働き方改革

【セミナーレポート】ベネフィット・ワン主催『次世代の戦略的人事セミナー ~人事3.0~』

2020年に開催されるオリンピック・パラリンピック以降、景気の軟化を懸念する声があります。

企業は今後、いま以上に従業員の生産性や働き方改革といった動きを求められるようになるでしょう。

ではそうした際に、企業が実践すべきこととは、何でしょうか。

そこで2019年1月23日、株式会社ベネフィット・ワンは、『次世代の戦略的人事セミナー ~人事3.0~』を都内で開催しました。

本セミナーでは、2020年以降の景気変調にそなえ、今人事がすべきことは何か、という点について 次世代の戦略的な人事の取り組みを提唱されている八木 洋介氏をお招きし、最新の人事戦略や今後の展望について話されました。

本記事ではその第一部と第二部の模様をダイジェストでお伝えします。

セミナー概要

・開催日時
-2019年1月23日(水) 15:00 〜 17:15 【受付開始:14:30】

・会場
-大手町サンケイプラザ 301-303

・プログラム
(第1部)
『2020年を超えて人事が今すべきこと』
株式会社 people first 代表取締役
株式会社 ICMG 取締役
株式会社 IWNC 代表取締役会長 (前 株式会社LIXILグループ執行役副社長)
八木 洋介 氏

(第2部)
『シスコの働き方改革 シスコの社内実践で得た働き方改革の成果・経験』
シスコシステムズ合同会社
業務執行役員 人事部長 宮川愛 氏

(第3部)
『戦略的人事を支えるソリューション』

 千葉商科大学会計大学院 会計ファイナンス研究科 教授
株式会社ベネフィット・ワン ヒューマンキャピタル研究所 所長
可児 俊信

・主催
株式会社ベネフィット・ワン

・定員
200名

登壇者紹介

株式会社people first 代表取締役
株式会社 ICMG 取締役
株式会社 IWNC 代表取締役会長 (前 株式会社LIXILグループ執行役副社長)
八木 洋介(やぎ ようすけ) 氏

1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。
National Steelに出向し、CEOを補佐。1999年にGEに入社し、複数のビジネスで人事責任者などを歴任。
2012年に株式会社LIXILグループ 執行役副社長 兼 株式会社LIXIL 取締役副社長 執行役員に就任。Grohe, American Standard, Permasteelisaの取締役を歴任。
2017年株式会社people firstを設立して、代表取締役。経済同友会幹事。現在、複数の東証一部上場企業などのアドバイザーを務めている。
著書に「戦略人事のビジョン」。活発に講演活動を行い、雑誌などに記事多数。

シスコシステムズ合同会社
業務執行役員 人事部長
宮川 愛(みやかわ あい) 氏

東京都出身。
2003年に外資系IT企業に人事として入社後、日本国内人事のみならず、アジア太平洋地域の人事(主に人事企画業務・報酬制度・M&A等)に従事。2014年3月にシスコシステムズ合同会社入社後、部門担当人事(HR Business Partner)として営業組織の組織強化に携わる。
2016年8月より現職。2018年度日本における「働きがいのある会社」従業員1000人以上の大規模部門にて1位を獲得。

千葉商科大学会計大学院 会計ファイナンス研究科 教授
株式会社ベネフィット・ワン ヒューマンキャピタル研究所 所長
可児 俊信(かに としのぶ)

1983年東京大学卒業、明治生命保険相互会社へ入社。
1991年より株式会社明治生命フィナンシュアランス研究所(現明治安田生活福祉研究所)出向し、 主任研究員・主任コンサルタントとして、従業員福利厚生(カフェテリアプラン、共済会等)、 企業年金 (確定拠出年金等)、生活設計、ファイナンシャル・プランニングを調査・研究・コンサルティングに従事。
現在は、福利厚生・企業年金の啓発・普及・調査および企業・官公庁の福利厚生のコンサルティングをメインにおこない、 年間延べ500団体を訪ずれ、現状把握と事例収集に努め、福利厚生の見直し提案を行う。
著書に「実践!福利厚生改革」日本法令」ほか、寄稿、講演多数。

