株式会社ODKソリューションズ
インターネット関連サービス 101-500名- 課題
- ・入試シーズンや納期直前になると、休日や深夜作業などの長時間労働が多発。そのため、健康経営に着手。
・変形労働性を導入し、残業時間を減らしたことによる、残業代カットへの対策。
- 施策
- ・柔軟な働き方を実現するため、「変形労働時間制」、「シフト勤務制度」を導入。
・残業代カット対策のため、削減された分の残業代分を、社員に給料として間接的に3割を還元。
・残り7割を、年1回の定期健康診断時の追加オプションに。さらに冬の賞与時に、全一律15万円を支給。
・新制度を作る際には、社内で「働き方改革ユニット」を結成。
- 効果
- ・事前の説明により、「変形労働時間制」、「シフト勤務制」導入に対する社員からの反発は起こらなかった。
・その結果、全社合計で、年間4,000時間の時間外労働の削減を実現。
昨今、様々な場所で働き方改革が叫ばれる中で、自社の時間外労働はなるべく減らしていきたい、と考える企業は多くいるだろう。しかし、時間外労働は個々の企業における問題だけでなく、業界自体が持つ構造がそれを生み出してしまっているケースも少なくない。
特にIT業界のシステム開発を担当する企業は、改善に苦戦している。
そのような中、入試システムの開発を手がける株式会社ODKソリューションズは、ある施策を実行したことにより、年間で約4,000時間もの時間外労働を削減できたという。
今回は、同社代表取締役の西井生和氏に、その取り組み内容についてお話を伺った。
季節性が関係し、繁忙期には時間外労働が多くなっていた
ーー本日はよろしくお願いします。まずは御社の事業概要について教えてください。
西井生和氏(以下、西井):私たちは主に、大学入試におけるシステムの開発や運用(以下、教育関連サービス)を行なっているIT企業になります。
その他、教育分野以外にも、金融・医療という3つの分野においてITサービスを提供させていただいております。
ーー入試のシーズンになるとかなり忙しくなってくるのではないでしょうか。
ODKソリューションズ 代表取締役 西井生和氏
西井:まさにそのとおりで、収益のうち約6割ほどを教育関連サービスが占めておりますので、社員の大体6割くらいが同業務に携わっています。
そのため、社員の大半が入試シーズンに左右される、季節性の高い労働を担当しているということになります。
特に繁忙期には時間外労働が非常に多くなり、繁閑の差が顕著に見えるというような状況でした。
「変形労働時間制」と「シフト勤務制」を導入
ーーそうした状況のなか、どのような取り組みをされたのでしょうか。
西井:入試シーズンだけでなく、納期が近くなってきたり、開発したシステムに不具合が発生したりすると、どうしても休日や深夜までの作業が起きてしまいます。
もちろん弊社に限らずIT業界自体、非常に時間外労働が多いと言われている傾向にあります。我々としては社員の健康を守っていきながら、事業を発展させていきたいということがあり、健康経営を実現しようじゃないかということで、様々な取り組みをしております。
例えば、2017年10月から取り入れたのが、「変形労働時間制」と「シフト勤務制」という二つの制度です。
それは長時間労働を是正していかなければならないということで、「柔軟な働き方ができれば、きっと時間外労働が減るだろう」といった意図で導入を決めました。
しかし、その二つの制度を取り入れることによって、時間外労働は減る訳ですが、一方社員目線からすると、残業代が減るということにも繋がります。
もちろん会社としては、残業代を減らしたくてやっている訳ではなくて、社員の健康を守りたいんだ、ということを考えて制度を取り入れているので、別の施策を考えていく必要がありました。
新制度によって削減できた残業代を、社員に全て還元
ーー残業代カットの問題を解決するために、どういった施策を実行されたのでしょうか。
西井:先ほども言ったように残業を減らす目的は、残業代をカットすることではなく健康を維持してもらうことを意識したものであるため、削減できた分の残業代は社員に還元しよう、という還元策も併せて導入を行いました。
具体的には、削減できた残業代のうち3割については、間接的に返そうということになりました。
例えば、事業発展をする上で必要な研修の制度充実であるとか、人手が足りていない部署へのキャリア採用のためのコストであるとか、そういった部分で返そうと。
残りの7割については、直接的に社員に残業代を返そうということを決めました。
7割の中身としては2つありまして、まず第一ステップとして健康還元をしようと。1年に1回の定期健康診断の時に、オプションで色々な検査を受けられるようにしようというものです。
上限は5,000円ですが、それを全社員で実行したとしてもまだ削減できた残業代がある場合は、各人の賞与に上乗せされて還元される、という二つの還元方法を採用しています。
ちょうど昨年の冬の賞与の際に、初めて第一回の還元策を実行しまして、その時には大体15万円を全社員一律で還元しました。初年度で時間外労働が大きく減ったタイミングだったので、金額的には非常に大きな還元を行いました。
そしてこの春に初めて健康診断での還元を行う、といった状況です。
ーーその取り組みを開始した当初は、社員からの不満や反発などは起こりませんでしたか。
西井:元々、変形労働時間制とシフト勤務制を導入する際に、その時点で柔軟な働き方の設計と生産性の向上により残業代を削減できたら還元する、ということをあらかじめ社員に伝えておりましたので、特に反発などは起こりませんでした。
具体的な還元策については改めて説明する、としていたものの、「還元をするんだ」ということはきちんと説明が出来ていたので、クレーム等もなくすんなりと受け入れてもらったのではないかなと思います。
また同じタイミングでそれまで紙で管理していた勤怠を、システムで管理するようになったため、管理職の勤怠管理も楽になりましたし、各々が生産性というところにも目が向いて、非常に良かったのかなと思います。
