネフィット・ワンにご相談ください。ベネフィット・ワンでは、多くの実績データをもとに課題解決に向けたアプローチを提案しています。
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