第1部『2020年を超えて人事が今すべきこと』(講師:八木 洋介氏)

本セミナーの第1部では、元LIXILグループ執行役副社長の八木洋介氏が、『2020年を超えて人事が今すべきこと』と題し、社会の大きな流れであるメガトレンドのキーワードを交えて今後の人事がとっていくべき行動について語りました。

経営、人事を取り巻く環境とその変化

正解のない時代

まず経営者や人事は世の中の大きな流れ(メガトレンド)を把握していなければ、正しい経営はできない、と八木氏は述べます。

八木氏の考えるメガトレンドとは以下のとおり。

  • 宇宙
  • 地球…環境、エネルギー、水、食料
  • 世界…格差、地政学的変化、人口動態
  • 日本…人口動態、財政破綻、地方崩壊
  • テクノロジー…デジタル、シンギュラリティ、AR/VR3Dプリンティング、ブロックチェーン、
  • 経済、社会、生活

メガトレンドを見ていくなかで、言えることは主に2つあります。

それは、「世の中は常に変化していく」ということと、「正解はない」ということ。

正解がないということは、いくらロジックを積み上げても正解は誰にも分からないため、ここにこそヒューマンパワーが重要になってくると八木氏は強調します。

いくらロジックを組み上げたとしても分からない場合、自分たちで判断できなければなりません。

正しい判断をするためには、以下の6つのポイントを抑えておく必要があります。

  • 学ぶ、経営リテラシーを持つ
  • 軸を持つ…貫く一貫性、信条
  • 本質を掴む
  • 覚悟と勇気
  • 行動し、責任を取る
  • 結果を出す

そして覚悟を持ち、正しい判断が求められる人間、つまりリーダーの存在が重要になってくる時代でもあるといいます。

企業にとっての本当の働き方改革とは?

「労働生産性」をテーマに厚生労働省は、働き方改革というものを進めてきました。

この働き方改革の焦点は、「格差是正、健康、仕事と家庭の両立、少子化、女性のキャリア形成」を働く人の立場に立って、どのようにして働きやすい職場を作っていくか、という課題です。

八木氏はこの考え方は正しいと認めつつも、企業にとっての本当の働き方改革は、「生産性」にこそ注目するべきだと述べます。

よく言われているのが、長時間労働の是正や在宅勤務、テレワーク、こういったことを議論して働き方改革と言っているが、企業にとってそれは本質なのか?といつも違和感を持っていたそう。

ある時、八木氏は労働生産性を表す以下の計算式と出会います。

プロフィット=価格×数量―賃金・その他費用

それを一人当たりの生産性を計算し直してみると、以下のような仮説が得られました。

生産性を上げるためには、

  • 独自性の強い商品を作る

→イノベーションを起こす

  • 一人あたりの生産量を上げる

→無駄な時間(余計な仕事)をなくす

→スキルを上げる

→やる気を上げる

  • 事業構造を変革する

→儲からない事業、商品をやめる

つまり、生産性の向上とは本質的には、以下の要素を伸ばしていくことであると八木氏は述べます。

  • リーダーシップ
  • イノベーション
  • マネジメント
  • 風土
  • 人材の配置・活用
  • 実力・やる気

この中には長時間労働もテレワークもありません。

本当に大切なことは、短い時間でどれだけ生産性高く仕事ができたか、ということです。

職能資格制度、特に年功序列の弊害

一方で、職能資格制度や年功序列制度が、人事にとっての大きな弊害になっているという問題もあります。

職能資格制度そのものが悪いわけではないと前置きをしつつ、環境が変われば変化する必要があるし、場合によっては制度そのものを捨てるということもあり得ると八木氏は指摘します。

