従業員エンゲージメント

事業だけでなく、社内文化にも企業理念が息づく。従業員満足度を高める「ありがとう経済圏」

株式会社オウケイウェイヴ

業務支援サービス 101-500名
課題
・業界内での給与高騰などによる、エンジニアを中心とした優秀な人材の流出
・上場やそれに伴った規模拡大を背景とした、社員数の増加に適応した社内コミュニケーション
施策
・部署を横断したコミュニケーションを促進する「コミュニケーション費」や「QAセッション」をはじめとした制度の策定
・創業当時から続く「サンクスカード」文化のデジタル化と、それを活用した“新しい人材評価制度”の策定
・従業員満足度と業績の向上を目的とした、裁量労働制の導入
成果
・離職率が10%未満に減少し、採用・育成コストの削減に成功
・中途入社社員が働きやすい環境、および退職者との継続した関係構築の実現
・従業員満足度の増加に伴った、リファラル採用の紹介数アップ

調べてもわからない、けれど誰に聞いたらよいのかもわからない──そうした疑問に出くわした時、現代には「Q&Aサイト」という便利なサービスがある。

日本におけるQ&Aサイトの代表格の1つである「OKWAVE」にアクセスすると、サイトのヘッダー(ページ上部のメニューバー)には「総ありがとう 4,739万」「感謝経済に参加しよう!」といった文字が並ぶ。

ありがとうをビジネスに昇華させた株式会社オウケイウェイヴでは、社員が互いに感謝の気持ちを伝え合う「サンクスカード」制度が社内でも根付き、人を大切にする文化があった。

その一方で、同社が株式上場する前後の2000年代のIT業界では、人材の不足から待遇による人材獲得競争が激化。オウケイウェイヴでもエンジニアをはじめとした人材流出が課題になっていた。

同時に、上場に伴って組織の規模拡大が進み、社内コミュニケーションのあり方を見直すべきフェイズにも突入。こうした中で、同社はどのようにこれらの課題に向き合ったのだろうか。

ともに上場から間もない2008年に入社した山本卓也氏、佐野浩太郎氏を訪ね、同社の足跡を聞いた。

人材流動性が高いIT業界で、待遇以外の魅力をつくる

── 山本さん、佐野さんはともに上場後の入社です。会社としてステージが変わる前後の時期でしたが、当時の社内はどのような雰囲気だったのでしょうか?

山本:私も佐野も最初は営業に配属されましたが、私は入社3年目で人事に異動しました。この頃の当社は、上場前後の“あるある”で、離職率が高くなっていました。およそ15〜16%だったでしょうか。そこで、すぐに離職率を10%以下にすることを目標に定めました。

山本卓也氏

とはいえこの業界自体、人材流動性が高い特徴があります。特に当時はソーシャルゲームやSNSなどが盛り上がり始めた時期だったこともあり、エンジニアをどこの会社も欲していました。社内の雰囲気は良かったので、よくある「人が嫌で会社を辞める」というケースよりも、待遇が決め手になって転職者が相次いでいました。

佐野:転職者として、この文化をあえて名付けるとしたら「ありがとう文化」でしょうか。私たちはwebサービスの会社ですが、手書きの温かみで気持ちを伝えるという意味も込めて、紙のサンクスカードを贈り合う習慣が入社当時から定着していました。

ただ一方で、管理の問題で紙のカードは不便な面もあります。たとえばサンクスカードを多くもらった人を表彰する際などには、紙だと集計に苦労します。

また、もしサンクスカードをデジタル化すると、カードを贈った数や感謝された内容などもデータとして蓄積できます。後で詳しくお話しますが、そういったデータがあるからこそできる制度などもあります。そうした背景で、もっと「ありがとう」を可視化できるようにしたのもこの頃です。

山本:社員の待遇はもちろん良くしていくにしても、IT業界は広いので他社と比べたら限界があるのも事実。そこで他にもできることを探していたところ、社内コミュニケーションをもっと良いものにできるのではないかと気づきました。

また、佐野が指摘したように評価制度もアナログな面が残っていました。私たちも上場後の入社ですが、小規模だからこそ適していた制度や文化は、組織の拡大に合わせてチューニングが必要でした。

例えばエンジニアや営業など、職種ごとのチームが大きくなると、いわゆる縦割りの組織になります。また、1つのチームでも人数が増えれば小さいチームとはコミュニケーションの勝手が変わりますよね。そこで、“横のつながり”や上司・部下のコミュニケーションを活性化させるために導入したのが「コミュニケーション費」と「部活動支援」です。

── 具体的にはどんな制度ですか?

佐野:コミュニケーション費は、社員1人あたり月に3000円の予算で、社員同士が食事やお茶に行ったときの費用を補助する制度です。

1対1だけでなくても使えるので、チームでランチに出かけたり、あとは部署が違うけど話してみたかった人と業務外で話をしたりなど、社内の人間関係を円滑することを後押ししてくれました。

部活動支援も同じで、規定の人数に達した部活をつくれば毎月補助が出る制度です。これも部署をまたいだつながりのきっかけになりました。

山本:こうした制度によって、社内の雰囲気にも変化がありました。業務外で互いを知る機会ができ、初めて一緒に仕事をする場面などでも心理的安全性の担保にもつながるといった効果が表れました。

オウケイウェイヴは「働き方改革」の先駆け

── その他にも社内のコミュニケーション改善に貢献した施策はありますか?

