【記者発表レポート】ベルシステム24、「障がい者がコーヒーを提供してくれるカフェ」をオフィス内にオープン!
昨年4月、日本企業での障がい者雇用法定率が以前の2%から2.2%へと引き上げられ、障がい者支援の取り組みにあらためて社会が注目するようになりました。
また近年では「多様性(ダイバーシティ)」というキーワードが企業活動おいてその重要性が広く認知され、働き方改革の文脈でもよく使われるようになってきていることは、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
そうした社会的背景の中、コールセンター業務大手の株式会社ベルシステム24ホールディングスは2019年2月から、同社のオフィスラウンジで障がい者がコーヒーを抽出し、来客者や社員に提供するためのカフェを開設するというニュースを発表しました。
今回開設されたカフェは、多様な人材による多様な働き方の実現を目的とする「SDGs(持続可能な開発目標)」並びに、多様な人材の活躍機会を提供する「多様性プロジェクト」の新たな取り組みとしてはじまり、コーヒーを通じたSDGsの実現を進める株式会社ミカフェートが抽出するための技術支援やプロデュースを担当しました。
カフェで使用されるコーヒー豆は、タイの王室財団法人メーファールアン財団とミカフェートが実施する、タイ山岳地帯の貧困下にある少数民族への自活支援プロジェクトの一環で、アヘン生産をしていたケシ畑をコーヒー農園へ転作して作られた豆が選ばれています。
今回、BOWGL編集部は同ニュースの記者発表会に参加してきたので、その模様をお送りいたします。
これから企業として障がい者支援について考えたい、働き方改革のユニークな取り組み事例を探している、といったご担当者様はぜひご参考にしていただければ幸いです。
参考プレスリリース:ベルシステム24ホールディングス|SDGs並びに「多様性プロジェクト」を推進、「障がい者の運営によるカフェ」をミカフェートのプロデュースによりオフィス内に開設
目次
【第1部:記者発表会】今回の取り組みの背景
本会見の第1部では、ベルシステム24代表の柘植氏、ミカフェート代表の川島氏、メーファールアン財団代表のデューク氏がそれぞれ、今回のプロジェクトにかける想いや背景について語りました。
ベルシステム24代表:柘植一郎氏コメント
柘植一郎氏:みなさん、こんにちは。
本日は、わたくしどものカフェのオープンにお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
また、川島さん、財団を代表してデュークさんにもタイからお越しいただき、大変嬉しく思っています。
多くの人から、「なぜカフェなんて始めたの?」なんて聞かれることも多いのですが、我々の企業理念にもあるのですが、「色々な人が楽しく、安心して働ける、人に優しい職場を作る」ということがビジネスだけではなく、社会的責任という意味においても、とても重要であると考えています。
そのような中、弊社はこれまでも多様性(ダイバーシティ)の実現に向けて様々な取り組みをしてまいりましたが、現在とりわけ力を入れているのが、障がい者の方たちの働ける場所をもっと提供していこう、ということでございます。
とは言え、実はすでに376名の障がい者の方が現在、弊社で働いていただいております。
北は旭川から南は沖縄までいらっしゃいますが、障がいをお持ちの方は、当然身体的なハンディキャップだけではなく、精神的な障がいをお持ちの方も多くいらっしゃいます。
そういった方々のお話を伺っていると、得意なこと、不得意なことがあるということが分かってきます。
弊社ではそれぞれが持っている特徴や強みを活かして、電話を取ってお客さまの対応をするだけではなく、周辺の業務であったり、あるいはコンピューター業務、バックオフィスの書類作成であったりを手伝っていただいています。
つまり、様々な働き方をしている、ということですね。
今回の取り組みでは、そういった個性に合わせた働き方をより増やしていこう、という意図があります。
ミカフェートの川島さんとはたまたまご縁があり、取り組みに関するお話をしているなかで、これは僕らの会社で障がい者の方が働いていただくのにすごく良いんじゃないか、より楽しい仕事になるし、もっと陽のあたる場所でみんなと一緒に働けるということになるんじゃないか、というふうに考えるようになり、まずは本社からスモールスタートではありますが、やってみようじゃないかということになりました。
また川島さんは、世界で有数のコーヒーハンターと呼ばれている方なので、世界中の美味しいコーヒーをご存知なのですが、その中でもタイですごいことをやっている財団があるということを伺ったんです。
後ほどデュークさんのほうからお話があると思いますけれども、例えばこれまで麻薬を作ったりすることでしか生活ができなかった人たちが、コーヒーを作ることによって自立できるようになっているんですね。
タイの王室が実際にそれにコミットをして、実績を上げているというのは本当に素晴らしいと思いますし、日本人と波長が合うタイの方とそうした取り組みができる、というのも非常にいいなと思いました。
とは言いながらも、美味しいものでないと楽しくないので、大試飲会を行ったんですね。そして色々なコーヒーを試して今回のコーヒーが非常に美味しかったので、採用させていただき、このプロジェクトが始まったということでございます。
実はこの取り組みに関して、すでにご興味を持っていただいてるクライアントさんもおりまして、そういった輪を少しずつ拡げていければなと思っています。
冒頭にも申し上げたように、我々は人あってのビジネスをやっておりますので、今後も人に優しく共に成長していけるような会社を目指したいと思っています。
まずは皆さんにも美味しいコーヒーを飲んでいただいて、我々がどういう想いでこの取り組みをやっているのかというのをぜひ、世の中に広めていただければ幸いです。
本日は、本当にありがとうございます。
ミカフェート代表:川島良彰氏コメント
川島良彰氏:みなさん、こんにちは。