ーー結果的には、年間でどのくらいの残業が減ったのでしょうか。
西井:全社合計すると、年間で約4,000時間の時間外労働が減ったという結果が出ています。
ですので、金額にすると結構大きかったので、去年の冬はそれなりに社員に還元できたのかなと思います。
もちろん先ほども言ったように、金額だけでなく社員の健康に資する還元をするということですので、健康診断の充実も行いました。
極端な話をすれば、1円でも前年より削減されれば、健康診断時のオプション代を会社が一部補助します、といった制度にしています。
流行に流されず、独自の制度を自ら考えていくことが大切
ーー新しい人事制度を作る上で、大切にしていることはありますか。
西井:我々がすごく意識していたのは、「制度は作って終わりではなく、使われなければ意味がない」ということです。
もちろん制度を設計する段階であらゆる可能性については検討しますが、誰にも使ってもらえなければ、それも無駄になってしまいますよね。
人事制度たるもの、全社員にとって公平に使えるものでなければいけないと思っています。
世の中には色々な制度があって、例えばIT企業では裁量労働制などが非常に流行っていると思いますが、そういった流行に流されないようにしよう、ということも非常に意識しました。
自分たちが独自で持っているビジネスモデルですとか、働き方という部分に目を向けないで安易に取り入れてしまうと、ミスマッチを起こしてしまうだろう考えたからです。
まずは自社内部に耳を傾けて、どういったものであれば最適な制度なのかを考えるという点は、非常に苦労したところですね。
ーー設計や構築は全部労務の方が担当されたのでしょうか。また、情報収集などはどのように行われたのでしょうか。
西井:制度を作るにあたっては、普段の業務とは別に、「働き方改革ユニット」というチームを新規で立ち上げまして、本当にイチから色々と検討をしてきました。
情報収集については、労働問題に関する外部セミナーに積極的に参加したり、本やインターネットなどあらゆるところから情報を集めて、自分たちのビジネスモデルに合った柔軟な働き方とはどのようなものができるのか、というところから出発したという感じですね。
変形労働時間制を例にとると、世の中には1ヶ月単位で設計する制度もあると思うのですが、我々の事業特性を考えると、1年単位のものを取り入れたほうがより柔軟な働き方や業務への支障も少ないということで、後者を選んでいます。
ーー良しとされている制度であっても、自社にカスタマイズするという点が難しそうです。
西井:おっしゃる通り、そこは中々もどかしい場面もありました。
残業代の還元策についても非常にたくさんの検討を進めてきて、どのように還元するのかといった具体的な方法やどこまで還元するのか、例えば、非管理職までにするのか、管理職を含めるのか、我々は契約社員制度なども持っておりますので、正社員だけなのか契約社員もなのか、とか、本当に色々なことを考えて自社にとって最適なものを選択していくというのは、非常に難しいところなのではないかと思います。
ーーちなみに、還元される社員の範囲はどこまでなのでしょうか。
西井:直接雇用している全社員です。
離職率ゼロを実現した、「人」中心の人事ポリシー
ーー離職率に関するデータなどはありますでしょうか。
西井:新卒入社3年目以内の離職率は大体3割程度と言われることが多いですが、弊社は非常に低く、社歴57年で2人しか辞めておりませんので、率にするとゼロ%という数字を会社紹介には打ち出しています。
弊社では「まんなかに『人』」という人事ポリシーを掲げております。
会社に入っていただいた方、全てが真ん中で活躍していただきたいという思いも込められておりますので、採用時は非常に丁寧にマッチングするようにしています。
本当に我々のもとに来て、活躍してくれるかなということを、非常に丁寧に見てきた結果なのかなと個人的には思います。
ーー社員教育についても力を入れられているとか。
西井:教育体系の整備にも力を入れています。
今は現場毎に行っているような教育であっても現場任せではなく、制度や仕組みとして整備しようと着手しているところです。
新しい制度をカタチにするスピードはとても大事にしていて、この働き方改革についても、検討に何年もかけたわけではなく、1年程度で実現しております。
ーーその意図としては、社員に長く会社の中心として活躍してほしい、という想いがやはりあるのでしょうか。
西井:そうですね。「まんなかに『人』」という人事ポリシーはずっと大事にしておりますので、今回の様々な制度を導入する時にも、まずは社員のことを考えて制度設計を行うようにしました。
弊社は確定給付年金と企業型DC(確定拠出年金)の2つの企業年金制度を運用していますが、それも社員側からしたら、会社を辞めた後も生活を守る一つの手段になると思うんです。
それはやはり長年我々の元で働いていただいたら、頑張っていただいた分、将来も少し安心して過ごすお約束ではないかもしれませんが、そう感じていただける部分もあるのかなと思います。
社員全員が中間層以上の企業を目指す
ーー一部の社員ではなく、社員全体をサポートしようという気持ちが伺えます。
西井:一般的に企業の中には、2:6:2の法則という事で、優秀層が2割、中間層が6割、下の階層が2割くらいの感覚を持っているところも多いかもしれませんが、弊社は、社員全員が中間層以上を目指す、というスタンスを持っています。
確かにそれを達成することはハードだと思います。それなりに求められるレベルも高い、でも一方でそれを達成するためのサポートはちゃんとしていきましょう、という考え方です。
全社員のレベルを引き上げていくための努力は、今後も惜しまないつもりです。
ーー社員の育成には中長期的な視点を持つことも大切ということですね。本日は、貴重なお話をありがとうございました。
取材・文:花岡 郁
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