基本的には能力が上がれば昇給させてあげよう、というのが職能資格制度ですが、これは昭和30年〜40年代の2ケタ成長を日本がしていた時代には合っていた制度でした。

しかし、1970年代以降の日本は2%程度の成長率に留まっています。

このような状態で皆を昇給させていては、高すぎる給料、多すぎる管理職という問題が出てきます。

日本の労働生産性が低い原因には、「くそまじめな社員」「多すぎるくそまじめな管理職」が原因ではないか。

まじめな管理職は、まじめに仕事を生み出します。そして余計な仕事をたくさんするようになります。

余計な仕事をまじめな社員をまじめにやってしまう。

このことが、日本がアメリカやドイツに比べて生産性が3割以上も低い原因なのではないかと八木氏は強調します。

さらに大きな課題として、失敗を許容しない文化にも問題があります。

年功序列で上に上がっていくためには、大きな失敗をしないことが大切です。チャレンジをすれば必ず失敗をする、イノベーションをやりたければ失敗を伴うということは当然のこと。

失敗を許さない文化である以上、イノベーションが起こらないことは当然のことであるといえます。

その結果、環境変化への対応力低下、実力ある若者の意欲低下、ダイバーシティの妨げ、ものが言いにくい風土、外資系企業等への人材流出などが起きてしまいます。

アジャイル人事

これから10年、20年と企業が活動を行なっていく上で、「アジャイル」という言葉が一つの重要なキーワードになります。

アジャイルの語源である、「Agility」とは何か。スピードとは何が違うのか。グーグル検索で検索してみると、「スピード」はゴールがあってそこに一目散へと走る画像が表示されます。一方「Agility」を検索してみると、犬が障害をかけ分けて前に進む姿が出てきます。

つまりAgilityとは、完璧やゴールを直接求めるのではなく、仮説を立てて学びながら前に進むということです。

いまアメリカを中心に世界は、アジャイル経営に向かっています。

したがって、完璧を求めて、まじめに仕事をしているだけでは、世界を相手に勝てない可能性が非常に高いということ。

これをビジネスニーズに組み合わせると、人事の制度や仕組みを迅速かつ柔軟に変えていく、ということが重要になっていきます。

八木氏は、LIXIL時代に以下のようなアジャイル人事改革を3年以内に行なったといいます。

  • 好業績下の希望退職
  • 執行役員制度廃止
  • 役員、経営幹部給与体系変革
  • 経営幹部と雇用契約締結
  • 年功序列撤廃
  • 新評価システム、プロセス導入
  • Global人事基盤構築…グレード、評価体系統一
  • 選抜型リーダーシップ研修…軸、知、実践。全世代展開、グローバル展開
  • グローバル・タレントレビュー実施
  • 若手の抜擢
  • ダイバーシティ推進
  • Global Engagement…LIXIL Heartbeat
  • LIXIL Value導入
  • HR Vision導入

上記の施策が全て完璧というわけではありません。もちろん、課題がないわけではありませんが、そうは言っても早く回していくということが最も重要だと説きました。

3種の神器

かつてアメリカの経営学者ジェームス・アベグレンは、戦後日本の企業発展は3種の神器「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」にあると述べました。

これが日本の強みだとして、多くの企業が制度を真似しました。そして結果的に、その3種の神器は日本の文化となってしまいました。

この制度はアメリカの真似をして大量生産大量消費が良しとされていた時代には、合理的な制度でした。

しかし、1ドルが100円代になっても360円時代と変わらない文化を続けていては、世の中の変化に対応できていないので勝てないと八木氏は述べます。

これまで現場はもちろん大事でした。しかし、これからは世界がどうなっていくのか、メガトレンドで世の中はどのように変化しているのか、こうした大局観の視点が重要になってくるでしょう。

もちろん3方よしの精神は大切です。ここでみなさんにも少し考えてもらいたいのですが、私たちは本当に売り手良しでやっているのでしょうか。なぜ日本の会社はこんなにも利益率が低いのでしょうか。私たちは、自分たちの利益の出し方についていま一度考え直してみても良いのではないでしょうか。

報連相

上司に必ず報告・承認を取ってから行動をするスピード感ではこれからのビジネスでは勝てないと思います。これからの日本は、部下に仕事を任せるということを、より増やしていかなければいけません。

