福利厚生で定着率を上げる!見直すポイントと取り組み事例を紹介
社員の定着率の向上は、人材流出を防ぐために重要な経営戦略の一つです。少子高齢化の影響により、新しい人材を確保することが難しい昨今において、定着率向上のための対策は急務といえるでしょう。
そこでこの記事では、定着率が低下する原因や人材定着のためには何が必要か、さらには定着率を高めるメリットを解説します。
また、福利厚生を見直す際のポイントや、定着率の向上に取り組む企業の事例もあわせて紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
定着率とは
定着率とは、入社した従業員が一定期間を経た後、どれくらい会社に残ったのかを示す割合のことです。一般的に、定着率は以下の計算方法で算出します。
(入社した人数-退職した人数)÷入社した人数×100=定着率(%)
例えば、4月に入社した30人のうち、翌年の3月までに6人が退職した場合、定着率は「(30-6)÷30×100」で80%です。
定着率と離職率の違い
離職率とは、従業員が入社してから一定期間を経た後、どれくらい退職したのかを示す割合です。
定着率とは対になる関係にあるため、定着率が下がれば離職率が上がり、反対に定着率が上がれば離職率は下がります。
また、定着率と離職率を合計すると100%になるので、定着率が80%だった場合の離職率は20%です。
定着率の低い会社は、離職率の高い会社でもあるため、ネガティブなイメージを抱かれやすく求職者から敬遠されやすい傾向にあります。
日本における定着率の動向
厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると、事業所内の社員全体の離職率は全職業平均で13.9%、つまり定着率は86.1%であり、過去15年の調査期間において最も低い数値でした。
2018年の離職率が14.6%、2016年の離職率が15.0%ということを踏まえると、日本の定着率は年々微増傾向にあるといえるでしょう。
定着率が低下する原因
定着率が低下する原因として、主に以下の3つがあげられます。次項で詳しくみていきましょう。
・従業員が人間関係やストレスに耐えられない
・従業員の給与や待遇が適切でない
・企業や業界の将来性に不安がある
従業員が人間関係やストレスに耐えられない
転職理由として多くあげられるものの一つに、職場の人間関係に対する不満があります。「上司が威圧的な態度で接してくる」「同僚が仕事を無理やり押し付けてくる」などの理由で、従業員がストレスを感じるといったケースです。
また、ストレスを感じる原因としてほかに、職務内容とのミスマッチや仕事がハードすぎるといったことなどもあげられます。
企業は、社内の人間関係に関心を持ちつつ、従業員一人一人がどのようなストレスに弱いのかを把握することが大切です。
従業員の給与や待遇が適切でない
給与や職場での待遇も従業員の離職につながりやすい項目です。「競合他社に比べ給与が低い」「時間外労働分の残業代が出ない」など、給与に対して不満を持つようになると、転職を考える従業員も多くなるでしょう。
また、評価制度に対する不満も定着率が下がる原因の一つです。従業員が「適切に能力を評価されている」と感じるような制度であれば、定着率の低下は避けられるはずです。
企業や業界の将来性に不安がある
従業員は、企業や業界の将来性について敏感になるものです。したがって、新しい事業へ挑む姿勢をみせる、あるいは従業員に会社の将来性を感じてもらいやすい環境作りが大切です。
また、成長意欲の高い従業員の場合、成長できる機会が少ないと感じたり、会社の将来性に不安があったりすると離職を考えるようになります。そのため、新しいことにチャレンジできたり、資格取得のサポートを実施するといったキャリアアップにつながる機会を積極的に設けることも大切といえるでしょう。
福利厚生による定着率向上は法定外福利厚生が鍵
福利厚生の種別 |
具体的な制度 |
法定福利厚生 |
・健康保険 ・厚生年金 ・介護保険 ・雇用保険 ・労災保険 など |
法定外福利厚生 |
・住宅に関する福利厚生 ・子育てや介護に関する福利厚生 ・働き方に関する福利厚生 ・健康に関する福利厚生 ・余暇やレクリエーションに関する福利厚生 など |
福利厚生とは、給与・賞与などの基本的な労働対価とは別に、従業員とその家族に提供する報酬やサービスのことです。
種類として2つあるうち、法定福利厚生は法律によって導入が義務付けられているものであり、法定外福利厚生は企業が自由に決められるものを指します。
法定外福利厚生の導入には少なからずコストが発生することから、導入をためらう企業は少なくありません。
しかし、福利厚生は、従業員の経済的保障を充実させることで、会社への貢献度や勤労意欲を高め、生産性の向上を図ることにもつながります。他社との差別化を図る意味でも、法定外福利厚生の導入が鍵となるでしょう。
定着率を上げるための方法
続いて、定着率を上げるための方法についてみていきましょう。具体的には、以下の3つがあります。
・待遇や福利厚生を見直す
・ミスマッチを防ぎ、キャリア形成をサポートする
・企業理念や経営計画を社員に伝える
待遇や福利厚生を見直す
待遇や福利厚生を見直す際は、社員の意見に耳を傾けることを重視しましょう。なぜなら、会社が独断で見直しをしても、必ずしも従業員が満足する内容であるとは限らないためです。
また、社員の意見を参考にしながら満足度がどの程度上昇したのか、効果検証もしっかりと行う必要があります。
仕事もプライベートも充実する環境をサポートするためには、業務効率の見直しのほか、残業や休日勤務を減らす努力も必要です。