本日はたくさんの方にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
2008年にこのミカフェートという会社をつくった時に、コーヒーで世界を変えよう、と思って作りました。
現在、世界中で約1億人以上の人たちが、コーヒー作りに携わって生活をしています。
それは世界でも、就業人数で言えば、世界最大の産業であるとも言われています。
7年ほど前、ある時、障がい者を持つお母さんから、「自分の子どもを納税者にしたい」という一言で、障がい者に対する支援をはじめました。
そして各地で障がい者カフェのお手伝いをさせていただきまして、どのようにしたら美味しいコーヒーを作れるかを考え、障がい者だからではなく、美味しいから飲みに来てくれる、というお店を作ろうということでずっと続けてきました。
そのような中、6年ほど前に、本日もいらっしゃっていただいています、メーファールアン財団のほうから、少数民族がアヘンからコーヒーに転換して自立するプログラムに携わる機会をいただき、徐々に品質や数量も上がってきました。
そして一昨年の暮れに、ベルシステムの柘植社長のほうからお声がけいただきまして、抽出のトレーニングから関わらせていただきました。
私は自分の仕事は、生産国と消費国をつなぐ架け橋だと思いながら仕事をしています。
今回、このようにまさしく産地と消費国を繋ぐことができ、そしてさらに障がい者の方たちがコーヒーを抽出して、ベルシステムの社員の方たちが飲む、というストーリーが出来上がって本当に嬉しく思います。
これはきっと、将来大きな波になるのではないかと信じております。
改めて、本日はどうもありがとうございました。
メーファールアン財団:デューク氏コメント
デューク氏:(日本語で)みなさん、こんにちは。
まずはじめに、メーファールアン財団の概要をご説明させていただきます。
私たちの財団は、30年前、タイの山奥で王様のお母様によって設立されました。
財団に関しては、コーヒーを育てることが一つの目的となっています。
ここに私が来ているのは、運命、宿命だと思っています。
柘植さん、川島さんがおっしゃったように、人の生活、人の生活水準を深めるために、ここに集まってきていると思っています。
ここにいるお二人には、このような機会を与えてくださり、非常に感謝しています。
私たちのメンバーは、コーヒーを育てるために、一生懸命働いております。
特に川島さんのサポートによって、コーヒーの品質はどんどん高まってきています。
本日このイベントは、一つのマイルストーン、ロードマップだと感じております。
そしてここまできたストーリーを生産者のもとに話を持ち帰り、みなさんにお届けするコーヒーの品質をより高めていきたいと考えています。
本日は、本当にありがとうございました。
【第2部:コーヒー試飲会の様子】
記者会見の第2部では、障がい者のスタッフ2名がカフェで実際に提供されているコーヒーを抽出するデモンストレーションが紹介されました。
コーヒーの事前予約を表す、黄色のマークがスケジュールに表示されています。
事前予約されたコーヒーの数に応じ、豆が入ったコンテナを用意することで、スタッフが迷わず安心してコーヒーを提供できる仕組みを採用。
必要な機材をセット。
担当者によれば、このコーヒーの抽出作業は非常に精度を求められる作業で、決まった分量で淹れないと雑味が出てしまうとのこと。
そのため「あと何グラムまでいけるのか」ということを彼らは常に注意、判断しながら仕事をしているそう。
コーヒーが美味しく出る温度帯を詳しく見極め、じっくりと豆を蒸らしたうえで抽出を行います。
この日はサポートメンバーの方がいましたが、普段はこの温度計を見ながら、適温や蒸らしの正確なタイミングを確認しているとのこと。
障がい者スタッフの方へのコーヒー抽出トレーニングには、ベルシステム24オリジナルのマニュアル冊子を使用。
図解と写真が豊富に載っており、非常に分かりやすいものでした。
湯を注ぐと、豊かな香りとともに豆が膨らんでくる様子が印象的。
ここからは目と手を止めずに、集中してコーヒーを淹れていきます。
目盛りの箇所までピッタリ注いだところで完成。
その場に集まった記者一人ひとりに、淹れたてコーヒーが振る舞われました。
実際に筆者が試飲してみたところ、比較的酸味が少なく甘みが強めで、香りも良く、非常に飲みやすいコーヒーだと思いました。
これなら、毎日飲んでも飽きないかもしれません。
スタッフの田村さん(写真中央)は、「コーヒーが美味しいと言われるように頑張ります。」とコメント。
トレーナーのベルシステム24の渡辺さん(写真左)は、「2018年12月1日から二人とトレーニングを始めましたが、前向きさと真面目さは本当に見習わなければならないと思いました。引き続き、やりがいを持って仕事ができるようにサポートしていければと思います。」とコメントを残しました。
無事にコーヒー抽出のデモが終わり、まだ緊張しつつも安堵と喜びを表情ににじませるスタッフのお二人。
ベルシステム24の今後の展開としては、今回活躍したスタッフをトレーナーに育て、今後全国展開を丁寧に行なっていきたいとのこと。
また、現在クリアしている障がい者の法定雇用率を、自然に3%まで達成していきたいと柘植社長は語りました。
おわりに
今回の取り組みで筆者が感じた素晴らしいところは、障がい者だから〜といった特別なハンデを付けずに、自然な形で新しい仕事や働き方を生み出しているという点にあると思います。(しかも自社社員やクライアントが喜ぶかたちで!)
コーヒー抽出マニュアルの厳しい基準をクリアし、安定した技術を身に付けた障がい者スタッフの方の努力の成果(コーヒーの味)がそれを証明しています。
「障がい者の法定雇用率をクリアしたから偉い」ではなく、今回のように適切な能力を適切な場所に配置し、それを誰かに喜んでもらうというサイクル(仕組み)を作っていくことは、昨今の働き方改革の文脈においても、非常に有意義で参考となる事例なのではないでしょうか。
今後、この取り組みがどのようにして発展していくのか、非常に楽しみです。
取材・文 花岡カヲル