私たち経営者・人事がやるべきことは、実力があって、やる気があって、自信のある人に任せるということです。

PDCAと言ったときにまじめな日本人は、PPPと、完璧なPをつくるために経営企画部のような部署を作り、丸投げになるため社内でケンカの種になってしまうことが多々あります。

PDCAではなく、事業をやっていく人たちがAgilityを持ってどんどん前に進んでいく、というスタイルが今求められているのではないでしょうか。

こうした日本に根付いた企業文化は、大局観・合理性の欠如が大きな問題であり、時代が変化しているにも関わらず「無意識のバイアス」がかかり決められない、遅いという特徴があると、八木氏は再度指摘します。

直面する人事課題

日本能率協会のデータによれば、日本の経営者にとって何が一番の課題か、という質問をしたところ、「人材強化」「グローバル化」「イノベーション」「事業変革」「エンゲージメント」といった項目が近年関心を集めてきています。

つまり、経営者が大切だと思っていることのほとんどが、人事に絡む問題であるということ

私たちが直面している人事課題は、職能資格制度から実力主義への移行やリーダーの育成、人材不足への対応など様々です。

特に健康経営も最近では注目されていますが、社員が健康になればそれでいいのでしょうか。

大切なのは会社が健康である、ということではないでしょうか。

活力に満ちた社員が働ける会社ではないでしょうか。

八木氏は健康経営には、ベーシックの健康と企業活動に活力を持って取り組める2つの要素が必要だと述べました。

人と組織で最高のパフォーマンスを出す

今はデジタルの時代だが、これからの価値を生むのは人間ではないかと八木氏は強調します。

シンギュラリティが起こり、AIに創造性が生まれればその先は分からない。しかし、まだその時代はこないというのが同氏の考え。

実力社会へ移行するためには、実力とセットで必要なのがポジション。

適切なポジションにいい人材を配置し、制度で縛らず自由を与えていくことが大切です。

いい人材を採用し、定着させるための組織比率

では、いい人材を採用するためにはどのようにしたら良いのでしょうか。

そもそもいい人材とは、「希少価値」「実力、インテリジェンス」「変化に対してオープン」「創造的」「学び続ける人」「グローバル」などの特徴があります。

また、いい人材を採用するためには、「いい人材を定義する」「人材獲得競争に勝つ」「いい人材にいい処遇と役割、ポジション」「魅力ある会社にする」といったことが必要です。

八木氏は自身の経験から、いい人材がしっかりと機能するような組織のあり方について持論を展開しました。

100人以下の組織ではストラクチャーを使わずにティール組織のような組織論でも通用するといいます。

しかし、数千人、数十万人といった数の従業員を持つ企業では、ティールは通用せずストラクチャーを使わざるを得ない。

その場合、社長は20人部下を持つ、その部下は10人部下を持つ。30万人の会社では6階層で組織が作れるといいます。

会社の階層が増えれば増えるほど、方向性が正しい場合でも理解されないため、組織の階層を作りすぎないことが大切であると八木氏は注意を促します。

1000人に1人のリーダーを活用する

どの組織においても、自らをリードすることもできる優秀なリーダーは必ず存在します。

しかし、彼らを活用できている企業はどの程度いるのでしょうか。八木氏はその経験から、その割合は組織内において約1000人に1人だと述べます。

希少価値を持つリーダーは育てていかなくてはいけません。決して、過去の習慣に縛ることなく、やりがいを持たせていかなくてはいけません。そして何より希少価値だからこそ、年齢や性別に関係なく使わなければ勝てません。