ミスマッチを防ぎ、キャリア形成をサポートする
職場や仕事内容とのミスマッチを理由に離職するケースも少なくありません。そのため、採用においてはミスマッチを減らすことも重要です。
自社が求める人物像を明確にし、採用面接では求職者が自社にあった人材なのかを見極めるためのアプローチを行いましょう。
また、入社してからも従業員が「自分のキャリアプランに合致していない」と感じることのないよう、定期的なヒアリングやサポートも大切なポイントです。
企業理念や経営計画を社員に伝える
企業理念や経営計画を社員に伝えることで、従業員は会社の方向性を理解でき、認識のずれを減らしやすくなります。
目標が明確であるほどアイデアや意見を出しやすくなり、コミュニケーションの活発化にも期待できるでしょう。
社員同士の交流が深まれば、会社への愛着が湧いて定着率が上がるだけではなく、生産効率の向上にも期待できます。
定着率を高めるメリット
定着率を高めることで得られるメリットは、人材の流出を防ぐだけではありません。ここでは、以下の2つについて詳しく解説します。
・企業の業績向上や従業員のモチベーション向上につながる
・採用コストや教育コストを抑えられる
企業の業績向上や従業員のモチベーション向上につながる
定着率が向上し、経験年数の長い従業員が増えれば熟練度が増し、生産性も向上します。その結果、企業全体の業績向上につながるでしょう。
また、定着率の高い会社であれば「働きやすい会社」「社内の居心地が良い会社」というイメージももたれやすくなるでしょう。
社外から優秀な人材が集まってくる可能性が高まり、さらなる業績向上にも期待ができます。
採用コストや教育コストを抑えられる
従業員の採用は、一般的に求人情報誌への掲載や転職エージェントの活用などコストがかかるものです。
しかし、定着率が高ければ、人材の入れ替わりが少ないため、その分のコストがかかりません。
新人研修のコストも削減できるため、人事や教育担当者の負担を減らしたい会社にとっても非常に効果的です。
福利厚生や制度の見直しにより定着率向上を成功させた企業の取り組み事例
ここからは、福利厚生や制度の見直しにより定着率向上を成功させた企業の取り組み事例を5つ紹介します。
サイボウズ株式会社
サイボウズは、「100人いれば100通りの働き方を追求する」という考えのもと、人事制度の見直しを実施しています。平等よりも公平を重視し、徹底して社員の声を拾い上げて社員人事制度を作り上げました。
個人が自由に勤務時間や勤務場所を選べる「働き方宣言」や、一時的に働き方宣言とは違った働き方ができる「ウルトラワーク」は、一般的なリモートワークとは一線を画す取り組みです。
また、子育て社員のために充実した育児支援制度にも着手し、子どもの預け先がない場合の緊急的な受け皿として、子連れ出勤制度を創設しました。
そのほかにも多様な働き方に対応したさまざまな人事制度を導入したことにより、一時は28%もあった離職率を4%まで改善 させることに成功しています。
株式会社鳥貴族
創業時から働きやすい職場作りに取り組んできた鳥貴族は、外食産業の「当たりまえ」を細かいルールや制度の見直しにより改善し、離職率を下げています。
例えば、長時間労働が日常化しないよう、時間外労働の規制を強化した取り組みを行っており、休日出勤を禁止するだけでなく、サービス残業も一切禁止としています。
また、「トリキウェイ」という価値観のもと、トップダウンによる指示を行わず、働きやすい環境を実現し、定着率の改善に成功しました。
ユーソナー株式会社
ユーソナーは、「みんなが親孝行できる会社」をビジョンに掲げ、充実した制度や福利厚生に取り組んでいる企業です。
親孝行には「時間の余裕」「お金の余裕」「心の余裕」が必要と考え、社員に3つの余裕を与えることを制度設計の指針としています。
具体的には、長期の夏季休暇取得や自由シフト制による「時間の余裕」、無料のランチ支給や書籍購入補助による「お金の余裕」、社外カウンセラーへの相談体制を整えることによる「心の余裕」などがあります。
ほかにも、若手社員の食生活が乱れがちなことに着目し、健康面を理由とした退職を減らすため「社内サラダバー」「予防接種や健康診断、人間ドックにかかる費用全額負担」などを福利厚生として導入しました。
株式会社レオパレス21
レオパレス21は、研修制度の導入により離職率を約15%から9%弱まで改善しています。
以前は研修にコストをかけず、社員教育は現場に任せていましたが、社員アンケートの結果から社員教育に対する欲求が高いことがわかったのです。
そこで、管理職研修や営業力強化研修、組織マネジメントといったさまざまな研修を導入しました。
その中でも管理職研修は、研修によって管理職のマネジメント能力が向上した結果、部下である若手社員の定着率の向上に結びつき高い効果を得ています。
ドリームビジョン株式会社
SES事業を中心にIT関連事業を展開するドリームビジョンは、2015年に「日本で一番エンジニアに優しい会社」をコーポレートビジョンに掲げ、充実した福利厚生制度の創設や新たなスキルアップ制度を取り入れてきました。
具体的には、食事補助や書籍購入補助、アニバーサリー休暇と手当、懇親会補助制度やEAP制度など、26もの制度を導入しています。
その結果、2022年3月には「ハタラクエール2022」において、ドリームビジョンの従業員の幸福を追求する取り組みが評価され、優良福利厚生法人(福利厚生への熱意部門)として表彰されています。
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