山本:コミュニケーション費などのように直接的な取り組みではないのですが、実は同じ時期に、裁量労働制も取り入れたんです。これは、どちらかというと先ほど挙げた課題のうち、評価制度にかかわる部分かもしれません。

── 2010年前後だとすると、業界の中でも裁量労働制はまだ一般的ではなかったのではないでしょうか。

山本:そうなんです。実は働き方改革の先駆者かもしれません(笑)。

ただ当社は一度、裁量労働制を撤廃して、再導入したという歴史があります。今でこそ広まりつつある制度ですが、経験者として運用方法には気をつけるべきポイントがあると思います。

最初に導入したきっかけは会長の発案だったのですが、その背景には「社員にクリエイティブに働いてほしい」という思いがありました。そのためには、細かく一人ひとりを管理するのではなく、「社員に権利を渡す」という考え方に立つ必要があります。

佐野:例えば私が所属する営業の場合だと、商談は訪問、つまり事業場外が基本なので、細かい時間管理はしません。同じように、開発チームにも同じ考え方を取り入れました。エンジニアでないと想像しにくいかもしれませんが、実は彼らもずっとコード書いているわけではないんです。設計を考えたり、プログラムが動いている間に待ったりする時間もあります。

だからこそ、職種を問わず「期限とミッションを握る働き方」のほうが基本的にはフィットするんですね。

山本:ただし法律のもとに行う制度なので、深夜労働や長時間労働、あるいは午後出社の定着などは、制度を利用する側である社員の良識が問われます。あくまで時間の使い方を任せる、という考え方なので、「いつ働いてもいい」とはニュアンスが違うんです。

実は最初に裁量労働制を断念したのは、このあたりのことも関係しています。ただ、振り返ってみるとやめるべきではなかった。

裁量労働制の断念と再導入から生まれた、新しいKPI

佐野:現場としては成果を見られるようになったので、それが結果的に良かったんです。制度の導入前は、マネージャーから振られた仕事をやりさえすればOKという考えを持った社員もいたかもしれません。それが裁量労働制になると、全員がより事業貢献を意識するようになりました。

ここで鍵になったのが、先ほど紹介したサンクスカードです。当然ながら、事業貢献とは個人の営業成績など、わかりやすい指標だけではありません。

例えば「個人としてのパフォーマンスは高いが、成功事例やノウハウをシェアしない社員」と「売上はまあまあだが、ナレッジのシェアやムードメーカー役ができる社員」とだったら、どちらが事業貢献しているか。もし、既存の指標では測れない社員の貢献度を可視化できれば、裁量労働は“殺伐とした個人最適”から脱却して、新しい働き方の形になりうるのです。

山本:「事業の目標をどう達成するか」の解釈を間違えると「自分の給与をどう上げるか」だけにフォーカスしてしまう。だからこそ“プロセスの評価”が大事なんです。

そこで、評価制度では「組織への貢献」「業務スキル」「当社の行動指針を基準にした360°評価」といった項目を盛り込むように変更しました。

そして、デジタル化したサンクスカード制度という土台を生かして、組織貢献の“新しいKPI”になったのが「ありがとう」の数です。

まず見ているのは、サンクスカードをもらった数と贈った数です。特に贈った数のランキングが大事で、言い換えれば「社員をどれだけ元気づけたか」のランキングです。これは「感謝することで仲間をエンパワーしている」という考え方にもとづいています。

佐野:加えて、社員全員に毎月39枚ずつ付与される「OKチップ」というチップがあるのですが、これをサンクスカードを贈るときに一緒に渡すことができます。

このチップは貯めると優待品と交換できます。感謝という無形物が、優待品という物理的なリワードになる仕組みです。

「企業理念にリンクした社内改革」の成果

── 提供するサービスはもちろん、社内文化においても企業理念が反映されていると感じます。こうした取り組みの結果として、離職率の改善には成功しましたか?

山本:一連の施策によって、大きく変わったのは従業員満足度です。会社全体としての調査は行っていないのですが、社員個々で見るとサンクスカードの流通量と従業員満足度が比例していることが分かりました。

サンクスカードをデジタル化したことで、カード自体の流通量が増えたので、全体の従業員満足度にも良い影響を与えているのは間違いありません。

結果、離職率がすごく下がりました。当初目標にしていた10%をゆうに下回るレベルまで改善でたので成功だといえるでしょう。

また、嬉しい誤算としてリファラル採用が増えたんです。制度自体は以前からありましたが、従業員の満足度や心理的安全性が高まったことで、特に社歴が浅い人からのリファラルが多くなったのが印象的です。

佐野:ちなみに、このサンクスカードの仕組みは当社以外の組織改革に応用できるという仮説のもと、自社の事例を引っさげて「OKWAVE GRATICA」というサンクスカード制度の導入支援事業も展開しています。サービス開始から1年ほどで、すでにいくつかの企業でも成果が出始めています。

山本:当社にこのサンクスカードはなくてはならない存在です。先ほど紹介していない社内制度で、各会議室にいろんな部門の役員が待機し、社員が自由に質疑応答できる「QAセッション」と呼ばれるイベントがあります。ここでも、企画者や答えてくれた役員にサンクスカードを贈ったりと、すべての仕事に意義を実感できるような土壌があります。

佐野:この「ありがとう」から始まる経済圏は、当社でも採用・育成コストの改善や業績アップに貢献しているように、経営に大きなインパクトをもたらします。それを知っている私たちが伝道師になって、オウケイウェイヴのオフィス内だけでなく、日本や世界のあらゆる企業を感謝で満たせたらうれしいですね。

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