脳科学、行動科学、組織心理学などの進展が見られる現在、人事はそこから得られる知見を学び、リーダーが成果を出せるよう科学を活用していかなくてはなりません。

人で勝つ、人事の役割

人事の役割

これからの時代の人事には、2つの役割があります。

それが「Strategic Leader」と「People Champion」です。

前者は、戦略人事の実践やアジャイル人事、人事を科学するといったリーダーをサポートする役割です。

後者は、変革者、指導者、コーチなどのリーダーとしての役割です。

そして人事は、人のプロとしての自覚も持っていなくてはいけません。

特に重要な要素が、「Story teller」としての能力です。

ロジックはストーリーではありません。

リーダーに会社のビジョンを理解してもらい、人材を活かすには、「納得と共感」をしてもらわなくてはいけません。

規律徹底の警察官のような存在ではなく、リーダーの活力を引き出す力となるために、自分を知り、学びストーリーを語り続けるということが人事には必要な能力だと八木氏は語ります。

第一部まとめ

ここで改めて、本セミナー第1部のまとめを記載しておきます。

これからの人事・経営が取り組んでいかなくてはいけないもの。

それは、以下のことです。

・過去を捨て、未来に向けて変革

・本質を追求

・実力主義へ

・リーダーを育成し、自らも学ぶ

・イノベーションを促進

・活力をいい人材に持たせる

・覚悟と勇気を持つ

・人事に科学を加える

・アジャイルに行動せよ

2部『シスコ働き方改革〜社内実践で得た働き方変革の成果・経験〜』(講師:宮川 愛氏)

本セミナー第2部では、シスコシステム合同会社から宮川愛氏が、自社での働き方改革の実践事例・学びについて講演いたしました。

シスコ働き方改革の歩み〜市場を取り巻く環境の変化〜

シスコ働き方改革の歩み(目的と背景)

宮川氏はまず冒頭で、働き方改革導入のポイントについて以下のように紹介しました。

2001年より開始されたシスコの働き方改革では、主に4つのフェーズに分かれています。

1段階では、2001年に在宅勤務規定が導入され、主に労働生産性向上を目的として行われました。

この時には、客先に出向いている営業の移動スキマ時間にいかに無駄をなくすのか、緊急時にでも業務継続をどのようにすれば良いのか、といったことを中心に行なっていたと宮川氏は語ります。

2段階、この頃はブロードバンドの普及により、オフィスから離れた場所でも仕事ができるようになりました。

この流れを受けて2007年には、在宅勤務対象者の拡大を行いました。

またこの時に行なったのがオフィス移転。

シスコはコラボレーションをより推進し、従業員がより生産性を高く仕事ができるようにオフィスのレイアウトを徹底的に考え、実行しました。

例えば、フリーアドレス制や豊富な打ち合わせスペースの設置、ペーパーレス化の促進などです。

そして第3段階。

ダイバーシティという単語を耳にするようになった頃ですが、2011年には大きな出来事がありました。東日本大震災です。

震災時、シスコでは全従業員に対し2週間在宅勤務を社長が命じました。

これまではリモート環境で働くことに対しあまり前向きでなかった社員もマネージャも、実際にやってみると、意外と問題ことが実感できたそうです。

現在の第4段階。

いかに市場変化に対応しうる組織体制をつくり、社員のエンゲージメントを高め、イノベーションを促進できるか、ということがテーマとなっています。

デジタル化やテクノロジーの進化により、様々な企業のあり方が大きく変化し、仕事そのものの変化へと繋がっています。

従来のように、上司からいちいち指示を受けたり、他組織と協業するために、組織の上同士がまず合意するなど、いくつも組織内のステップ取ってから実行に移すのでは市場の変化のスピードに付いていけないため、アジャイル型の組織が求められるようになってきていました。

宮川氏によれば、アジャイルな組織とは上から指示によって初めて動くのではなく、必要な人が必要な人と自由に繋がることができる組織であるといいます。

終身雇用が崩壊した今、会社から最も先に居なくなるリスクが高いのは、その会社のエースです。

ではエース社員が会社に残ってもらうにはどうしたらいいのか、何が会社にいることの価値になるのか、どういった経験を社員であることを通じて得られるのか、そういったことを考えるのが人事としての役割であると宮川氏は述べます。

