福利厚生

「インフレ手当」とは?導入企業・金額相場と代替案【事例アリ】

インフレ手当を支給するべきか迷っている担当者

インフレ手当とは

インフレ手当とは、従業員の生活を支援することを目的として、企業が従業員に支給する特別手当です。

企業がインフレ手当の支給に踏み切った背景には、文字通り、国内において急激な物価上昇が進んだことで、従業員の生活に影響が出ている状況があります。

こうした状況に対応し、日常生活における従業員の負担を少しでも軽減するために、すでに多くの企業がインフレ手当の支給を始めており、今後もインフレ傾向が続くとの見方が強まる中、その取り組みに改めて注目が集まっています。

本記事ではインフレ手当の概要、メリットと注意点について解説します。

インフレ手当の支給パターン

すでにインフレ手当を支給している企業を見ると、そのパターンは大きく2つに分類することができます。ここでは、それぞれのパターンの特徴について解説していきます。

一時金による支給

毎月支給される給与以外に、給与への一時的な上乗せまたは賞与に上乗せすることで、手当を支給する方法です。既存の給与や賞与の支給手続きと合わせて行うことで、事務処理の手間が増えないメリットがある一方、一時的な支出が大きくなることで企業のキャッシュフローが悪化してしまうおそれもあるため、注意が必要です。

月額手当による支給

毎月の給与に一定額を上乗せして支給する方法です。一時金による支給と比べて、一度にまとまった金額を支払う必要がないため、手当を支払う企業にとってはキャッシュフロー面で負担になりにくいといえます。しかし、実質的な給与改定と見なされるため、就業規則のうち「賃金の決定、計算に関する事項」を改定する必要があるなど、手続き面での負担が多いというデメリットもあります。

【無料DL】インフレ手当とは

インフレや物価高が叫ばれるなか、インフレ手当を支給する企業が増えています。
インフレ手当とは何か、また現金の支給以外でもできる従業員の生活をサポートする方法をまとめています。

採用力・定着率アップにつながるサービスのご紹介も記載しております。

インフレ手当についての解説    
・現金以外のインフレ手当について

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インフレ手当を支給した企業とその相場

インフレ手当を支給している主な会社と、全国の相場をご紹介します。

インフレ手当を支給した主な企業

インフレ手当を支給した主な企業とその支給額は以下のとおりです。

  • 三菱自動車工業株式会社…一時金(正社員:3万円/非正規従業員:7万円)
  • ヤマハ発動機株式会社…一時金(一律5万円)
  • 三菱製鋼株式会社…一時金(一律5万円)
  • 三菱ガス化学株式会社…一時金(扶養家族数に応じて3~6万円)
  • 日本特殊陶業株式会社…一時金(正社員:5万円/契約社員・パートタイム社員:2万円)
  • YKK AP株式会社…一時金(一律5万円)
  • サイボウズ株式会社…一時金(労働時間に応じて6~10万円)
  • 株式会社すかいらーくホールディングス…一時金(正社員:子どもの数に応じて5~12万円/パートタイム社員(社会保険加入):1万円)
  • ケンミン食品株式会社…一時金(勤続1年以上:5万円/勤続1年未満:在籍日数に応じて1~3万円)
  • 大東建託株式会社…一時金(2023年3月31日までに入社:10万円/2023年4月1日以降に入社および時給者:1万円)
  • ダイコク電機株式会社…一時金(正社員:3万円/契約社員・パートタイム社員:1万5,000円)
  • 株式会社ノジマ…月例手当(1万円)
  • 株式会社コロプラ…月例手当(1万円)
  • オリコン株式会社…月例手当(1万円)
  • 株式会社イートアンドホールディングス…月例手当(8,000円)

※参照:
キノシタ社会保険労務士事務所「インフレ手当」
https://www.kisoku.jp/jouhou/inflation.html
株式会社エフアンドエム 中小企業総合研究所「中小企業の冬季賞与及びインフレ手当に関する実態調査」(2023年2月)
https://www.fmltd.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/02/20230226.pdf#page=6

インフレ手当の平均支給額

インフレ手当の支給額については、(株)帝国データバンクが「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」の調査結果を2022年11月に公表しています。

この調査結果によると、インフレ手当を一時金として支給している企業における平均支給額は、5万3,700円。内訳をみると、「1万円~3万円未満」が27.9%で最も多い結果となっています。

これに対し、月額手当として支給している企業では、平均支給額は6,500円でした。内訳をみると、「3千円~5千円未満」と「5千円~1万円未満」が同率で最も多い結果となっています。

なお、同調査ではインフレ手当の支給状況についてのアンケート結果も含まれており、従業員に対してインフレ手当を「支給した」「支給を予定している」「支給を検討している」と回答した企業は全体の26.4%で、全体の4社に1社がインフレ手当に前向きという実態が見えます。

※参照:株式会社帝国データバンク「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」(2022年11月)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/ltgj1cyg_v8/

【プロが解説】インフレ手当は支給すべき?リスクはある?

