福利厚生

【福利厚生の歴史】生活インフラ全てを会社が作った明治の軍艦島の福利厚生とは

この動画でわかること

  • 5,000人以上の労働者を支えた軍艦島の福利厚生
  • 小中学校や商店街、共同浴場などを整備した
  • 社員が暮らせるすべての施設を用意しないと炭鉱を採掘できなかった

軍艦島にみる!福利厚生が会社と社員をつなぐ理由と変化の歴史

「島ごと会社」だった軍艦島の福利厚生、伝説の充実した暮らしとは?

かつて日本最大級の炭鉱があった長崎・軍艦島(端島)は、石炭を掘るだけでなく、働く人とその家族のためにあらゆるものがそろった“会社の島”でした。この狭い島で5000人超が暮らし、会社によって用意された福利厚生が島民の生命線となっていました。今回の記事では、軍艦島の事例から現代の福利厚生の進化と役割をひもときます。

軍艦島の福利厚生施設を徹底解剖!「用意されていたもの」

島内には驚くほど多様な福利厚生施設が存在しました。生活を支える住宅はもちろん、娯楽や教育、医療、買い物、公共サービスまで“全部そろっていた”のは、会社主体の福利厚生が生産活動と同じくらい重視されていたからです。

  • 高層アパート(炭鉱夫と家族、社員用)
  • 共同浴場・小中学校・商店街・遊園地など生活インフラ
  • 映画館・パチンコホール・球道場などの娯楽施設
  • 旅館・スナック・老人クラブといった福祉・余暇施設
  • 病院・警察署・郵便局といった公共施設も完備

軍艦島について:https://www.gunkanjima-nagasaki.jp/

映画館「昭和館」では封切り映画が長崎市内より先に上映されることもありました。会社による手厚い福利厚生は、炭鉱労働という厳しい環境で安心して暮らせる原動力だったのです。

なぜ福利厚生がこれほどまでに重視されたのか?その理由を考察

軍艦島のような閉鎖的な環境や鉱山、工場地帯では、社員の生活全般を会社側が丸ごと面倒を見ることが必要不可欠でした。働く人の生活が安定していなければ、石炭生産などの事業自体が成り立たなかったからです。また、それぞれの会社がより多くの働き手、優秀な人材を集めようと、福利厚生で“他社との差”を明確に打ち出していたのも特徴です。

  • 人材確保・定着のためのインセンティブ
  • 厳しい労働環境を補うケアの提供
  • 地域社会としてのインフラ整備

時代で変わる福利厚生―かつて必須だった「社宅・寮」は今どうなった?

軍艦島のような「社宅・寮完備」は、都市部での大規模製造業や集団就職の時代においても不可欠でした。戦後の高度経済成長期、中学や高校を卒業した若者(いわゆる「金の卵」)たちは、仕事に就くために地方から大都市へ出てきました。会社が住まいを保証しなければ、彼らを迎え入れることはできなかったのです。

  • 集団就職時代の「上野駅の出迎え」
  • 住宅不足と高騰する家賃をカバー
  • 結婚・家庭形成を支援する住宅ローンや補助金

また、戦後の住宅難を背景にして、企業は社員の住宅取得もサポート。住宅ローンの低利貸付や財形住宅貯蓄への奨励金支給など、持ち家取得を促進する制度も拡充されていきました。

今の時代、社宅・寮の制度はなぜ変化してきたのか?

社会状況が変わり、地方や都市部を問わず住宅供給が充実した今、かつてのように“住まいそのもの”を提供する必然性は減少しました。けれども社宅・寮や住宅関連の福利厚生は、形を変えて今も受け継がれています。なぜなら、企業活動や組織運営が多様化する中で、「転勤」「異動」「人材開発」といった新たなニーズが登場してきたためです。

  • 転勤・人事異動をスムーズに進めるための「転勤社宅制度」
  • 住宅探しの煩雑さ軽減による業務効率向上
  • 住宅補助による生活負担の低減

企業によっては、住宅手当や引越し費用補助といった柔軟なサポートへ移行しているケースも増えてきました。

福利厚生の目的と意味はどう変わったか?現代における本質

もともと「社員を自社に引き留め、安心して長期間働いてもらう」ためだった福利厚生。現在は「社員の多様な働き方・ライフスタイル支援」「モチベーションや生産性の向上」「企業ブランド力の強化」といった、より広範な目的へとシフトしています。

  • 仕事と生活のバランス(ワークライフバランス)の実現
  • 多様な価値観・ライフステージに応える施策
  • 健康経営、リモートワーク、キャリア支援など新しい制度の拡充

まとめ:福利厚生は時代とともに変化、でも「人を大切にする姿勢」は不変

軍艦島の全方位型福利厚生は、閉鎖的な場所で多くの人が安心して暮らすための仕組みとして誕生し、日本の経済成長を支えてきました。現代では、生活基盤の整備から心身の健康や働きやすい環境づくりへと、その目的や内容は大きく変化しています。それでも“人を大切にし、暮らしを支える”という福利厚生の本質は今も変わりません。企業が持続的に成長する上で、時代に合った柔軟な福利厚生制度の設計が、これからもますます重要になっていくでしょう。

可児さんサムネイル
【スピーカー】
千葉商科大学会計大学院会計ファイナンス研究科 教授(専攻;社会保険、企業年金、企業福祉) 可児俊信

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<著書>
・「福利厚生アウトソーシングの理論と実務」(労務研究所)
・「共済会の実践的グランドデザイン」(労務研究所)
・「新しい!日本の福利厚生」(労務研究所)
・「実践!福利厚生改革」(日本法令) 他