近い将来、日本の労働人口が49%、人工知能やロボットに代替可能と言われているなかで、宮川氏は人間がストーリーを語ることの価値を強調します。

今まで以上に自律性・自発性+ヒューマニズムが求められる時代に、その時代をいかにリードできる人材を育てられる組織にするかが人事の命題だといいます。

働き方改革の3要素

「働き方改革」を支える基本構成3要素

シスコでは、働き方改革には主に3つの基本要素があるとしています。

それは、「企業文化」、「仕組み・制度」、「技術の活用」の3つです。

シスコの価値観を体現する企業文化

企業文化」を育む方法としては、全社員が企業文化の定義とシスコ社員の「価値観」が記されたカードを携帯し、部署毎にその価値観について話合う機会を設けたり、評価の際にも価値観の体現を一つの評価軸として設けています。

また会社と社員が相互にコミットメントをしているという考えのもと、「会社が提供するもの」(=機会/裁量)と「社員に期待すること」(=自律)をはっきりと明言し、機会/裁量と自律のバランスを保っています。

パフォーマンスを最大化する仕組み・制度

同社の働き方改革の「仕組み・制度」におけるパフォーマンスとは、ビジネスの成果だけでなく、会社の価値観に基づいた行動やチームに対する貢献なども含まれているそうです。

つまり、どんなに優秀な社員であっても、チームに貢献していなければ昇給もない場合もあるという判断もしうるということです。

また、1on1にも取り組んでおり、単純な作業報告ではなく、一人ひとりの強みをいかに最大限に引き出すことができるのかという点にも注力しています。

そのほか、ほぼ全社員を対象とした取得回数制限のない在宅勤務規程や、従業員満足度調査の定点観測など、シスコ社員が自律的に企業の利益を最大化するための仕組みが用意されていることが分かります。

どこからでも参加してもよいを可能にする技術の活用

シスコでは場所やツールに制限されず、いつでも・どこでも・だれとでも・どのようなデバイスからでも安全に仕事ができる環境を提供しています。

そして、技術を活用して仕事のパフォーマンスを最大化させることを目的としています。

例えば、在宅勤務や出張時には、外部PCやタブレット、スマートフォンから会議に参加することが可能です。

そのほか、新しいツールや技術を活用して従来よりも円滑な遠隔コミュニケーションが可能になっていると、宮川氏は述べます。

働き方改革で人事が行うべきこと

働き方改革がもたらす効果

宮川氏はシスコで行なった働き方改革の効果について、4つの結果が出たと述べました。

コストについては年間10億円の生産性向上効果、エンゲージメントは90%以上の社員が自社に対する誇りを感じ、お客様満足度、育児休業の復帰率も非常に高い数字を示しています。

第二部まとめ

冒頭に挙げた働き方改革のポイントに加え、実践する上で必要な考え方を宮川氏はこう説きます。

  • 導入目的の明確化…目的なき導入は必ず失敗する!!
  • トップダウンとボトムアップ双方向のアプローチ…全員参画型が鍵!
  • 一人ひとりの役割と期待値を明確化…自律を生む鍵!
  • 在宅勤務だけを働き方改革ととらえない!全員導入の原則!…社内外の働き方全てが働き方改革/育児介護の対応のためだけではない!
  • 最初から完璧を目指さない…まずは小さな経験をしてみるところから!その上で修正を加えていく(アジャイル)

働き方改革を成功させるためには、社員との信頼関係が何よりも大切であるため、人事はそれを生み出し、より強固にするための仕組み・プロセスを作っていくことが重要、と宮川氏は最後に述べました。

おわりに

今回のセミナーでは、人事は今後あらゆる世の中の変化に適応し、優秀な社員やリーダーを育成していく仕組みづくりをしていかなければならない、というお話が展開されました。

2020年に向けて、企業における人事の役割は、より広範囲かつ重要なものになっていくと思われます。

そして働き方改革は人事の問題だけでなく、社員一人ひとりが人事と共に話し合い、互いに自律的に生産性を最大化させるための仕組みを作っていくことが求められてくるでしょう。

本セミナーレポートが、人事課題に悩む方の参考に少しでもなれば幸いです。