インフレ手当への注目が高まる中、自社でも支給すべきなのか悩む経営者や人事担当者の方もいるでしょう。
そこで、インフレ手当の意義やリスクについて、日本における福利厚生研究の第一人者である山梨大学名誉教授・福利厚生戦略研究所代表の西久保浩二氏にお伺いしました。

プロフィール
西久保 浩二(にしくぼ こうじ)氏
1958年大阪府生まれ。神戸大学卒業後に大手生命保険会社での勤務を経て生命保険文化センター主席研究員を務める傍ら、筑波大学大学院修士・博士課程を修了。博士課程単位取得後には東京大学客員准教授などを経て2007年山梨大学教授就任、2024年名誉教授。現在は福利厚生戦略研究所代表を兼務。 「国家公務員の福利厚生のあり方に関する研究会(総務省)」座長、「福利厚生表彰・認証制度」審査委員長など多数の公職・関連部会委員を歴任。現在、「ワーキングケアラーに関する研究会」(内閣府)委員。『戦略的福利厚生の進化』、『わが国の福利厚生の導入と利用の実態とその諸要因、そして有効性の検証』などの著書がある。

インフレ手当の効果は一時的かつ一過的

インタビュアー(以下、「イ」):インフレ手当という言葉がよく聞かれるようになりましたが、施策としての評価はいかがでしょうか。

西久保浩二氏(以下、「西久保氏」):インフレ手当は今流行の手当てといわれていますが、支給した企業は1割程度、支給を考えている企業も合わせると3割弱くらいとなっています。物価高騰に困っている社員に一過性の手当を出すべきなのかどうかについては、多くの企業が慎重派というところですね。
インフレ手当は福利厚生としての支給手当の一種なので、企業側の意思で停止することも比較的容易です。例えば、就業規則に「物価水準2%上昇の際のみインフレ手当を支払う」と定めていれば、1.5%になると支給停止できるのです。
インフレ手当は一時的に本当に生活に困っている社員を救済するという意味では有効ですが、継続的な恩恵のあるベアのほうが従業員にとっては良い施策といえます。

インフレ手当には法的縛りが発生する

イ:インフレ対策として手当を支給する場合、注意すべきポイントはありますか?

西久保氏:インフレ手当は賃金扱いになります。賃金には賃金支払い5原則(※)をはじめとした法的縛りが多くあり、適当に払うことはできません。「公的な政府発表の物価上昇率2%を超えたら支給する」などの規程を作り、就業規則に明記しなければなりません。これを絶対的記載事項といいます。また、従業員には税金・社会保険料の負担増ともなります。
このような点も理解したうえで、よく考えて設計することが必要です。また、不利益変更ができなくなることにも注意しなければなりません。

※賃金支払い5原則…通貨で・直接・全額を・毎月1回以上・一定の期日を定めて支払われなければならないという労働基準法第24条の規定

参照:厚生労働省「労働基準行政全般に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei05.html

インフレによる課題を解消できるなら、方法は手当に限らない

イ:現金以外の手段でインフレ手当の代わりとするならば、どのような手段が有効だとお考えですか?

西久保氏:手当は一時的には社員に喜ばれますが、当然ながらベアのほうが有益なので、導入については何を狙って実施するのかを社員とよく議論する必要があるでしょう。ほかにも代替策は数多くあります。

イ:今ならお米5㎏でも話題になりそうですね。(取材時期は2025年5月)

西久保氏:コストは安いがインパクトがありますね。手当ではありませんが、ガソリン半額、割引、健康、学習などが選べる福利厚生サービスも代替策として有効です。社員がどうしても毎月払わなければならないものを安く手に入れられるからです。

イ:衣食住にまつわるものを福利厚生として優先的に提供すれば、直接のインフレ手当でなくても従業員の満足度を上げられるかもしれないということですね。

西久保氏:そうです。福利厚生はその内容や支給方法で条件を満たす限り給与課税されないため、社員にとってはきちんと計算すると安心できるメリットになります。ただ、「福利厚生の生計費支援のような衣食住に対する施策は、物価高に大きなメリットがある」と説明しないと、従業員の多くが十分に理解していないかもしれませんね。
福利厚生を賢く活用すれば、今の物価高に対して生活に本当に役立つ支援ができる。これを社員に理解してもらうことが重要です。

イ:結局、インフレ手当で収入が増えると税金も増える。そう考えると、福利厚生のほうがありがたい制度なのかもしれませんね。

西久保氏:ベアで額面賃金が上がれば、控除額や社会保険料も比例して上がってしまう。生活にとって必需性の高い福利厚生は、総合的に考えると現金で貰うよりメリットが大きいと思います。
昨今では人手不足もあり「給料を上げる」という流れになっていますが、上げる側も受け取る側も最善策がそれしかないわけではありません。福利厚生やほかの給付、働きやすさも含め、「だけ」に固執することのリスクもよく考え、労使ともにwin-winになる方法をクレバーに比較検討することが大切です。

インフレ手当を支給する3つのメリット

企業にとって従業員にインフレ手当を支給するメリットは少なくありません。ここでは、そのうち主な3つのメリットを解説していきます。

メリット1 従業員満足度の向上

企業の労働生産性を上げ、業績向上につながる指標として、従業員満足度の重要性は近年ますます高まっています。そんな従業員満足度を向上するためには、従業員の不満・不安に寄り添うことが欠かせません。

その点、インフレという世情に対して、企業が従業員のサポートを行うという意思を見せることのできるインフレ手当は、従業員満足度向上につながりやすいと言えるでしょう。

メリット2 採用強化・離職率の軽減

少子高齢化により生産年齢人口の減少の続く中、多くの企業は人材確保という課題に直面しています。インフレ手当は、こうした課題を解消する取り組みとしても効果を発揮します。

前述したように、インフレ手当の支給により従業員満足度が向上すれば、離職率の軽減につながることが期待されます。また、そのような取り組みを実施していることを求人の際にPRすることで応募数増につなげるなど、採用力の強化も期待できます。

メリット3 企業のイメージアップ

このところ、消費者が購買行動をする際の判断基準として、商品やサービスの機能や性能はもちろん、企業の信頼性を重視する傾向が加速しており、企業にとってイメージ戦略の重要性が高まっています。

従業員の不安に寄り添う取り組みとしてインフレ手当を実施しているということが消費者の目に触れれば、採用面だけでなく、企業全体のイメージとしてもプラスになるでしょう。最近では、SNSを通じて企業が行う取り組み情報を広めやすくなっているため、そうしたツールを活用することで、さらなるイメージアップを図ることも可能です。

インフレ手当の注意点とは

ここまで、インフレ手当の概要やメリットについて紹介してきました。一方で、インフレ手当の支給時には注意しておきたいポイントもあります。ここでは、主な3つの注意点を解説していきます。

税金や社会保険の負担が増える

一時金または月額で支給する場合のいずれも、現金でのインフレ手当の支給は、従業員の給与所得および社会保険の報酬として見なされます。そのため、支給する金額によっては、税金や社会保険料の負担が従来よりも高まってしまう可能性があります。

そのため、企業の中には、現金支給以外の方法によるインフレ手当を導入しているケースもあります。具体的には、福利厚生で受けられるサービスを拡充するといった手法が挙げられます。

支給方法によって、就業規則を変更する必要がある

インフレ手当を月額手当として支給する場合、また、一時金であっても既存の賞与とは別の名目で支給する場合には、就業規則のうち「賃金の決定、計算に関する事項」を改定する必要があります。

そして、就業規則を変更する際には、所轄の労働基準監督署への届出、労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見書の作成などが必要です。そのため、よりスピード感を持ってインフレ手当の支給を検討している場合には、一時金として賞与に上乗せするか、前述したように福利厚生の拡充といった取り組みを採用することがおすすめです。

継続的な支給が必要となる可能性も踏まえておく

今後、インフレ傾向が長期化した場合には、一時的なインフレ手当の支援では従業員への経済的サポートの効果が十分でなく、継続的な支給が必要となる可能性があります。インフレ手当の支給額を決める際には、そうした可能性も踏まえておくことが大切です。

また、世情によっては、一度支給したインフレ手当を継続しないことが、従業員の企業への不信感につながってしまう可能性もあります。そうしたケースを避けるためにも、インフレ率などを参考に、自社のインフレ手当支給基準を明確にしておくと良いでしょう。

インフレ手当の代替案となる「福利厚生代行サービス」とは

インフレ手当は支給方法によって就業規則を変更する必要があるため、スピーディな対応が困難です。また、インフレ手当支給によるコストが経営を圧迫する可能性があるため、十分な注意が必要です。
こうした懸念を払しょくし、インフレ手当の代替案として有効なのが「福利厚生代行サービス」。就業規則や賃金制度の変更が不要で迅速に導入できるうえ、手当支給よりもコストを抑えられます。

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